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チートは敗北への最短ルート

 人気RPG「ドラゴンクエストX 」(以下、DQX)で、不正なデータをサーバーに送る、いわゆる「チート行為」により、作りづらい星3の武器などを不正に得ていたとして、4人が私電磁的記録不正作出容疑などの容疑で書類送検されたという。(*1)

 DQXは2012年8月からサービスを開始した、「ドラゴンクエストシリーズ」の正式なナンバリングタイトルである。

 僕自身も発売の数週間後からプレイを始め、一時期遠ざかったことなどありつつも、今も遊んでいるゲームである。

 さて、現役のDQXプレイヤーとして、少し報道のおかしな部分を訂正しておきたい。報道では「本来は数万分の一の確率でしか手に入らないアイテムを大量に入手」とあるが、実際に彼らがチートを利用して手に入れていたのは、作りづらい「星3の武器」である。

 星3の武器自体は慣れたプレイヤーであれば50%程度の確率で作成できる(*2)そうだが、今回書類送検されたプレイヤーたちは、この武器をそれを大きく超える、ほぼ100%に近い成功率で作り続けていたという。「数万分の一の確立」というのは、ほぼ100%で作り続けられる確率が数万分の一ということが誤解されたのだろう(*3)ということである。

 DQXには「職人」というシステムがあり、プレイヤーは自分たちで武器や防具を作ったり、作った武器に特殊な効果などを付与することができる。  職人は現在8種類あり、プレイヤーキャラクター(以下、PC)はそれらの中から1つを選ぶことができる。

 基本的には道具職人PCが武器や防具などの鍛冶に必要な道具を生産してそれを他の鍛冶職人PCに売り、それを買った鍛冶職人PCが道具を使って武器や防具を生産してそれを錬金職人PCに売り、それを買った錬金職人PCがツボ錬金やランプ錬金を行うことによって、最終的にさまざまな効果が付与された武器や防具が生産される。それを多くのPCが買って装備することによって、強敵に挑んでいくという流通サイクルとなる。

 今回の事件で発表されているのは、このうちの「武器鍛冶」を利用したチート行為である。ここで武器鍛冶が大成功したときだけに得られる「星3の武器」を不正なデータを利用して何個も作り、錬金職人に売りさばいた(買い手の錬金職人には、それが不正で作られた武器であることは分からない)ことが問題になっているのである。今回の容疑者たちは、売りさばいたお金で、良い効果のついた強い武器や防具を手に入れていたと考えられる。

 オンラインゲームで、一部のプレイヤーがお金を増やすチート行為が問題になるのは、その行為によって多くの人たちが不利益を押しつけられるのみではなく、さらにはゲーム内経済が混乱し、運営に支障をきたす可能性まであるからである。

 もしこれがオフラインのゲームで、それをプレイしているプレイヤーが不正にお金を増やすだけなら、何の問題にもならない。改造コードで所持金を999999Gあたりの上限まで増やしたところで、そのことが同じゲームをプレイする、他のプレイヤーの不利益になることはない。プレイしている本人にとって、そのゲームはつまらなくなるかもしれないが。

 一方で、オンラインゲームの場合、ゲームで流通するお金は、ゲーム内の世界では実態を持つお金として扱われる。そこには現実とは違うものの、経済がある。不正なデータで運営側の想定以上に強い武器が大量に市場に流れることになれば、その武器の価値は下落する。すると、同じ武器を正当な手段で一生懸命に作ったプレイヤーは、損をすることになる。

 武器を作るためには道具職人から買った鍛冶用の道具の他に、フィールドなどに落ちていたり、特定の敵を倒したり、武器や防具を使い込んで得ることができる様々な「素材」が必要となる。この素材もPC間で売買されており、ゲーム内経済の影響により値段が上下する。武器の値段が下がるということは、その武器を作るために必要な素材も売れなくなり、その値段も下がるということである。

 少なくとも、現状を見るにドラクエの経済は日本経済と違って堅調である。一部アイテムや素材の価値が乱高下することはあるが、全体としては、プレイヤーはゲームをプレイするごとに少しずつ儲けを得られるようになっており、健全な成長を維持できている。もし、そのような経済体系が混乱し、普通のプレイヤーがいくら素材を拾ったり、いくらモンスターを倒したり、いくら武器を作っても儲かるという実感がないようなゲームになってしまえば、プレイヤーはどんどん離れてしまうだろう。

 今回のチート行為が実態として経済に影響を与えることはなかった(*2)ようだが、チートがはびこれば堅調な経済は崩壊させられ、DQXというオンラインゲームそのものを維持できなくする可能性すら孕んでいる。今回のチートはそんな悪質な行為なのである。運営側が厳しく対応するのは当然のことと言えよう。

 あと、僕には「ゲームを有利に進めたかった」という、容疑者の供述には疑問が残る。なぜならDQXはゴールドがたくさんあれば、有利なゲームというわけではないからだ。

 もちろん、先ほど説明した武器や防具の流通サイクルにより、多くのゴールドを持っていれば、大成功がたくさんついた、いい武器や防具を持てることは確かである。ただ、その増加分はプレイヤースキルの巧さなどを打ち消すことができるほど大きなわけではない。

 「エンドコンテンツ」と言われる、一部のプレイヤーが挑戦するような強いボスであっても、決してすべて大成功で、理論的に最大値である武器や防具がなければ倒せないということはない。

 DQXは武器や防具の他にも、アクセサリー合成や、邪神の宮殿といった、ゴールドでは取得できないアイテムを得たり強化することができるコンテンツもあり、多くのプレイヤーはこうしたコンテンツを地道に何度も繰り返すことによって、自キャラのステータスをあげている。

 強い武器や防具は他のプレイヤーからの羨望の的にはなっても、決してゲーム上有利なわけではないのである。

 世の中にオンラインゲームはたくさんある。中には上手い人が下手な人を罵ってしまうような、殺伐としたオンラインゲームもあると聞く。

 しかし、DQXは「ドラゴンクエスト」というタイトルの性質として、プレイヤーの年代もゲームスキルの幅も広いゲームである。

 実をいうと、僕はエンドコンテンツをまったくプレイしていない。先に書いた邪神の神殿は一回も行ったことがないし、特に説明しないが、ダークキングあたり至っては当面、行くつもりはない。しかしそれでも4年以上遊び続けるくらいには楽しく遊べている。ゲームを有利に進めたいという気持ちは分からなくもないが、有利や不利以前に、楽しく遊べなくなったら意味がないのである。

 オンラインゲームの勝者は「楽しく遊んだ人」であり、強い武器防具を持った人ではない。そのことを今回書類送検された人たちは忘れてしまっているのではないか。

 確かに、強い武器や防具を持って、羨望のまなざしを浴びるのは気持ちがいいだろう。それが不正で得たものである以上、羨望のまなざしは、蔑みの目に変わってしまった。彼らは今後、オンラインゲームを楽しむことはできるのだろうか?

 少なくとも今回、送検された容疑者たちは、間違いなくオンラインゲームの敗者であると言えるだろう。

 チートはいずれバレる。チートは敗北への最短ルートでしかない。

*1:ゲーム不正:チート行為横行、摘発進む 少年ら書類送検(毎日新聞)
*2:不正行為および、それを拡散する行為について(DQX 目覚めし冒険者の広場)
*3:『ドラゴンクエストX』アイテム不正入手 チート行為で書類送検(ファミ通.com)

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