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4人に1人の「自殺したいと考えたことがある人」たちを救う鍵は、“依存先”を増やすこと

若者の死亡要因1位が「自殺」は日本と韓国だけ

日本人の4人に1人が、過去に「本気で自殺したいと思ったことがある」。今年9月、こんな調査結果が公表され、大きなニュースとなった。調査は日本財団が、「WHO世界自殺予防デー」(9月10日)にあわせて全国の4万人超を対象に行ったもの。自殺に関する大規模な調査は過去にあまり例がなく、調査では5人に1人が「身近な人を自殺で亡くしたことがある」ことや、自殺未遂を経験した人が53万人以上にのぼるなど、深刻な結果が明らかになった。

1998年に年間3万人を超えた自殺者数は、ここ数年低下傾向が続いている。しかし若者に限ってはその割合が微増しており、18~29歳の死因で最も多いのは自殺だ。若年層の自殺率が際立って高いのは、先進諸国の中で日本と韓国だけであり、若者が抱える「生きづらさ」が浮き彫りになっている。

こうした状況を考えようと、9月29日、日本財団ソーシャルイノベーションフォーラムの分科会「自殺大国ニッポン――若者が生き延びるための作戦会議」に参加してきた。

今回のフォーラムでは、以前からお会いしたかった歌人の鳥居さんや、ひきこもりUX会議を主宰する恩田夏絵さん、NPO法人Light Ring.代表理事の石井綾華さんが一堂に会すると聞いて、ぜひ参加したいと思ったのだ。私と同じような20代~30代前半の彼女たちが、「自殺」や「生きづらさ」をテーマに何を問いかけるのか。満員の会場の中で、いちばん前に陣取った。

撮影:北条かや


「助けて」がうまく言えない

分科会は、ウェブマガジン「プラス・ハンディキャップ」の佐々木一成さん(85年生まれ)をコーディネーターに、3人の登壇者の自己紹介から始まった。

精神保健福祉士の資格を持ち、NPO法人Light Ring.代表理事を務める石井綾華さん(89年生まれ)は、自身も小学生の頃から周りの評価に悩み、摂食障害や自殺未遂を経験した過去がある。心の痛みは、誰にも相談できなかった。「1度心の病にかかると、寛解は難しい」と語っていたように、彼女も現在進行形で摂食障害と格闘しつつ、自殺を考える人の友人や恋人をサポートする活動を続けている。

ひきこもりUX会議主宰の恩田夏絵さん(86年生まれ)は、小学校2年の頃から不登校だった。最初に「死」を考えたのは13~14歳の頃。「私が不登校だった頃は、学校に行かない子供を『登校拒否』と呼ぶ風潮もあり、学校に行っていないから将来もダメなんだと思い込み、死ぬしかないと思っていた」(恩田さん)。彼女もまた、的確に「助けて」が言えなかったという。自殺を考える人の多くは「助けを求めるのが下手」で、「どうやって助けてもらえばいいのかわからない」。自殺は1つの出来事ではなく、さまざまな生きづらさが複雑に積み重なって起きる。個人的にもよく分かる話だが、うまくSOSを出せず、1人で抱え込んで自爆してしまう感覚に近いかもしれない。

恩田さんはその後、ひきこもりやリストカットなどを繰り返しつつ、最期の旅のつもりでピースボートに乗る。そこで様々な出会いがあり、死ぬのはやめようと決意。2010年には洋上フリースクール「ピースボート・グローバルスクール」を始め、ひきこもりの人たちの「フェス」も企画している。

「死にたい」と思ってもいい、どう対処するかが問題

最後に歌人の鳥居さん。裕福ながらも虐待の連鎖が続く家庭に生まれ、最初に自殺を考えたのは2歳のときだったという。その後、親の自殺や孤児院での暴力、ホームレス生活などを経て「短歌」に出会う。5.7.5.7.7.の31文字で思いを表現する詩の形は、彼女の生きづらさを多少なりとも救ってくれたのかもしれない。多くの文学賞を受賞し、「生きづら短歌会」や「虹色短歌会」など、歌会を通じて多くの人と語り合う活動を続ける。

壮絶な経験をしてきた鳥居さんは言う。「私がいなくなったら、みんなハッピーになると思っていた。自殺したいという思いはまだ乗り越えていません」。しかし表情は明るい。短歌に出会い、歌集を出し、歌会をするようになってから、「完璧な人間になるのを諦めたんです」という。歌会は、ネガティブな感情も共感しあえる場所。「マイノリティな自分でも許される空間」があることが、セーフティネットになるのではないかと話した。

「この前大学の講義に行ったとき、質疑応答で『鳥居さんはどうやって生きづらさを乗り越えたんですか?』って聞かれたんですよ。でも、『まだ全然乗り越えてないですよ』って。ただ、死にたいと思ってもそれに対処できればいいんじゃないかなと思うんです」(鳥居さん)

「自殺したい」をタブーにすることの弊害

撮影:北条かや
3人の経験談を受け、ファシリテーターの佐々木さんは「自立とは依存先を増やすこと、なんて言い回しがありますが、自殺対策も似たようなものかもしれない」という。

「自殺者を0にするため、全ての地下鉄にホームドアをつければ問題が解決するのか。『生きることは素晴らしい』というメッセージを皆が信じる社会が理想的なのか。それは現実的ではないし、本質を見逃している。『生きることは素晴らしい』なんて思えない人もいるし、安易に言えない。『死にたい』と思っても何とかなるように、依存できる先を増やすのが本当の『支援』ではないか」(佐々木さん)。

そうなのだ。今の日本社会はおそらく、生きづらくても「自己責任」で、「自殺したい」「死にたいほど辛い」と口に出すと「弱いヤツ」と叩かれる風潮すらある。先日も、過労死する直前まで「仕事がつらい、死にたい」とメッセージを残していた電通の女性社員に対して、「自分が起業したときには寝る間もないほど働いた、辛いのも普通だった」などと発言した大人がいた。

死にたいと思うことすら、「弱いヤツの言うダメなこと」と非難する社会は、一度でもつまづいた人の心をどんどん蝕んでしまう。自殺未遂や希死念慮、薬のオーバードーズなどを「失敗」とみなし、「自殺なんてすべからく非難されるべきこと」とみなす社会は、ある種の人たちにとっては理想的かもしれないが、当事者にとっては息苦しさを増す可能性もあるのではないか。「臭いものにフタをする社会」が、皆にとっての理想なのだろうか。

「『死にたい』と口に出すことで、自分の中の『生きたい』を確かめている」

恩田さんは、「こんなことを言うと誤解を生みそうだし、気をつけて発言しなければならないのですが」と前置きして、「そもそも自殺がそんなにいけないことなのか、という思いがある」と話した。「自殺したいと思うことも、人生の一部だと捉えて抱え込んでいくというあり方もあるのではないか」(恩田さん)

石井さんも続ける。「4人に1人が自殺を考えたことがある社会で、友人や恋人から『もう死にたい』という言葉を聞く人も多い。皆がそうかは分からないけれど、『死にたい』と口に出すことで、自分の中の『生きたい』を確かめている人もいる」

石井さんの発言には、支援者や当事者などが集まる会場が、大きく共感していた。鳥居さんも、「歌人の石川啄木だって、『生活が厳しい、辛い』とか『友だちが皆自分より偉く見える』とか、そういう思いを歌にしていた。太宰治もそうですよね。過去の偉人だってそんな感じなのに、私たちが『死にたい』って思っちゃダメなの?と感じることがある」と語る。

死にたいという思うこと自体を「失敗」とみなし、許さない社会。もしかしたら今の日本は、そんな息苦しい社会になっているのかもしれない。「どこまで追い詰めたら気が済むの?と思うことがあります」(恩田さん)。若者を含め、多くの人が「失敗してはいけない」と感じ、うまく「助けて」が言えないままに転げ落ちてしまう社会は、やはり歪んでいる。底が抜けている。

かといって何が正解かは分からないし、「自殺」をめぐる問題の答えはひとつではないだろう。しかし、私たち1人1人が寛容性――自分に対しても、他人に対しても――を身につけることが、そのヒントになると思う。

石井さんは、「自殺したいという人に対して私たちができることは、自分ができる範囲を伝え、可能な範囲で関わること、でも1人にはしないこと」だという。「SOSを受け止める環境を作っていくことが重要だと思うんです」(石井さん)。佐々木さんも続ける。「死んだらダメだと説得するより、共感すること。多様性の重要さが叫ばれていますが、それって相手の事実をきちんと理解して受容してあげることだと思うんです」。

数値目標で「自殺者ゼロ」を掲げるのはいいが、功罪はある。「辛い、死にたい」と思うことすら「失敗」とみなし抑圧する社会はきっと、さらなる生きづらさを生むだろう。一方で、支援の質を上げていくことはできる。誰かが死にたいと思ったときに、駆け込める場所や環境。その思いを受け止められる社会の空気を、なんとかして作り出してくこと。当事者にとっては、辛い思いを受け止めてくれる場所を探すこと。気の遠くなる話だが、互いに他者を受容し、「依存先をうまく増やして生きる」ことが、この社会のサバイバル術かもしれない。
[ PR企画 / 日本財団 ]

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