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経営者は「目標達成」の美名のもとに、現場の状況を見て見ぬふりをしているのでは?

昨年亡くなった電通の女性社員が過労死認定され、労働監督署が電通に抜き打ちで調査に入るなど、大きな社会問題に発展しています。

私もムダな、社員の健康や生活に害を及ぼす残業の強制には断固として反対ですが、今回の事件については、現場の上司や職場環境のみというより、むしろ電通という会社の経営者たちの経営に対する考え方そのものに根本的な問題があるような気がしてなりません。今回はその点について、考えてみたいと思います。

■売上や納期ノルマに勝てない時短・残業削減目標

東芝の粉飾決算の直接的原因になった「チャレンジ」という名前の売上目標。うわべだけを取り繕い、実態のない数字による目標達成と、それをわかっていながら毎年、現場の社員にチャレンジを課してきた歴代の経営者や管理職たちの理不尽すぎる無能さや、不正とわかっていながら堂々と異を唱えることができなかった臆病さには目を覆いたくなるものがあります。

問題の種類は若干違うものの、経営手法の誤りという点において本質的にはまったく同じことが今回の電通社員のケースにも当てはまるのではないかと思います。

具体的に彼女が働いていた現場で何が起こっていたのか、労働監督局の調査が公表されない限りは部外者に知る由もありませんが、報道やネットの情報で私が知りえた範囲では、この社員は顧客からもサービスの内容や請求金額についてクレームが出ていたネット広告事業部に配属され、少ない人数の中、通常では考えられないような勤務時間の仕事をこなしていたようです。

残業と労働生産性の関係について、週50時間以上働いても仕事の生産性は上がらないどころか、週63時間以上働くとむしろ下がると言われています。そこで、多くの企業ではノー残業デーを実施したり、会議時間短縮や残業申告制など、あの手この手の工夫をこらして残業を減らし、勤務時間内で最大の生産効率を上げるように挑戦していますが、マスコミに取り上げられるような残業削減対策に熱心な企業でも、実際にそこで働いている社員たちに聞くと、こと売上や納期などの「目標達成」が入ってくると、いきなり経営者たちが見て見ぬふりをしている現場も少なくないようなのです。

■複数の「目標」が相反するとき

残業の削減について、伊藤忠商事社長の岡藤正弘氏がダイヤモンド・オンラインでこんなことをおっしゃっています。

「稼ぐ」は、社員が伸び伸びと働き、稼ぎを増やすための方策。「削る」は無駄を排して仕事を効率的にする方策。そして「防ぐ」は、事業リスクをミニマイズし、安定した収益構造を築くための方策だ

岡藤社長は繊維カンパニー出身で、社長になられる前から旧態依然とした業界に現れた革新的な商社リーダーとして、業界紙などでの発言に注目していましたが、決して今風のドライでイノベーティブな経営者というより、昔ながらの「商人」という性格が際立った方だという印象を強くもっています。そのため、このように「三方良し」の精神に通じるような経営哲学が出てくるのだと思いますが、問題は、この3つの方策が相反したときです。

例えば、「稼ぐ」ために、長時間の残業をこなさなければならないときにはどうするのか? そのときに岡藤社長が考え出したのがいかに社員に残業させずに短時間で効率的に仕事を終わらせるかという方策です。

このインタビューの中で岡藤社長は、深夜までの残業は当たり前の「不夜城」と化していた現場を朝型勤務にするために、管理職の8時出勤からまず手をつけ、その後、5時からの勉強会参加者には深夜残業と同じ5割増手当をつけたり、軽食を用意するなど、インセンティブを与えて自主的に参加する社員を増やすといった試みを紹介されています。

このような環境では、「目標達成のためにはこのくらいの残業はして当たり前」とか「みんなが残業しているのに1人だけ先に帰れない」というような圧力は生まれてきません。逆に、それを経営側が何もせず、売上や納期ノルマと、残業削減して生産性向上という、放置しておけば相反する目標を現場に丸投げしているために、さまざまな問題が起こってくるのではないでしょうか?

実際に、ある上場企業の小売店舗の店長からは「残業が多くなりすぎると自分だけでなくスーパバイザーなど上司も減給や降格処分になる。でも売上目標は達成しなければならない。だから、自分もスタッフも上司にみつからないように非常に気をつかいながらこっそり残業している」という話を聞いたことがあります。

これでは、結局、残業が減るどころかむしろサービス残業が増えるだけ。特に、今回の問題が起こった電通や、粉飾決算の東芝、岡藤社長がさんざん批判を受けながら働き方改革をした伊藤忠、上記の某上場企業など、「一流」と呼ばれて賃金も高く、社員が簡単に退職できない(したくない)企業こそ、経営者に「多少長時間労働したってそれに見合うだけの給料を払っている」という慢心が生まれやすいのではないかと思います。

■現場レベルでは解決できない過剰残業問題

ただでさえ日本には、昔から「粉骨砕身して仕事に身を捧げる」のが正しい働き方であり、会社員としての美徳である、という文化がありました。また、その伝統にのっとって(?)、「100時間残業など当たり前」と、家庭やプライベートをも顧みない「企業戦士」にならなければならない、という妄執が未だ一部では幅をきかせているようです。

しかし、そんな働き方を社会全体が強要してきた結果として、「過労死」という最悪の事態が繰り返し起き、また、健康を害したり家庭が崩壊してしまうサラリーマンも後を絶ちません。

このような悪しき働き方をまっとうなものに変革し、「成せば為る」というような無謀な精神論を排除し、時宜に応じて変えるべき目標値や経営手法をきちんと変えることができる経営者の意識変革こそ、今後の働き方改革に求められているのではないでしょうか。

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