記事

ソニー38万円ウォークマンとベルリン・フィルとの離別 - 多賀一晃

1/2

 「ソニーがソニーたる所以はどこにあるのか?」 

 ドイツ・ベルリンで開催された「IFA2016」のソニーブース。そこに鎮座していたのは、38万円のウォークマン。無酸素銅のインゴットから削り出された筐体。過剰な金メッキ。それを見た私は、目の前が真っ暗になった。

注) 38万円のウォークマン。この言い方はメディアに想定価格:3300ユーロと流れたため。日本のソニーストアでは、29万9000円(税抜き)で販売されている。

38万円のウォークマンの中身


「NW-WM1Z」

 正式名称「NW-WM1Z」(メモリ256GB)は、現地でも話題で、人だかりがしていた。見た瞬間にビックリしたのは筐体(ケース)。「無酸素銅」の削り出し。本当にこれはビックリした。ピュア・オーディオ用モデルでは、必要な部分に高額な素材を使う。それはソニーも例外ではない。しかし、これは違う。全部が高い素材なのだ。しかも金メッキまでしてある。ところかまわず全部「金」。さすが38万円。正直「ムダにスゴい」。

 また、オーディオ・システムには「価格バランス」というものがある。最もお金をつぎ込むのは、スピーカー。一番、音質を左右する部分だから。今、高級ヘッドフォンが売れているのも同じ。これを出し惜しむと、その他の部分にお金をつぎ込んでも、効果は薄い。そういう眼で、NW-WM1Zを見直すと、ヘッドホンは想定価格2200ユーロ、その相棒のヘッドホンアンプは想定価格2000ユーロ。それに対して、3300ユーロ。決してバランスは良くない。

 同時発売のアルミ筐体のウォークマン「NW-WM1A」(メモリ128GB)の価格は1299ユーロ。これでも十分高いのだが、「NW-WM1A」はオーディオシステムの価格バランスとしては妥当な線である。「NW-WM1A」と「NW-WM1Z」の差は、メモリと筐体の差がメインである。

 ショーモデルだからという人もいると思うが、私はこの38万円ウォークマンこそ、今のソニーが、昔から言われる「ソニー」と違うことの象徴のように思えてならない。

古き良きソニー

 ある記事でプレステ生みの親・丸山茂雄氏が、「子供が玩具に寄せるワクワクした好奇心。ソニーブランドとはそんな感じだった」という旨の話を読んだが、実に素晴らしい、胸がすくような指摘。トランジスタラジオで、海外で成功し一躍名を馳せたソニーの原動力は「やらなければならない」というある種の義務に縛られた力ではなく、「こうしたほうが面白い」という積極的な力だ。別の言い方をすると「面白くなければやらない」ということだ。ソニーがメインにしたのは、エンターティメント家電。つまり、オーディオ・ビジュアル、ロボットにゲーム。そして、それを支えるはプロ(業務)用も作り出すことができる技術力。ソニーの製品は常に話題の中心にあり、注目を浴びる会社だった。

 特に、一社で、オリジナル規格を作り出すことができる技術力はスゴく、ビデオ、CD、を始め、ソニー抜きの規格は皆無と言っていいほどの時があった。が、その反面、持っている技術で身動きが取れなくなることも多かった。高画質のβビデオ(以下β)が、三倍モードという低画質だが、ランニングコストの安いユーザー志向のVHS(世界を席巻したビデオ規格)の技術に破れたことなど典型例。このあたりは、使い勝手より技術を、根本品質(ビデオの場合は音質、オーディオの場合は音質)を、大切にしたソニーらしい話だ。

 また、テープレコーダーから、録音ボタンとスピーカーを除去し、ヘッドフォンでどこでも聴けるようにしたウォークマン。それまで部屋の中だけで楽しんでいた音楽を、誰でもどこでも聴けるようにした世界を唖然とさせた大発明。造語である「ウォークマン」が正式にウェブスターの辞書にも掲載されたほど。それほどスゴい。ソニーブランドは一等星どころか、太陽のように輝いた。

 そして、CDのフォーマット規格時。創業者の一人、盛田昭夫氏は仲のいいベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席常任指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンにある質問をする。それは「何分録音できればいい?」ということ。カラヤンは、しばらく考えて「ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱」が一枚に入るように」と言ったという。

 「合唱」は、かなり長い曲で、指揮者により10分以上演奏時間が違う。カラヤンの演奏は早め。その演奏を踏まえ、74分という録音時間が決められたという。テンポを遅く取る指揮者は、この中には収まらないので、自分以外は切り落としたと言ってもいい。さすがに「帝王」と呼ばれたカラヤンならではとも言える。

 とにかく、日本の一企業とは思えない、我に富んだ痛烈なエピソードに満ちた会社だ。別格と言っても差し支えないだろう。

あわせて読みたい

「ソニー」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    貴乃花の妻 女将からは評判最悪

    女性自身

  2. 2

    よしのり氏「グッディ!」を評価

    小林よしのり

  3. 3

    PEZY関連財団は元TBS山口氏実家

    田中龍作

  4. 4

    庵野秀明 学校嫌なら逃げていい

    不登校新聞

  5. 5

    亀岡市暴走事故の加害者を直撃

    NEWSポストセブン

  6. 6

    子宮頸がんワクチン男性にも効果

    おときた駿(東京都議会議員/北区選出)

  7. 7

    NHKが受信料合憲で背負った責任

    WEDGE Infinity

  8. 8

    立民・枝野氏「法人増税が必要」

    ロイター

  9. 9

    小池劇場の終焉を天敵記者が激白

    AbemaTIMES

  10. 10

    「日本が中国に完敗した」は暴論

    文春オンライン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。