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「人工透析患者を殺せ」論は想像力の欠如に他ならない。健康保険制度を不公平感なく持続可能なものにするためには!? - やまもといちろう

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やまもといちろうゼミ「社会保障学入門」9時限目「「人工透析患者を殺せ」論は想像力の欠如に他ならない。健康保険制度を不公平感なく持続可能なものにするためには!?」

山本一郎です。あまりにも尿酸値が高く、発作も何度か繰り返していたのでさすがにまずいと思って病院にいったところ「前から分かっていたんだから、早く来てください」と言われてしまったのは私です。

その尿酸値が高いことそのものは一定程度遺伝であり、尿酸値が高い状態のまま放置すると腎臓に負担がかかって機能が徐々に低下していくことになります。その意味では、私も腎臓を悪くして人工透析のお世話になる予備軍の一人であり、他人事ではないぞという気持ちになるわけですが、そんな人工透析を受けている人たちに対して、元アナウンサーの長谷川豊さんが医療費の高騰の原因のひとつとして人工透析を位置づけ、その人工透析を行う患者さんを社会のために殺せと表現する記事を書き、大変な炎上となりました。

長谷川豊の”いつもの炎上”を芸としてどう咀嚼するか|やまもといちろうコラム

人工透析ブログ「当社団の公式見解でない」 長谷川豊氏が理事の医師団体「医信」が謝罪

BLOGOS、長谷川豊「人工透析患者」記事を削除 「チェック体制の不備」とお詫び

しかも折の悪いことに、この長谷川豊さんはどういう経緯か医師団体「医信」の理事まで務めており、おそらくは社会保障の財源問題が喫緊となり重要度が増す中で、医師の間でどのようにして医療費を削り込んでいくべきかの議論を重ねて行ってきたのを長谷川さんが聞きつけ、彼なりに問題提起をしたつもりだったのでしょう。

この高騰化する医療費用と社会保障費の持続性とは極めて密接な関係にあり、私も本連載の6時限目「1ヵ月の治療費300万円!新抗がん剤「オプジーボ」は、がん患者を救う一方で日本の社会保障を破綻の道へ!?」ではすでに問題点を述べています。確かに高額の治療を要する難病指定が、無原則に助成され続けるのだとするならば、問題なしとは言えないということです。

しかしながら、保健医療の現実の問題として、日本においてはその理念において「どのような環境、状況であろうとも、日本人が日本にある限り、然るべき医療を受ける権利を有する」ことは最前提です。そこには日本人としての尊厳があり、そのような難病に至った理由や治療の困難さを含め、保健行政でカバーされる限りは最善の治療を受けることができるからこそ、日本の皆保険制度には高い信頼があり、アメリカ政府もが羨む仕組みができていたのだと言えます。

もちろん、そこには医師や歯科医師、看護師、薬剤師の皆さんほか、医療関係者の献身的な働きと高い技能があってこそ成り立っているものですが、考えるべきベクトルとしてはやはり大きく分けて二つあります。

ひとつは「いまの制度が財源を考えると先行き厳しいから、患者の自己負担率を引き上げたり負担上限額を一部撤廃するなどして、何とか制度全体をもたそう」とするもの。もうひとつは「いまの制度が財源を考えると先行き厳しいから、社会的に罹患が自己責任になり得る高額治療の症例については保険制度から除外して、医療負担を軽減し制度全体をもたそう」とするものです。

長谷川豊さんのケースは文字通り「年間500万円を超える高額負担を公共に強いる人工透析患者は、だらしない生活の果てであるから全体最適のために殺せ」という話ですので、後者になります。暴論以外の何物でもないのですが、一方で、医療制度における「不公平感」という問題は残ります。この不公平こそ、問題の根幹なのではないかと思うのです。

元気に働いている国民にとって、社会保障は遠いところにあるものなのか…

言わずもがな、健康な人がお勤めをされ、その給与明細から高額の社会保険料が天引きされて、手取りが減ってイラッ☆とすることは多々あるかと思います。それもこれも、自分が健康で働けているからこそ給与明細をもらえるという幸せな立場にいるからなのですが、ただ実際に元気に働いているときほど社会保障のことなど考えないものです。

人によっては社会保障費の天引きは健康保険証があるからだと誤解をすることも多いようで、昔、私が投資をしていた会社では労働争議が持ち上がった際に「会社は社会保険料を天引きしている。それは健康保険証を悪用しているからだ」という珍説を団交相手から真顔で言われて呆然としたものですが、逆に言えば、国民、とりわけ元気に働いている人たちにとって、やはり社会保障はとても遠いところにあるものという認識になりやすいのでしょう。

ちょうど厚生労働省から国民健康保険事業年報・月報が出ていましたし、人工透析学会の資料もこの問題について考えをまとめる良い資料を提示してくれています。ここで名指しされた人工透析、つまりは大多数が何らかの由来による腎臓病において患者数は増え続けて、32万人を超えました。

日本透析医学会が発表している慢性透析患者数の推移を示したグラフ,40年間で30万人以上も増加していることがわかる

増加数こそ鈍化傾向にありますが、日本社会全体が高齢化をしていくなかで腎臓病だけが減少に転じるわけもなく、団塊の世代が後期高齢者に差し掛かるまではこの数字が横ばい、あるいは減少に転じる可能性は低いものと予測されます。

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