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TPPは米国の本気度のリトマス試験紙 - 岡崎研究所

 9月19日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コラムニストのラックマンが、南シナ海での米比共同パトロールを中止するとのフィリピン大統領の発言やTPPの米議会承認が不透明になってきたことを受け、米国のアジア重視戦略は沈みかけていると述べています。論旨は次の通りです。

南シナ海を中国の湖にする

 フィリピンのドゥテルテ大統領は、米比共同海洋パトロールの中止を発表し、また、「中国は今や力を持ち当該地域で軍事的優越性を持っている」と述べた。これは米政府を困らせるだろう。オバマは、米国がアジア太平洋で圧倒的な軍事力を保有することを確約してきた。2011年の演説で明言し、その後、海軍のアジア配備を強化するとともに東アジアを定期的に訪問した。
ドゥテルテは、米国の覇権に挑戦した格好だが、同氏の米中軍事バランスの評価は疑わしい。米国は11隻の空母を保有し、中国は1隻しか持っていない。

 ここ1年、中国は南シナ海で人工島を建設し、南シナ海の9割に対する領有権主張を強固にしようとした。米国は中国の行動を直接止めることはできなかったが、軍事化する「島」の水域に艦船を航行させることにより中国の主張を拒否する立場を明らかにした。

 オバマ政権は南シナ海の重要性を強調してきた。ヒラリーは2011年の寄稿文で世界の物流の半分が南シナ海を通ると述べた。米国は中国が南シナ海を「中国の湖」にしようとしているのではないかと恐れている。

 米国は、南シナ海は国際法の問題であり権力闘争ではないと指摘してきたが、それは正しい。この法の支配戦略の中でフィリピンは極めて重要だった。7月にフィリピンは国際仲裁裁判で勝訴した。中国には大きな敗北だった。しかしドゥテルテが公然とオバマを侮辱し米国との共同パトロールを縮小するのであれば、オバマもフィリピンの法的権利を擁護し難くなる。日本は、米国と海洋パトロールをすると発表したが、日本との連携はこの問題が国際法の問題というよりも中国との権力闘争だとの印象を強めることになる。

 さらにTPPの問題がある。安倍総理は米議会でTPPの長期的な戦略的価値は莫大なものがあると述べた。安倍とオバマの思い入れにも拘らずTPPは救われないようだ。トランプもクリントンも反対している。オバマはそれでも任期中に議会を通そうとするだろうが、目下承認の可能性は小さい。

 TPPが失敗すればアジアの同盟国はひどく失望するだろう。最近訪米したシンガポールのリー・シェンロン首相は、TPPは米国の信頼性と本気度のリトマス試験紙だと述べた。
今、米国では長期的な思考は不可能だ。オバマは自分の最重要政策であるアジア重視戦略が太平洋の波間に沈むのを見ながら任期を終えねばならないという悲しい状況になっている。

出 典:Gideon Rachman‘America’s Pacific pivot is sinking’(Financial Times、September 19, http://www.ft.com/cms/s/0/12473188-7db4-11e6-8e50-8ec15fb462f4.html?siteedition=intl#axzz4L2NV3CK

 上記の論説は、沈鬱な評価ですが、今の現実なのでしょう。しかし、実際、米国のアジア重視戦略が沈みかけているとは思われません。国際関係は常に「何とか切り抜ける」他ないことが多くあります。ここ数年、アジアはその戦略のお陰で何とか均衡と安定を保ってきました。欧州などの国際社会も何とかアジア情勢の重大さを理解してきています。アジア重視戦略がなかったとしたら、中国の行動や振る舞いはもっとひどいものになっていたのではないでしょうか。

 フィリピンについては、心配が現実になってきたとの感があります。ドゥテルテ大統領による米比共同パトロールの中止は強く懸念されます。しかし注意をしながら、対比エンゲージメントの維持、強化を続けていくことが重要です。ドゥテルテの大統領任期は、弾劾などがなければ2022年まで続きます。幸い、ヤサイ外相やロレンザーナ国防相などは今のところ強固であるようなのが救いです。フィリピンも単独で対中外交が可能とは思っていないでしょう。対比経済協力も強化していく必要があります。

今年を逃せば、来年の批准は一層難しくなる

 TPPの批准を来年1月までの米議会の会期中に行うことは段々不可能になってきていると多くの人々が考えているようです。しかしオバマ大統領は、それを推進する立場を変えず、9月20日の国連総会演説でもTPPに言及しています。今年を逃せば、来年の批准は一層難しくなるでしょう。大統領選挙の興奮が終わり、米国が直面する課題について正気を取り戻し、来年1月までの間に議会が承認することが強く望まれます。

 貿易協定は常に米国の国内政治上大きな問題となってきました。それでも最後は何とかディールが行われ、議会の承認を得ることに成功してきました。NAFTA然り、米韓などのFTA然りです。厄介ではありますが、その時々の政権にとって何らの貿易課題を避けることは政治的にできません。次期大統領がクリントンになれば、国内実施法、関係国とのサイド合意等を通じてTPPを動かすことを容認するのではないでしょうか。

 他のTPP11カ国は米国議会承認を支援することが重要です。そのためには、先ずそれぞれの国内手続きを早期に進めることが大事です。それは米国による再交渉の誘惑を阻止することにもなります。日本による早期承認は大きな貢献になるでしょう。そして、11カ国が集団で米議会などに働きかけていくことも重要ではないでしょうか。関係国が単独で動くよりも11カ国が共同で行動する方が効果的です。11カ国が議会などに共同書簡を出すことも考えられます。

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