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特集:テレビ討論会後の米大統領選挙

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今週19日で合計3回のテレビ討論会が終わり、2016年米大統領選挙はいよいよ最後の直線コースに入りました。11月8日の投票日まで残り20日を切りました。

正直なところ、「大勢は決した」と言っていいと思います。ここから先、トランプ候補の大逆転はさすがに考えにくい。とはいうものの、それはクリントン政権の順風満帆な発足を意味するものではありません。同日に行われる議会選挙の動向は重要だし、その後の政治情勢がどんな風に展開するかなど、不透明要素には事欠かない。本号では少し踏み込んで、投票日以降を「決め打ち」で予測してみたいと思います。

●3度の”Debate”は不毛な戦い

「米大統領選オタク」を自認して久しい筆者ではあるが、大統領候補者のテレビ討論会を3度とも全部フルに視聴したのは今回が初めてである。それぞれ90分ずつ、合計で270分も見るとさすがに「お腹いっぱい」である。ちなみに3回の視聴方法は、それぞれ「テレビ、ネット、テレビ」であった。

第1回 ニューヨーク州ヘムステッド、ホフストラ大学(9/26)NBS
第2回 ミズーリ州セントルイス、ワシントン大学(10/9)CNN*タウンホール式
第3回 ネバダ州ラスベガス、ネバダ大学(10/19)FOX

御年70歳のドナルド・トランプ氏と、来週で69歳になるヒラリー・クリントン氏が、途切れることなく全力で辛辣な応酬を続ける。そのタフさには心から敬服するほかはない。

とはいうものの、政策に関する討議は限られたものであった。税制やオバマケアやシリア情勢などの問題を討議していても、すぐに個人攻撃に転じてしまう。そしてまたお互いに、相手を叩くネタには事欠かないのである。トランプ氏には「女性蔑視発言テープ」や「Tax Returnの未公開」などの突っ込みどころがあり、クリントン氏には「e-mail問題」「クリントン財団」などの弱みがある。見ていて何度もこんな感慨を覚えてしまった。

「共和党はマルコ・ルビオか、ジョン・ケイシックか、とにかく普通の候補者を立てておけば、ヒラリーが相手なら楽に勝てたのではないだろうか」
「民主党はこの8年間、皆がヒラリーに遠慮をし過ぎて若手の政治家がほとんど育っていない。このままでは次はミシェル・オバマの出番になってしまうのではないか」

「好感度調査」において、”Unfavorable”(嫌い)が”Favorable”(好き)を上回るというご両人だけに、「この人を是非、大統領に」という熱意はもとより薄い。むしろ「アイツだけは大統領にしたくない」という思いが、両候補を支持する動機となっている。となれば、より目立った方が負けるのは当然というもの。そしてこの1か月で、「悪目立ち」したのはトランプ候補の方であり、有権者からの「信任投票」に敗れつつある。

3回のテレビ討論会を前に、トランプ候補には2つの選択肢があった。ひとつは喧嘩を売るような姿勢を改めて政策を語り、”Presidential”なところを見せて支持層を中道から左に拡大すること。そしてもうひとつは、今まで通り「トランプらしさ」を打ち出して、コアな支持層を喜ばせるというものであった。

第1回目の討論会では、前者を志向した様子であった。ところが10月7日に「不謹慎発言」が表沙汰になった後は、後者に転じたように見える。だとすれば、最後の第3回討論会で司会者に「選挙結果を受け入れるか?」と聞かれたところで、「そのときになって考える」と応じたのも必然ということになる。ちなみに第1回討論会でトランプ氏は、同じ質問に対して「(ヒラリー氏を)絶対に支持する」と答えている。

熱烈なトランプ支持者たちは、おそらく「ヒラリー勝利」という現実を容易には受け入れないだろう。よほどの大差であればともかく、僅差の敗北であれば「選挙戦は仕組まれていた」と騒ぎ出すか、あるいは「党幹部たちがもっと真剣に応援していれば勝てたはず」と内輪もめになるか、いずれにせよ碌なことにはなるまい。

そこで敗戦後のトランプ氏がどうするかといえば、例えば右派メディアを設立して「ヒラリー新政権叩き」を続けつつ、それをビジネスにするといった筋書きが噂されている。ご両人の対決は、来年以降も繰り返されるかもしれない(個人的にはウンザリだが)。

3回の討論会中、ホッとした一瞬もあった。それは第2回討論会の最後のシーンで、客席から「あなたたちがお互いに、相手の尊敬できるところをひとつ挙げてほしい」という質問が飛び出したときであった。クリントン氏はトランプ氏の子どもたちを称え、トランプ氏は「彼女はファイターだ」と応じた。年を追うごとに分裂の度を深める米国政治において、久々に言論の国らしい成熟を感じた瞬間であった。できれば投票日の11月8日夜にも、そういう瞬間を期待したいところなのであるが。

●実は想像以上の大差になっている

3度のテレビ討論会を終えて、両候補の支持率はやや拡大している。とはいえ所詮はひとケタ台の差であって、いくらスキャンダルが飛び出したところでトランプ支持者には岩盤のような支持層がある。おそらく30%を割り込んで下がることはないだろう。

しかるにモノを言うのは全米の選挙人の数である。以下に掲げるのは、米大統領選予測において定評のある”Sabato’s Crystal Ball”(バージニア大学のラリー・サバト教授が運営している)による州ごとの票読みである1。エレクトラル・カレッジ方式で選挙人を数え上げていくと、以下の判定ではかなりの大差になってしまう。

○Crystal Ball Electoral College rating(10/20)


通常であれば、Toss-ups(激戦州)に分類されるオハイオ州(OH)やフロリダ州(FL)がライトブルー(Leans D)になっている。あるいは、典型的なレッドステーツであるはずのユタ州(UT)が激戦州に、アリゾナ(AZ)が民主党支持になっていたりする。まさしく地殻変動ともいうべき変化であって、ここ10年来の大統領選挙地図にはなかったような変化が起きている。

この局面からトランプ候補が大逆転を演じること、すなわち過半数の選挙人となる270以上を獲得することは、途方もない難事であることは間違いない。とにかくライトブルー(Leans D)の7州(フロリダ、オハイオなど大きな州を含む)を全部ひっくり返して合計94人の選挙人を得たとしても、267人でまだ過半数には及ばないのである。

ちなみに他の予想も2件ご紹介しておこう。

*RCP Electoral Map(10/20)2
Clinton/Kaine  272  Toss-ups  106  Trump/Pence  170
*Electroal-vote.com(10/20)3
Clinton/Kaine  350  Ties      18  Trump/Pence  170

2016年選挙はもはや「どちらが勝つか」ではなく、「どの程度の差がつくか」を考えるべきであろう。2012年選挙においては、現職のオバマ大統領が挑戦者ロムニー候補を「332対206」で破って「予想外の大差」と呼ばれた。来年1月20日にクリントン政権が安定的な船出をし、共和党内で分裂などの混乱が起きないためには、ざっくり350人以上の勝利が必要ではないかと思う。

「そうは言っても、今年は世論調査が当たらない」(Brexitを思い出せ!)、「トランプ支持者はメディアに対して正直に答えていない」といった懸念は当然あり得るところだ。しかし同じようなことは、「史上初の黒人大統領誕生」が騒がれた2008年選挙の直前にも言われていたのである。「データ重視」を旨としている本誌としては、現時点で「クリントン350対トランプ188」くらいの大差
を予測しておきたい。

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