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自由介護が一般的になれば介護職の労働環境も変わるはず。そのためには、お金持ちのお金の使い方に文句を言わないこと―「賢人論。」第24回(後編)高須克弥氏

「賢人論。」第24回(後編)高須克弥さん「自由介護が一般的になれば介護職の労働環境も変わるはず。そのためには、お金持ちのお金の使い方に文句を言わないこと」

利益を生み出す努力をせずに、「給料を上げてくれ」と要求してばかりなのは間違っている、と断言する高須氏。患者の喜ぶ顔が見たいからこそ働くという氏は、お金は貯めるものではなく使うもの、だそう。良かれと思い寄付を行ったときでも、心無い言葉を浴びせられることもあるとか…。「困っている人が寄付によって幸せになればいい」。そんな思いを抱く高須氏が考える理想の老後とは?

取材・文/猪俣ゆみ子(編集部) 撮影/公家勇人

患者の喜ぶ顔が見たくて働いているんだけれど、「金儲けのためか?」って勘違いされる

みんなの介護 先生が地元愛知県の病院に行くときは、手弁当で行っているそうですね。先生の息子さんやその奥さんも。

高須 大金持ちが財産を使ってみなを助けてあげるというのは一番美しいことだと思うけれど、尻すぼみになっていっていずれは消滅してしまうと思うんです。だからこそ、高須クリニックのように病院以外の収入源から利益が回るようなシステムを作らないといけない。高須クリニックがある限りは、高須病院も介護施設も全部生き残るはずです。

みんなの介護 これまでも、利益の有無にかかわらず困っている人にも恩恵を施すことを理念とされてきたんですか?

高須 うちは代々医者の家系でね、私が子どもの頃、家には魚とかスイカが山のようにあって。なぜかというと、治療費を払えない人が物だけを置いていくんですよ。ツケにしておいて、年末になると職員が取り立てに行くもんだから、その時期は急にリッチになる(笑)。それ以外の時期は魚やスイカをもらうっていう。

保険制度が入ってきてからは、めちゃくちゃ忙しくなってきて。急患が来たら夜中でも起きて往診に行っていた父と母を子どもの頃から見ていましたよ。あれを保険でやられたらたまらない。“保険がきく”と思ったら割と簡単に救急車を呼んでしまうんですよね。今は救急車で来てしまうものね。アメリカのようにタクシー料金よりうんと高かったら、救急車を呼ぶのは躊躇するはずです。

みんなの介護 消防署員の人は、呼んだ人が重症か軽症かは駆けつけてみなければわからないですからね。

高須 実は、私が尊敬する森教授という整形外科の先生がいるんだけれど、8年くらい前に心筋梗塞で亡くなったんです。先生が倒れる前に、熱を出している子どもとおばあさんが患者で来ていて、医者の倫理で“患者を退けて自分が診てもらうわけにはいかない”といってそのまま亡くなったんです。かわいそうでね、今考えても。本当は心筋梗塞の患者を最優先すべき。昔の人って、患者のために自分が犠牲になってもいいという滅私奉公のような考えを持っていてね。良い医者ほど早く死んでしまう。

みんなの介護 先生も今年、体調を崩されて、今は元気になられていますけれども。

高須 「高須クリニック」の手術はずっと先まで予約が入っていてね。私が入院中のときでも、わざわざ海外から来院している人もいたんです。体調を崩したときに手術を受けたんですが、面会謝絶の絶対安静のときもあって。でも「4時間で全部終わるから」と言って、病院を脱走して、患者さんのために手術をしました。術中は管をぶら下げたままでしたね。私が点滴をしながら手術をやることはよくありますよ。高熱が出たときに点滴をつなげてね。

みんなの介護 先生がそこまでして働くのはなぜですか?

高須 確かに、みんな「よく働くね」って言うけれど、お金儲けのためではないんです。患者の喜ぶ顔が見たくて働いているんだけれど、よく勘違いされる。生活には困っていないし、お金を貯めたって別にやることは何もないもの。お金を使うことが楽しいだけで。

「賢人論。」第24回(後編)高須克弥さん「自由介護が一般的になれば介護職の労働環境も変わるはず。そのためには、お金持ちのお金の使い方に文句を言わないこと」

見返りを求めず自分のお金で困っている人を助けたいのに、なぜ非難するのか?幸せな人は一人でも増えたほうがいい

高須 介護の場合は、今寝たきりで植物人間状態になっている人たちが、若いときどのくらい立派な人たちだったかわかっている人ばかり。「あの方がこういうふうになってしまったのか」と全部わかりますからね。“お墓参り”だと思って、回診しているんです。介護をやっているときは半分僧侶の気持ちなんです。医者は、基本的には病院に奉仕する肉体労働者ですよ。

みんなの介護 介護業界でも、国は在宅介護へシフトさせている流れのようですが。

高須 在宅の中も、ヘルパーステーションがさらに忙しくなってしまっています。

みんなの介護 忙しくはなるけれど、報酬が上がっているわけではないようです。

高須 だって、報酬はほとんど人件費に回ってしまいますからね。でも、報酬を取らなければ運営できないっていう。

みんなの介護 医療には自由診療があるように、“自由介護”が浸透していかないのかという意見もあります。

高須 私の女房はがんで亡くなったのですが、自由介護でしたよ。公的な介護保険は使わずに。すべて自分で良いヘルパーを雇ってきて、緩和ケアをやる医者を見つけて、自宅を病院のようにリフォームしてケアしました。

実際、私のところのようにやっている人たちもいますよ。“世界最高齢の富豪”と称された古川為三郎さんは、名古屋の日赤に多額の寄付をして、悠々自適の病院生活を送ったようです。徳田虎雄さんもそうでしょう。彼らはすごくいい環境で介護を受けていると思いますよ。

裕福な人は全額自己負担って国が打ち出してくれたら、たったそれだけですごくスッキリすると思うんです。その代わり、すごくきめ細やかな医療・介護サービスを提供してあげる。例えば、明日の朝までに風邪を治してくれという歌手もいれば、明日以降でもいいやという人も平等に列を作って診るというのは、すごく効率が悪いと思うんです。日本はキューバ型の医療を目指しているようだけれど、社会主義国のキューバでは医療行為で儲けなくてもまわる社会だから医療費が無料でも成り立っているわけで。貧しい人もいる一方、豊かな高齢者がたくさんいる日本ではなかなか難しいと思いますよ。

みんなの介護 自由介護が一般的になっていくと、介護業界の労働環境も変わるだろうと。

高須 それがね、そういう介護すら、いけないことだと思っている人たちが多いんですよ。いいじゃないですか、自分のお金で自分の好きなようにして。どうして非難するのかって思いますよ。こういうことはあまり言いたくないけれど、私なんかボランティアに行ったときに「売名行為ですか?」とか「どういう利益があるんですか?」とか言われたりします。自分のお金で見返りを求めないで、困っている人を助けたいと思っていても文句を言ってくる人はいます。

税金を払ったあとの残りのお金だから、自分の好きなように使うのは個人の自由です。貧しい人たちはすごく非難するけれど、貧しい人を助けに行くときも、助けに来てもらえなかった人たちが怒るんです。「あいつにあんないいことをするんだったら俺にもしてくれ」「俺にしないんだったらあいつにもするな」というようにね。これって、間違っていませんか?私は、一人でも幸せな人が増えていったほうがいいと思うんです。

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