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英国をEUに留まらせる秘策 - 岡崎研究所

 英フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのギデオン・ラックマンが9月12日付同紙に、EUを政治統合を目指す諸国とそうでない諸国の二階層のEUに作り替えることを提唱し、そうすれば英国は第二階層に入り込むことによって離脱を回避出来る、とする論説を書いています。要旨次の通り。

二階層のEU

 英国を除くEU首脳はブラティスラバで英国の離脱問題を話し合い、ドイツのガブリエル副首相は英国に「いいとこ取りは認められない」としている。このアプローチは感情的、政治的には理解出来るが、間違いである。英国の離脱を脅威と捉えるのではなく、離脱交渉をEUが当面する多くの問題に対処する機会と捉えるべきである。

 高い水準の政治統合を面白く思わない国は英国のみではないことが今や明らかである。先週、ヴィセグラードの4ヵ国(ハンガリー、ポーランド、スロバキア、チェコ)は幾らかの権限の加盟国への返還を伴うより緩やかな結合を要求した。英国の離脱交渉は二階層のEUを創出する機会に利用されるべきなのである。第一階層の諸国は「さらに緊密な連合」に向けて政治統合を推進する。第二階層の諸国は単一市場への参加と外交安全保障政策での協力にとどまる。

 このアプローチは連邦主義者と欧州懐疑派の双方の都合を充たし得る。政治統合に対する懐疑の感情は拡散している。反連邦主義者にはヴィセグラードの4カ国だけではなく、恐らくアイルランド、オランダ、スウェーデン、デンマークも数え得る。これら諸国が第二階層を選択すれば、ドイツ、ベルギー、イタリア、スペイン、そして、おそらくフランスは、統合の深化を推進出来る。

 二階層の構造とすることにより、EUはその最も重要な使命を遂行し続けることが出来る。それは単一市場の維持と世界の舞台における欧州の利益の発現である。二階層構造は英国離脱の問題を解決する。何故なら、英国は離脱するのではなく、第二階層に容易に入り込めるからである。いずれはスイス、ノルウェー、トルコ、ウクライナさえも第二階層に参加するかも知れない。

 もちろん、いずれの国がどちらの階層に属するか?フランスはどちらか?法的権限をどう分割するか?ユーロを採用する国が第二階層に属し得るか?など詳細は問題である。

 人の移動の自由も敏感な問題である。英国が最早人の移動の完全な自由を受け入れ得ないことは明らかである。他にも何らかの制限を望む加盟国がある。オランダは移民急増の場合の「緊急ブレーキ」を欲している。フランスは他の加盟国の企業の従業員の待遇がホスト国の水準に満たないことを許容するEUの規則の廃止を要求している。問題は、西欧では人の移動の自由に対する制限が反連邦主義者の重要な要求であるのに対し、東欧の反連邦主義者はこの自由の維持を枢要な国家利益と見做していることである。しかし、交渉の余地はいくらもある。一つの可能性はオランダの「緊急ブレーキ」のアイディアを採用すること。もう一つは労働の移動の自由と人の移動の自由を明確に区別し、EUにおける完全な労働の移動を認める一方、移住は職を持つ者に限定することであろう。

 ブリュッセルの政治支配層は以上の提案を危険な異端の説と見做すであろう。彼等はEUの現存の権限にしがみつき、欧州を離脱することの愚行を証明しようとする。しかし、EUをアルカトラズ島の如くに扱うことは――逃げ出そうとする人間は酷い目に合う――結局は好ましい方法ではない。それよりも英国の苦情のある部分は広く共有されていることを認めることが遥かに好ましい。現在の構造をあらゆるコストを払って維持しようとするよりも、新たな二階層のEUを設計すべきである。

出典:Gideon Rachman,‘A two-tier model to revive Europe’(Financial Times, September 12, 2016)
http://www.ft.com/cms/s/0/2b113d6c-76a2-11e6-bf48-b372cdb1043a.html#axzz4K5sjxpde

 面白い論説ではありますが、筆者自身が認めるように異端の説です。統合の理念の問題として、二階層のEUを採用することの是非があります。既に、ユーロとシェンゲンのように速度の異なる統合が認められてはいますが、その領域は限定されています。そもそもドイツ、イタリア、ベルギーなどの諸国に政治統合にむけてひたすら前進しようという意図があるのかどうか疑問であり、これら諸国に二階層の構造に作り替えねばならない動機が欠如しているように思います。また、実際問題として、既に複雑なEUを二階層に改造する作業が可能なのか、改造したEUが機能するものか疑問に思われ、現実的な選択肢とは思えません。

EUこそ改造すべき

 見方を変えれば、この論説は英国を離脱させないために、英国の都合に合わせてEUを改造するよう提案するものです。確かに、英国にとっては単一市場と外交安全保障政策での協力さえあればそれで充分で、残りはいらないということでしょう。しかし、ヴィセグラード4ヵ国とて、そこまで欲しているわけではないでしょう。EUに権限が集中しているとしてこれを喜ばない雰囲気は英国にとどまらず拡散している、という筆者の観察は恐らく正しいのだと思いますが、そうであれば、EU全体として加盟国への余計な介入を避けるという方向に動くでしょう。

 筆者は英国にEUを離脱させたくないのだと思いますが、そうであれば、このような大袈裟な提案をせずとも、人の移動の自由の原則は維持しつつも、移民急増の場合の「緊急ブレーキ」の仕組みをEUに認めさせ得れば、残留の途が開けるのではないかと思います。

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