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欧米ロボアドバイザーから見える、豊かさへのヒント - 渡邊竜士

『ロボアドバイザー・サービス」が急増 - 資産運用元年に突入(前回コラム、9月23日)』では、ロボアドバイザー・ブームが日本の資産運用を高度化する鍵であり、「貯蓄から投資へ」の希望と説明した。資産と時間の分散による投資効果を体験することが、金融リテラシーを向上し、投資マネーを増やす可能性を持っている。

 先日、FinTech(フィンテック:ITによる金融サービスの進化と創出)業界のカンファレンスで、この分野のグローバル・リーダー達のパネルセッションにモデレーターとして参加する機会があった。「ロボアドバイザリーは資産運用の世界を変えるか?」というテーマで、米国の Betterment共同創業者兼社長と、Acorns共同創業者兼会長、英国の Nutmeg CIO、そして日本の 楽ラップ の事業部長と関わる事ができ、多々感銘を受けた。

 特に、欧米ロボアドバイザー業界ではその運用資産が60-70%(CAGR=年間平均成長率)で成長しているが( Bettermentは運用資産がこの1年で約5倍に)、その市場成長や拡大の減速を待たずして提携・M&Aを含む様々な施策やサービスの向上へと進展している様は刺激的だ。その中でも日本で生活をする我々とそれを支えるお金について、より豊かな経済のヒントとなる内容をいくつか紹介したい。

心をくすぐる Acornsの発想

 Acornsはとてもユニークなロボアドバイザーで、ロボアドバイザーを含むFinTechの本質的な価値がギュッと凝縮されている。

 ユーザーはスマホやスマート機器のアプリ(またはWebホームページ)で口座を開き、クレジットカードやデビッドカードをここで事前に登録する。すると、それらのカードで買い物をする度に、”あらかじめ設定した切り上げの金額単位“までの端数の金額を、自動的に資産運用へとまわしてくれるのだ。運用方式は当然ロボアドバイザー。

 つまり、予め “100円単位” と設定し、4860円の買い物をしたならば、カードの決済口座には4900円が請求され、40円がロボアドバイザーで投資運用される。”1000円単位”の設定では、運用金額が140円となる塩梅だ(分かりやすくするために円表記にしたが、実際はドル建て)。

 お金を使う時の罪悪感(あくまでも個人差ありますが)を少額投資で軽減、また少額積立を好む心をくすぐる。マイクロ・インベストメント(少額投資)とロボアドバイザーを掛け合わせたサービスで、数多くの口座の投資・決済を自動処理するIT技術と、カード会社を含む金融機関における送金・決済コスト(価格)の低下が鍵となっている。「貯蓄から投資へ」を促す手段として、是非とも日本でもお目にかかりたいサービスである。

 携帯アプリでのサービス提供がWebページ経由に先行したことからも明確だが、ミレニアル世代(1980年代~2000年代初頭生まれ)の投資初心者層をターゲットしている。サービス開始から2年強になるが、目論見通りのミレニアル世代の心を掴み、口座数は100万を超えている(ロボアド大手のBettermentでも20万弱)。口座当たり運用残高は平均$175(約1万7000円)だ。

Acorns のビジネスモデルはFinTechの象徴

 口座管理料や運用残高から徴収する金額はとても少なく、伝統的金融事業やロボアドバイザー機能で黒字を狙う戦略ではない。超長期には、多数のミレニアル世代が(コラム冒頭で指摘したように)ロボアドバイザーの利用を通じて金融リテラシーが向上する経験をし、運用残高が大きく増加する可能性もあるだろう。

 ただ、ビジネスモデルとして注目すべきAcornsの価値は、累積し続ける個々人のミレニアル世代の消費動向データにある。情報商社に限らず、マーケティングやコンサルティングなど様々な相手に売れるデータベースだが、共同創業者兼会長のウォルター・クルッテンデン氏は「顧客にとって有益な使い方」にビジネス展開を限ると宣言している。

 旅行・宿泊・料理・アパレル等の生活に直結したEコマースサイトと提携し、それぞれが提供するクーポン、キャッシュバック、ポイントシステム等を各顧客の消費動向を掛け合わせ、経済的に最適な消費提案をするサービスを始めている。

 ユーザー側から見ると、金融サービスをその他のビジネスと隔てていた壁が崩れ、総合的に満足度の高いものへと変化しつつある。あくまでも個人的な意見だが、楽ラップを運営する楽天グループには証券・カード等の金融事業と楽天市場があり、仮想通貨・少額金融・少額投資等、消費活動と金融サービスをつなぐFinTech展開で今後の期待が高い。楽天がAcornsに出資しているのは決して偶然ではない。

基本的な魅力を磨いて伝統的ウェルスマネジメントをも席巻するBettermentとNutmeg

 “ITを使ってサービスしている金融会社” Nutmegに対し、”金融サービスを提供しているIT企業”と比較比喩されることが何かと多いBetterment(金融機関としての認可は受けている)だが、業界パイオニアとして知名度が高い両雄はその企業理念に共通点も多い。

 “ウェルスマネジメント(個人金融)業界の不人気な要素を全て取っ払いました” と公平で透明度の高いサービスに拘るNutmeg に対し、Bettermentは “より良い投資へ (Investing Made Better)” を企業理念に掲げる。両社とも、ロボアドバイザーの魅力(前回コラムにて説明)である低コスト、中立性と高品質、そして長期分散投資の全てにおいて、徹底した顧客目線での運営を崩さない。

 また、創業初期を過ぎ、そのサービスの強化に力を入れているあたりも似通っている。税効果の高いポートフォリオの推奨や節税制度の利用、そして年金制度に合わせた運用を整備し、Bettermentに至ってはそのインフラを投信会社大手Vanguardや Goldman Sachs Asset Managementを通じてフィナンシャル・アドバイザーへ展開している。

退職後の資産運用は大きな課題だが、進化に期待

 ロボアドバイザーに限らず一般的にフィナンシャル・アドバイザーは(資産形成期である退職前に比較して)退職後のアドバイスが難しいと口を揃える。退職を境に給与収入だけでなく、年金システムを利用した資産形成もなくなり、一気に資産保全やリスク回避の必要が高まる。出費傾向も生活スタイルとともに変化し、フィナンシャル・プランの再検討が不可欠だ。2015年に60歳だった人の平均余命は約20年(世界保健機関=WHO調べ)だが、健康平均寿命はもっと短い。ある程度余分を設けたプランを立てざるを得ないが、その困難は安易にイメージできる。

 BettermentやNutmegでは、目的別資産形成アプローチや統計データを利用したアルゴリズムで退職後の資産運用市場も対象にしているが、変数が多すぎて、まだ(非ロボに対して)胸を張る事はできないようだ。ただ、5〜10年で目を見張る進化があるロボアドバイザー業界、各ユーザーの健康状態や活動状況を最近流行のブレスレットや時計型のヘルスモニターからアップロード、人間ドックの結果に合わせて運用を調整などというのも決して夢物語ではない。

複雑なアルゴリズムを分かりやすく比較説明?

 サービスも多種多様になりつつあるロボアドバイザーだが、ユーザーはどういう基準で自分に合ったものを選ぶのだろうか? 重要な要素である投資アルゴリズムの特性やその能力の横比較は困難を極める。ユーザーが各社のサービスを検討する上で横比較ができる定量的な情報が必要であり、特に貯蓄をくずして投資に促したい日本でその効果は高く、楽ラップ も今後の成長に重要な要素として挙げている。

 欧米のロボアドバイザーにはその投資アルゴリズム(全部または部分的)を開示しているものも多く、日本でも必要があれば開示したいとの声も複数聞いている。開示されたアルゴリズムを的確かつ簡易に比較する手段が今後重要となってくる。

おことわり:本コラムの内容はすべて執筆者の個人的な見解であり、トムソン・ロイターの公式見解を示すものではありません。

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