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躍動する少年と家庭の複雑性、少年院運動会を見て

少し肌寒さはあるが、晴天に恵まれた今日。東京都八王子市にある多摩少年院にて「平成28年度大運動会」が開催された。少年院を退院する少年たちに支援団体としてかかわらせていただくご縁から、毎年、運動会見学のお誘いをいただいている。多摩少年院にいる多くの少年にとって運動会参加は一回限りだそうだ。一年を越えてここで矯正教育を受ける少年がほとんどいないことが理由である。

現在、多くの民間企業や研究者などとともに複数の少年院や少年鑑別所でスタディツアーを行い、官民協働の可能性を模索しつつ、協働を支える法律などを勉強している。このヤフーニュース個人でも、何度もツアーに足を運んでくださっている東京工業大学の西田亮介先生が概況などを書いてくださっている。

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私が多摩少年院の運動会を観させていただくにあたり、最も考えさせられる演目が「保護者参加競技」と「昼食会・集団面会」である。少年たちが少年院に来るまで、そして少年院から出るまでの期間は概ね一年を越える。

つまり、通常の面会の機会を除き、保護者や家族が子どもと会える機会は著しく制限されている。しかも、面会室は互いに座って話をすることから、子どもの心身の成長を目の当たりにすることは難しい。10代は数か月みないだけでも身体つきが変わる。そんな成長著しい時期、保護者がわが子の「動く状態」を見ることができ、制限の少ない形でコミュニケーションを取りながら食事をともにすることができるるのは運動会という機会くらいしかない。

そもそも、少年院にいる少年たちの家庭は複雑である。実父母が揃っている割合は男女とも3割前後で、母子家庭の割合の方が多い。

今年の「保護者参加競技」は、少年が風船を膨らませ、家族ゾーンまで走って来て、家族の誰かと背中合わせで両手の肘をそれぞれ掛け合わせ、身体の間に風船を挟む。そしてグランドの中央までそのまま移動して、風船を割る。その後、家族ゾーンまで一緒に戻り、少年は家族と離れてもとの場所に戻っていく。

最初、法務教官が見本を見せる。少年役の教官はわざと大げさに「おとうさーん」と叫ぶ。その声を聞いた父親が登場し、久しぶりの再会に強く抱きしめ合う。その後、風船を背中で挟みあい、コミカルな動きで移動し、風船を割る。戻るときには手をつなぎ、スキップをしながら、笑顔で戻っていく。「大げさに」と言ったが、誰にもわかりやすく、笑いを誘うべく大げさに振る舞う。

そして、実際に競技が始まると少年たちは次々と家族ゾーンに向かい、家族を探す。

ある少年は満面の笑みで家族のもとに駆け寄る。そして父親と抱擁し、笑顔で所定の位置へ移動。風船を割ったあと、肩を抱き合い何かを話しながら家族ゾーンへ戻って来た。10代らしい笑顔だ。父親の表情も久々の息子との再会に笑顔がはじけている。

別の少年は、法務教官のように大きな声で「おかあさーん」と叫んだ。恥ずかしさで感情を抑えてしまいがちな少年たちのため、法務教官がとったオーバーな見本の意味に気が付いた。そして近づいてきた母親に、大きな身振り手振りで駆け寄り、楽しそうに会話をしている。その安心した表情は少し長く家に帰ってこなかったお母さんと再会した園児や小学生のようでもあった。母親と小学校低学年くらいの弟が出迎えた少年は、何やら話し合って背の丈が合わない小さな弟と風船を運び、抱っこして家族ゾーンへ。

家族といっても実父母、または、そのどちらかがいる少年ばかりではないのだろう、祖父と思しき年齢の離れた男性が迎え出たこともあれば、親子というには年齢は近く、おそらく、姉とみられる女性ひとりで出迎えているケースもある。外国にルーツがあると思われる母子の姿も見られた。

すぐに身体を密着させられる親子、互いに遠慮してうまく移動できない親子、満面の笑みで会話する親子、どちらも涙を流しているように見える親子、積極的に会話する祖父母や、誰が競技に参加するかを譲り合っている家族の姿があった。さまざまな競技や出し物があり、対抗戦としての競技得点があり、音楽や号砲など、中学や高校の運動会と変わらない風景のなかでも、少年たちがおかれた家族の複雑性が、少年院運動会にはあった。

少なくない数の少年は、出迎える家族や親族が不在だった。理由は知りようもないが、周囲の少年が久しぶりに家族との再会を果たすなか、彼らは何を思うのだろうか。出迎えのない少年は、膨らませた風船を持って法務教官のもとへ行く。法務教官も大きな笑顔で子どもたちを迎え、そして実の家族であるかのように背中で風船を挟み、あえて大げさな動きで移動、風船を割って家族ゾーンに帰ってくる。笑顔の少年もいれば、感謝の意を表した動きをしながらも表情はあまり変わらない少年もいる。

いまや家族の在り方は多様となり、複雑な家庭事情のもとにある子どもたちは少年院の少年に限らない。しかし、なぜ私の目の前にいる少年はこの場所におり、同じように複雑な家庭下であっても、この場所に来ることがない少年がいるのだろうか。その分岐は何によって生まれるのか。

家族という形はあっても、そこには家族の営みのない、社会的に孤立した子どもたちがいる一方、少年院という場所では法務教官や法務技官など、矯正教育という目的を有しながらも、24時間365日、子どもたちの将来を考え、真剣に付き合う大人に囲まれる子どもたちがいる。子どもの成長に「他者を信頼できること」の育みが重要であるとするならば、どちらが子どもにとってよい環境なのだろうか。

昼食時、家族ゾーンからもっとも離れた場所に大きなブルーシートが敷かれ、少年たちが一定の間隔で座っている。法務教官が家族ゾーンからお弁当を持った家族や親族を少年たちのもとへ誘う。保護者参加競技のおかげだろうか、その足取りは非常に軽やかに見えた。

多摩少年院の子どもたちは一年ほどこの場所で過ごし、社会に戻ってくる。そして、社会の側にいる私たちはどのような表情と態度で彼らを迎え入れられるだろうか。

いま、少年院および少年鑑別所は、未来に向けてその存在を社会に開こうとしている。スタディツアーを何度か開催して思ったこと、それは、「少年院に一緒に行ってみませんか」という声掛けに対して、非常に多忙とも思われる方々であっても、最優先に日程を調整してくれることだ。そして、初めて見る施設内、少年たちの生活、そして少年たちの実情と少年たちの表情知り、何ができるかとともに悩んでくれる。社会は無関心ではない。ただ、そこには少年たちのおかれた複雑性とともに、私たち自身の感情もまた複雑性を持って、次の一歩をどこに踏み出すのかを悩ませるのだ。

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