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東芝会計不正事件-歴代社長立件にはいくつかの壁がある

10月9日の毎日新聞朝刊(社会面)に、「東芝不正会計問題 元PC責任者から聴取 監視委、3社長の指示確認」との見出しで、カンパニー部門の元社長の方々が、金融庁から任意で聴取を受けたことが報じられていました(ネットニュース記事はこちらです)。証券取引等監視委員会の委員長が12月で退任されるようですので、委員長最後の大仕事として金融庁は組織として気合いが入っているとの風評が聞こえてきますね。しかし、気合いが入る真の理由は、やはり金融行政のグローバルな連携が深まる中で、「エンロンではあれだけ経営者が厳罰を受けたのに、東芝では誰もお咎めなしということはおかしいのではないか」といった海外からの批判が高まっているからだと私は思います

金融庁の積極的な対応とは裏腹に、上記毎日新聞記事でも解説されているように、検察庁はいまだ東芝歴代トップの方々の立件には消極的なようで、刑事責任を問えるかどうかは流動的のようです。まずなんといっても8年ほど前に検察が敗れた長銀事件最高裁判決の存在は大きいと考えます。長銀事件の最高裁では、やはり多くの裁判官が「絶対的真実主義」を重視して有価証券報告書虚偽記載罪の構成要件を解釈しています。検察出身の古田裁判官だけが唯一「相対的真実主義」を加味して有価証券報告書の虚偽性を判断せよ、といった補足意見を述べておられましたが、おそらくこのあたりが検察庁が及び腰になる一因ではないかと思います。財務報告の視点による東芝社PC取引の見方は、法律家が得意な絶対的真実主義と、会計士が得意な相対的真実主義のどちらを根底におくかで大きく異なるはずです。

さらに、今年法案が成立した改正刑事訴訟法における「司法取引」は未だ施行されていませんので、検察による経済事件の立件には、いわゆる「積み上げ捜査」手法が採用されるのが原則です。つまり、歴代の3人の社長さんを立件したいのであれば、その下のカンパニー社長たちの身柄も拘束して、事実上の不起訴合意をとりつけたうえで、検察官面前調書を作成することになると思います。そして歴代トップの方々による「プレッシャー」はあったにせよ、カンパニー社長さん方の犯罪事実を確定するわけですが、その際に気になるのが財務アドバイザー(監査法人)の存在です。たしか東芝事件では会計監査人のほかに、アドバイザー業務を提供していた大手監査法人さんがおられたわけですが、おそらくカンパニーとの間で、綿密なコミュニケーションが重ねられていたはずです。そうなりますと、歴代トップの方々を立件する際にはカンパニー社長さん方の犯罪に、監査法人も加担していた(共犯)ということになりそうで、そのあたりの取扱いは大いに悩ましいところではないでしょうか。

そしてもう一つ気になりますのが、金融庁による立件手法に対する検察庁の信頼感ではないかと。先日、東京電力株式のインサイダー取引を巡り、金融庁の法的解釈を覆す司法判断が二つ出ました(情報提供者が勤め先証券会社から解雇処分を受けたのですが、重要事実の伝達にはあたらないとして解雇処分を無効とした判決、そして情報受領者が、金融庁から課徴金処分を受けたのですが、この金融庁の処分が取り消された判決です。新聞にも掲載されていました)。行政処分である課徴金は、その迅速性や柔軟性が持ち味だとは思うのですが、やはり司法相手でガチンコ勝負となりますと、(インサイダー取引を規制する条文の構成が非常に複雑なだけに)事実認定を裏付ける証拠に甘さが残るわけでして、このあたりが検察庁からいま一つ信頼を置かれない要因ではないかと推測いたします。

いずれにしましても、やはり相対的真実主義の考え方を基本として会計処理方法の虚偽性を問うことには大きな壁があるようです。平成17年の会社法改正で、会計帳簿の適時性、正確性が初めて条文化されたわけですから、私は現行法上は過料(行政罰)とされている会計帳簿の虚偽記載を刑事罰化すべきだと考えます(もちろん「納税以外に記帳する意味などない」とおっしゃる中小事業者の方々による反対はあると思いますが)。有価証券報告書や計算書類になる前の会計帳簿の記帳を問題にすることができれば、粉飾事件に対する検察庁の壁はかなり低くなるのではないかと思うのですが。

最後に、検察庁の消極論が現状のままだと、他の上場会社にとって危惧される点があります。エンロン事件以来、アメリカでは役員に対する厳罰化によって、大きな会計不正事件が起きていなことが評価されつつありますので、米国SOX法のような厳罰主義の規制が、日本のすべての上場会社の役員に適用される時代が到来するかもしれません。おそらく上場会社の役員の方々にとってみれば、東芝事件の歴代トップの方々が立件されるほうが胸をなでおろすことになるかもしれませんね。

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