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資生堂インテグレートとANA旅作 、炎上CMのイタいメッセージ性 - 網尾歩

 障がい者を起用する24時間テレビや、小学校で行われる二分の一成人式に感動する人がいる一方で、白けてしまう人もいる。作り上げられたウソくさい感動は「感動ポルノ」と呼ばれたりする。ANAの旅作CMは、まさに感動ポルノではないのか。

資生堂インテグレートとANA、同時期に炎上

 先週のツイッター上での炎上ネタといえば、資生堂インテグレートと、ANAの旅作が比較的大きかった。インテグレートが早々とCMを中止したのに対し、旅作は今も動画を公開し続けている。

 インテグレートのCMは、年齢差別のはびこる日本社会でもがく女性に対し、その社会的制約を打ち壊せというメッセージを打ち出すのではなく、問題を女性の「自分磨き」に帰結させる。「年齢差別も女性差別もあっけど、お前がこっちに合わせて来いよ!」という骨太なメッセージ。女性の生きづらさをなかなかうまく表現していると思う。

 社会的構造や問題に向き合わず、広告や女性誌のコピーにのせられて「そっか、私も自分磨き頑張らなきゃ!」と考えるキラキラ女子こそ、つい数年前まではネット上で「スイーツ(笑)」と揶揄されていたはずなのに、こういったCMに異を唱える人が増えると今度は「口うるさいババア」というレッテル貼りをし、「25歳を超えても女の子と呼ばれたいのか」というとんでもない誤解をしたり、「利口ぶったバカが増えた」などと偏見にまみれた言葉を浴びせる。ことジェンダー問題になると、脳みそのしわの少なさを見せつける御仁が多い。

 というわけで、インテグレートの炎上もなかなか語りがいがあるが、あれだけ費用をかけていそうなインテグレートが早々にCMを中止したなら、こっちはどうするのか? と対応を見守りたい思いからANAを取り上げる。

 ANAの旅作というプランをPRするための動画「1 Ticket~魔法のチケット~こどもたちの予想外の反応は必見!」。子どもにどこへでも行ける旅行のチケットをプレゼントするが、そのチケットは家族の人数より1人分だけ少ない。子どもはチケットに誰の名前を書くのか、その様子を別室で親たちが見守るという設定だ。ネタバレとなってしまうが、結果的に3組の子どもたちはみんな「家族全員でいけないならチケットはいらない」という答えを出す。「うちの子は父と母、どちらの名前を書くのか」と心配そうに見守っていた両親は、そんな子どもを見て、涙、涙、涙。そして「試験」を終えた子どもと会い、笑顔で抱き合うのだ。

大人の感動に付き合わされる子ども

 筆者は涙腺が弱い。正直に言うと、この動画を見たときに、子どもたちのあどけない表情や純粋そのものの言葉遣いに涙がこぼれた。しかし、涙を流しながら同時に、「やらせっぽくね?」と思ったのである。身体の反射と気持ちがズレるということは人間にはある。

 果たして、子どもがこんな風に揃いも揃って同じ答えを出すことがあるのだろうか。演出にしろ、本当に子どもがこう答えたにしろ、どちらにしろ「嘘っぽい」。そして、まるでこの答えが「唯一無二の正解」のように演出することに寒気を覚える。

 「足りない分のチケット1枚は親に払ってもらう」と答えた子どもはいなかったのだろうか。もしそう言った子どもがいたとしても、「それはルール違反、その場合はチケット没収で~す」などと誘導したのでないのか。

 そもそも子どもがどう答えたって正解も不正解もないのだ。もともと大人の勝手な試し行動なわけであるし。「妹が生まれる前に私はパパとママとで1回旅行しているから、今回は私以外で行ってください」でも、「弟が生まれてからママとの時間が少ないから、今回は弟に我慢してもらいたい」でも、「なんかよくわからんので、ここは我が家の伝統に従ってあみだくじで選びませんか」でも。なんでそれではいけないのか。いろいろな家族がいるのに、なぜ答えが一つではないといけないのか。筆者が脊髄反射で涙を流したように大人は子どもを見るとそれだけでつい胸が熱くなるものだが、それは大人の勝手な感慨であって、子どもは大人を感動させるために生きているわけではない。

 あらかじめ感動する答えの設定された動画。企画過程を想像してみると、そのようにしか見えないのである。(やらせではないという前提で考えた場合)演出側に不都合な回答をしてカットされた親子はいなかったのか。こういう回答をしそうな優秀な子役(と、その親)を慎重に選んできていないか。そんな詮索をさせてしまう時点で、感動を仕立て上げることに失敗しているし、こんな企画を立てること自体どうかしている。

一方、両親は子どもを置いて旅行に出かける

 ちなみにこの旅作CMはシリーズで、昨年12月には「7 Letter~あの日の二人を見つける旅~」という動画が公開されている。これは子どもが2人いる夫婦が、子どもを預けて2人だけの旅行に出かける動画だ。夫婦は冒頭で、「子どもがいると夫婦二人だけの会話ってほとんどない」と語る。

 小さな子どもを育てる夫婦なら子ども中心の会話になってしまうものだろうし、「たまには夫婦二人の時間がほしい」と言って二人で出かけるのは、何らおかしなことではない。

 だからこそ、である。大人だってそうやって本音で話したいのだから、子どもにだけ、現実ではありえない設定を持ち出してまで、わざわざ「家族みんな一緒がいいです」と言わせるのはやめませんか? という話だ。ANAは、こういう上っ面な感動で喜ぶ層だけをターゲットにしていると言いたいのだろうか。随分と客を安く見積もっていないか。

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