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「わさびテロ」事件と筒井康隆の断筆騒動 

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にぎやかな未来 (角川文庫)

大阪のなんばの寿司店で、韓国人にわさびを大量に入れて提供していた件が韓国で話題になったのはしばらく前。韓国人差別ではないかというものである。

その後に、実際に韓国人や中国人がわさびの増量を要望する客が多いということがわかり、それを考えた店側が一種のサービスのつもりで、全ての韓国人に(おそらく中国人にも)、わさびをたっぷりと入れていたのが実情なのではないかという見方になりつつある。もちろん実際には、言葉が通じないゆえの無愛想な接客と相まって、日本文化に常々触れていて、日本語もわかり、来日経験豊富な韓国人には差別的と感じられるシーンもあったのだろう。ただしここはあくまでもブラックボックスであり、実際にどのようなことを店側が行っていたかはわからない。

難波の「韓国人差別」と釜山の「日本人差別」

以前、自分は似たような話を調べたことがある。それは全く逆の話で、韓国で日本人が差別行為にあっているという話である。アルピニストで、現在は様々な社会活動もされている野口健氏が、釜山のサウナで日本人だからということで入湯拒否にあったり、街中のタクシーでやはり日本人だからと乗車拒否にあったという話だ。

→(1)野口健氏「韓国のタクシーで反日差別」告白の信憑性を探る
→(2)野口健氏「韓国で日本人差別」はどこまで本当か…釜山で現地取材

この「わさびテロ」事件のあと、やはり大阪のなんばの道頓堀あたりで韓国人だからという理由で暴行をうけたという話を聞き、さらにこのことを思いだした。

韓国のテレビ局の報道によると、父親と道頓堀に来ていた韓国人の13歳少年が、突然何者かに後ろから蹴りをされた、という話である。これがどうやら韓国人観光客に対するヘイトクライムでなはいかということだ。

これが本当のことであれば酷い話であるが、言葉が通じない異国では様々なトラブルがあり、野口氏と同じく、そのトラブルをいかようにでも「差別」と結びつけることはできるからである。野口氏の場合は、その背景に竹島領有権などの日韓のトラブルがあり、難波で暴行を受けたという少年の話には、先にあった「わさびテロ」の話があり、それぞれこれらとオーバーラップしてしまっている可能性があるのである。

いずれにしても、良かれと思ったという店側の話をそのまま受け取るとてしも、それが「差別」として認識され、さらには連鎖的な反応を引き起こして、さらに事態が悪化するというのは、日本社会にとってもよろしくないことだし、当の韓国人にとっても気分は悪いことだろう。

この件について、以上のようにつらつらと考えていたところで思いだしたことがある。

忘れやすい日本社会であるし、もう20年も前のことになるので、何かの参考にとまとめておこうと思う。それはてんかん患者が差別的に扱われているということで作品と筆者が非難の対象となり、それを巡って一時期大変な騒動になった「筒井康隆断筆騒動」である。

差別か管理社会批判か -筒井康隆断筆騒動

何かの参考になるかと思うので、この件の概要をプレイバックしてみよう。

SF作家 筒井康隆氏が書いた短編作品『無人警察』が角川書店の国語教科書に掲載されることになった。ここにあるてんかん患者に対する表現が「差別的」であるとして、日本てんかん協会から抗議をうけ、さらには筒井康隆氏の身辺にまで抗議が続き、結果として角川書店は教科書への掲載をとりやめ、それらの騒動に嫌気がさした筒井康隆氏が、作家としての活動を辞めるとして「断筆」した一件である。

問題となった『無人警察』は、現在でも読める作品である。短編(『にぎやかな未来』 (角川文庫) 所収 )であるので、興味がある方は一読願うとして、簡単にプロットはこんな感じである。

超管理社会になった未来ではロボットが警察の役目をしている。それにつきまとわれる主人公は、自分がなにか犯罪を犯しているのではないかと疑心暗鬼となる。ロボットは脳波を測定して、犯罪者を特定するからだ。さらにロボットは飲酒運転や運転中のてんかん発作の症状をも特定してしまう。しかし、自分は飲酒しているわけでもないし、ましてや運転するしていないし、てんかん患者でもない・・・なのになぜ?

この文章が、てんかん患者を取締りの対象としている世界を描いているため、てんかん患者を蔑視し、あたかも犯罪者のように描いており、偏見を助長するというのが、日本てんかん協会の主張である。

断筆宣言への軌跡 (カッパハードカバー)

ところが、この短編を読めばわかるのだが、この作品は、てんかん患者をロボットが取り締まるような社会を未来的な管理社会として批判的に描いた作品なのである。

しかし、その弁明は受け入れられることなく、こうして、日本で最も有名なSF作家のひとりである筒井康隆氏が長い「断筆」と相成ったわけである。

さて、これでポイントとなるのは、そもそも管理社会を批判することがテーマであるにも関わらず、そのブラックユーモアの背景にある「正義」が別の差別を呼んでしまうというアポリアである。これについて、ブラックユーモアとは誰かを傷つけることで成り立つという、若干うかつな反論をしていた。これがさらに問題化した。ここに表現の自由というさらなるアポリアまで入りこみ、数年にわたりこの議論は続いたのである。

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