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マイナス金利下でもローソンが銀行をやる理由。 - 多田稔 中小企業診断士

10月6日付の日本経済新聞朝刊に、コンビニエンスストア大手のローソンが銀行業に参入するという記事が掲載されました。小売業による銀行の設立はセブン&アイホールディングスのセブン銀行、イオングループのイオン銀行に続くものとなります。

「ローソンが参入検討中の銀行業について、2018年中の実現を目指し進めていることが5日、分かった。(中略)小売業による銀行の設立は01年に開業したセブン銀行(当時はアイワイバンク銀行)が草分けで、07年にはイオングループもイオン銀行の営業を始めた。各社は電子マネーなどの普及を進め、銀行のキャッシュカードと一体化するなどして金融サービスでの収益拡大を模索している。」(『銀行18年参入 ローソン準備 三菱UFJと新会社』日本経済新聞 2016/10/06)


この記事の書き方だと、セブン銀行とイオン銀行は同じ小売業発祥の金融機関として、似たような取組を行っているように読めます。しかし、経営の数字を比べると、両社のビジネスモデルには顕著な違いがあることに気づきます。今回はその内容を説明し、ローソンの銀行業参入について、その狙いを考えてみます。

■セブン銀行の銀行らしからぬバランスシート


言うまでもないことですが、銀行業とは、「集めた預金を原資に貸付や投資を行い、その利ザヤで稼ぐ」商売のことです。中でも銀行の本分と言えるのは、やはり企業や個人への貸付です。

したがって、銀行のバランスシートは、資産を形成している項目で最大のものは貸出金、という作りになっているのが普通です。例えば三井住友銀行の前期の貸借対照表では、総資産186兆円のうち貸出金は75兆円を占め、割合は40%を超えます。

ところが、セブン銀行のバランスシートはちょっと変わっています。同行の前期決算における総資産9,100億円に対し、貸出金は162億円と、割合はわずか1.8%にすぎません。その代り、圧倒的に大きいのは現金預け金で、特に現金だけで5,600億円を計上しています。つまり、総資産の6割以上が銀行業務の中心である融資にも投資にも回っていない、ということになります。

■セブン銀行は「資金移動サービス業」


銀行の本業であるべき融資を申し訳程度にしか行っていないのに、セブン銀行が企業として存続できている理由は、損益計算書を見れば分かります。同行の経常収益(一般企業における売上高)の内訳を見ると、1,200億円の計上額のうち97.7%は役務取引等収益、つまりATMの利用に伴う提携金融機関からの手数料が占めています。

この数字を見ると、セブン銀行は“お金を融通する”という意味の金融機関というより、預金の引き出しや送金、決済の利便性を提供することに特化した「お金の移動に関するサービス業」と表現した方が良いような気がします。

本来、このようなビジネスモデルはネット専業銀行に適合すると考えられていました。しかし、ネット銀行大手のジャパンネット銀行の財務諸表を見ると、貸出金の総資産に占める割合は7%強、経常収益に占める役務取引等収益の割合は48%と、セブン銀行に比べ伝統的な銀行業のスタイルに近いことが分かります。

逆に言えば、融資や投資には目もくれず、「ウチの金融ビジネスは手数料ビジネスだ」と割り切るセブン銀行の徹底ぶりは見事というしかありません。

■ローソンに「利ザヤで儲ける」という発想はない?


一方、イオン銀行の資産構成は、総資産2兆7,000億円に対し貸出金が1兆4,200億円で占める割合は53%、収益構造は経常収益1,440億円に対し役務取引等収益が550億円で占める割合は38%と、“ノーマル”な銀行業としての体裁を整えています。

さて、これから銀行業に参入するローソンですが、セブン、イオンどちらのスタイルを目指すのでしょうか? 

現在でもローソンの店内にはATMがありますが、ローソングループ内でATM設置などの金融関連事業を行っているのは株式会社ローソン・エイティエム・ネットワークスという会社です。ローソンのディスクロージャー誌によると、同社の前期の営業総収入は246億円、営業利益は61億円ですから、営業利益率は24.8%。これはイオン銀行の10.4%よりはるかに高く、セブン銀行の31.0%に近い数値です。おそらく、収益構造は手数料収入が主のセブン銀行に近いために似たような数字になるのでしょう。

この現状を考えると、銀行業としての体裁にこだわって融資審査の手間や焦げ付きのリスクを抱えるよりは、手数料収入を中心とした今のビジネスモデルを崩さずに事業拡大を目指したいと思うのが自然でしょう。成功例であるセブン銀行と比較しても、収益規模は約5分の1と伸びしろもあります。

「このマイナス金利の時代に銀行なんて儲からない」という意見もありますが、おそらくこの指摘は的外れ。ローソンにはハナから利ザヤで儲けるつもりなどさらさらないでしょう。銀行業への参入で手数料収入のバリエーションを増やすことでの事業拡大を最初から狙っているのではないでしょうか。

【参考記事】
■シン・ゴジラでビルを破壊された三菱地所のBCPを勝手に考える。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49222132-20160802.html
■『さんまのまんま』終了で考える、テレビ局の苦境と明石家さんまのこれから。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49277606-20160810.html
■「SMAP株式会社」という幻の選択肢を考えてみた。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49326386-20160817.html
■PCデポ高額請求問題の背景を財務面から読み解く。(多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49372274-20160823.html
■伊藤忠商事が中国で病院経営に乗り出した理由。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49594165-20160920.html

多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所代表

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