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ガラパゴス化する食の安全、農産品輸出を阻む規格 - 井上久男 (ジャーナリスト)

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顔が見える人が作った農産物は安心」。日本人のこの感覚が、海外では通用しなくなりつつある。無数の農産品「規格」が国内にはあるが、世界に通用するものが1つもないのが実情だ。

 大手流通イオングループの農業法人、イオンアグリ創造は2009年に設立され、全国19カ所に農場を持つ。その1号である茨城牛久農場。トマトや小松菜などを栽培している。そこを訪れると、まず農場に入る者は入場時間や氏名、所属などを書かなければならない。出荷場の蛍光灯には、万一破損した際に異物が混入しないようにフィルムが巻かれていた。

 そのほかにも、取り間違いがないように道具を置く場所を明示している。農薬散布の準備をしている部屋では、使って良い回数、薄める倍率、どの作物に散布するかなどをチェックし、それを作業指示書としてプリントアウトして2人の作業者が確認するようにしている。何時に誰がどんな作業をしたかが分かるようにあらゆる仕事が記録として文書で残されている。

 この農場は「グローバルGAP(適正農業規範)」と呼ばれる国際的に認知された認証規格を保持しており、そのルールに則った運営がなされている。栽培履歴を管理しやすいように作業内容の記録を小まめに残しておくことなどが特徴の国際的な認証規格で、有害物質や異物混入など安全面で危害が発生するリスクを最小に抑えるための管理手法だ。多くの要求事項と厳格な運用規則で構成されている。


欧州を中心に124カ国で広まる国際認証。農産物輸出の「パスポート」になりつつある

 この手法の利点の一つは、仮にトラブルが起こっても、その原因を究明しやすくなることだ。そして作業場には必ず救急箱を置かなければならない。これは経営側が従業員の安全に配慮する姿勢を問うている。

 同社品質管理室長の岡和美氏は「グローバルGAPの目的は、従業員を働きやすくし、業績も上げていくための仕組み」と語る。同社は直営農場だけではなく、生産を委託する契約農家に対してもグローバルGAPの取得を16年度から義務付けたばかりだ。

ウォルマート、カルフール大手流通が求めるGAP

 グローバルGAPでは経営者が従業員を採用する際の経歴チェックも求める。これは、日本でも3年前にアグリフーズ群馬工場(当時)で生産していた冷凍食品に従業員が意図的に農薬を混入させた事件が起きたように、世界の流通関係者の間では「フードテロ」行為への懸念が高まっているからだ。

もし農産物の栽培過程にテロリストが紛れ込んでいれば、いとも簡単に野菜に毒物を混入させることができる。このために最低でも従業員の経歴くらいは確認して雇うことが世界の常識になりつつある。ところが、日本では外国人技能実習生が農家に入ってきても農家自体が経歴を確認して雇っているとは言い難いのが現状だ。断っておくが、これは外国人への偏見ではない。あくまでもリスク管理の問題だ。

 この「グローバルGAP」とは、消費財流通で世界最大の業界団体「TCGF(ザ・コンシューマー・グッズ・フォーラム)」の食品安全部会「GFSI(グローバル・フード・セイフティ・イニシアティブ)」が認定する9つの認証の一つである。他の認証には「FSSC22000」や「SQF」などがある。

 GFSIには、カルフールやウォルマート、ネスレなどの大企業が加盟。その売上総額は300兆円近くある。最近ではアマゾンが加盟した。特に青果物や野菜は、グローバルGAPがなければ、欧米市場では大手流通が調達しない傾向が強まっている。

 ところが、全世界でグローバルGAPを取得している農場は約16万あるものの、日本はわずか400程度。普及が進まない主な要因は、認証の維持管理コストが高く小規模農家が負担を嫌うことや、農家のリスク管理に対する意識が低いことにある。世界の潮流に乗り遅れていることは否めない。

 GFSIで理事を務めるイオン品質管理部の岸克樹部長は「世界の市場は、味などの品質は競争分野だが、安全は非競争分野と捉えて連携協力が進む。GFSIが農産物や食品管理についてのデファクトスタンダードを決めている」と説明する。

 端的に言えば、GFSIが認めた認証を持っていなければ、いくら「美味しいものを作った」と胸を張っても、世界市場では通用しないということだ。たとえるならこれは、日本の柔道が本家本元と言っても、世界の柔道の試合では、なかなか優位にたてないことと構図が似ている。


GAPの種類 出所:農林水産省の資料を基にウェッジ作成
(注)GFSI (Global Food Safety Initiative)とは、2000年にグローバルに展開する小売業者・食品製造業者等が集まり、食品安全の向上と消費者の信頼強化に向け発足した団体。食品安全リスクの低減とコストの最適化を目指し、多数ある食品安全認証スキームの標準化等の取組を行っている。
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GAPの種類別導入状況
出所:農林水産省の資料を基にウェッジ作成
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 日本にも「JGAP」などの日本版GAPが存在する。しかし、GFSIはそれらを認定していない。その主な原因は2つある。1つは、規格やルールなどを決める国際会議の場で発言力が弱いこと。もう1つは、これまでの「JGAP」は審査の運用基準が甘いことだ。たとえば、「グローバルGAP」では運用状況を審査する会社をさらに「審査」する認定組織があって二重にチェックされるが、「JGAP」の仕組みでは認定組織による審査会社へのチェックがなく厳格な第三者認証になっていない。さらに、日本では審査すらないGAPも存在しているという。

 食品業界のリスク管理に詳しいコンサルタントは「各自治体や農協単位のGAPが乱立しており、いずれも第三者による審査を受けていなかったり、運用規則がなかったりして、到底世界に通じる水準にない」と指摘する。要は、日本版GAPは「ガラパゴス化」しているのだ。

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