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本当は怖いサービスの話

つい先日、ある電車の運転士が運賃箱に腰掛けて雑談をしていた、なんて話が日本でニュースになっていたが、正直これを見て私は笑ってしまった。なぜならこんなの序の口。フランスのメディアが同じようなことをニュースにしていたら紙面も時間も全然足りなくなるはず。

フランスだと運転士がイヤホンつけて音楽聴いていたりする。スーパーのレジ打ち同士が客がいてもお構いなしでおもいっきり雑談するのは日常茶飯事だし、役所に届け出をした時に担当の人が隣の窓口の職員と「もう今日疲れちゃったよね。早く帰りたーい。」なんて話をしているのも当たり前。

こういうことに対して私はいちいち腹をたててるわけだけれど、その一方で社会全体が寄ってたかって通告したり非難して、それがニュースになるというのも何か空恐ろしい、息苦しい、とも思う。

まず。フランス社会で(日本の感覚で)生きているといろんな壁にぶちあたる。そのうちのひとつがこの「サービス」である。日本では当たり前といわれることがここでは特別サービスであったり、あるいはそれ以上のことだったり。

ちなみに、日本語で言うときのこの「サービス」に当たるちょうど良いフランス語がない。

フランス語の「service」というのは基本的に頼まれてやることを意味する。つまり、やってあげる、という感覚がある。ところが日本では誰からも頼まれていないのに自主的にやることを「サービス」と呼ぶ。

どこからがサービスで、それはするべきことなのか

いわゆる消費社会では客として、日常的にあらゆる「サービス」を受けるのが「消費者」である。フランスでのいろんなサービスの悪さや勤務態度の悪さに腹を立てつつも、このサービスという言葉が人を締め付けることもあるのではとふと考える。

多くの場合、日本でサービスという分類に入ることは相手(お客)への気遣いということと重なる。「サービス精神」なんていう言葉がそれをよく表している。昨今「おもてなし」などが流行ったのもこの流れだろう。細かいところまで気遣える、かゆいとろこに手が届く、といったサービスは受ける側としては非常に心地いい。

ただし、これはすばらしい側面だけではない。この気遣いや、お客様を一番に考える、というような曖昧とした「価値観」、こうあるべき、という「世間の目」が人を苦しませていることだってあり得るのではないだろうか。

フランスの場合、対価として支払われた分を労働として提供するというのが基本的な労働者(サラリーマン)のスタンス。なので、それ以上もそれ以下もない、という考えがある。至って合理的である。ただし、私の感覚からしたら「それもさすがに仕事の範疇だろう」、と思うこともよくある。

例えば私が首を傾げてしまった(頭に血が上った)シーンを上げてみると。

  • 郵便配達人がチャイムもならさずに勝手に不在届けを置いていく(人に手渡す時間の節約…)
  • 荷物を自宅まで回収にくるというサービス。到着前に客に電話をかけて「あと5分くらいで着くから家の下まで降りて待っててくれ」と要求。そして受け取る際は車から降りもせずに窓から腕を延ばして荷物を回収して去っていく(ちなみによくタバコをくわえている)…
  • 電車が遅れていることの情報を流さない+代替手段の準備に異様に時間がかかる(客を待たせるが、それは非常事態なので仕方ないという考え方)
  • 家の修理を頼んだ業者が約束の日に来ないことはよくあるし、作業にも見積もりの倍以上の時間がかかったりする。

こういう状況についてフランス人に話をしてみると決まって同情される。「ありえない!」と一緒に怒ってくれる。

…のだが、その先で決まって彼らがいうことは、「まあでも、最近は下請けが増えて給与もすごく下がってるからねー」

こんなところで同情?給与がどうという以前にもう少しサービス精神があれば改善されるんじゃないの?…なんて思ってしまうのだが、こういう感覚のズレが生じてふと思う。もしかしたらこの一消費者としての私のような考え方が過剰サービスに繋がっていたりするのでは、と。

日本で働いていた時は、そんなこと言われても…というようなことを「お客様のために」という一言でやらされることが多かった。消費者として生活をしていてもそれはよく感じること。そこまでしてくれなくても、ということをしてくれるのが日本。

サービスを提供している人たちにはそれなりの対価が支払われているのか?またそれは「仕事」として定義されているのか?曖昧な価値観や普通はこうするだろうという漠然とした考え方からきているだけなのでは?

サービスと権利

どこからどこまでが仕事であり、サービスはどこからで、勤務態度はどう定義すべきなのか。この辺りのことは実は「なんとなく」だったり慣習、それこそ世間の目が決めていたりする。ここで重要なのが「権利」という言葉である。

サービスと権利。これは実はとっても複雑な関係を築いているということを最近よく考える。

フランス人は自分の権利についてとても敏感。職場でも、残業代のことや有給休暇の使い方、さらには退職の方法(会社との交渉含め)などについてとってもよく知っているし、知らないと思ったら調べてきちんと主張する。権利なのだから、と言えば上司も何も言えない。「そこは空気を読め」と言われる類の空気も日本ほど感じない。

※もちろん、ここでは私がフランスと日本を比べているので、比較的にフランス人の方が権利主張をしているというだけで、実際、日本がどうかなんて知らないフランス人は、「権利の主張って難しいよね」、と言っていたり、「かなり譲歩しちゃった」、とブツブツ言っていたりする…。

こうやって権利主張をするのは非常に大切なことだけれど、フランスではなるべく自分の仕事の範囲を小さくする、そしてなるべく搾取されないようにする、騙されないようにする、という意識が非常に強く、結果として基本的な仕事すらしないぞ!というスタンスに陥ってしまい勤務態度も悪くなってしまうこともある。

そして、日本に行ったフランス人は決まって感動して帰ってくる。「日本ではホテルでもお店でもどこでも親切にしてもらえて、何もかもが便利で素晴らしいところだ!」と。郵便配達人が笑顔できちんと挨拶をしてくれるだけで「なんて素晴らしい配達人だ!」と褒めちぎりたくなってしまうフランスにいるとその気持ちもとても分かる。私も一時帰国をするたびにそう思う、のだが。

心地いい日本のサービス。そこに詰め込む意味や曖昧な価値観が人々を締め付けたり合理的思考を持つことを放棄させたりする傾向はないだろうか。おそらく戦後の経済成長を担った企業の体制やそこから生まれた価値観に基づいているものなのだろうが、昨今ではそれがどこか軍隊的で全体主義的な社会の監視ツールのひとつになっていると感じる。

日本社会にある人々の親切心や便利さ(つまり素晴らしいサービス精神とそれに伴う質の高いサービス)。その裏に昨今の悲しい過労死の事件などがチラチラと見え隠れする気がするのは私だけではないだろう。

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