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民間が「掟の番人」になっている

■落ち込んだ

ここ何日かの僕は柄にもなく落ち込んでいて、それはある出来事が原因だった。

僕は小さな法人のトップとして、このYahoo!ニュースのようなかたちで自分にできる限りの発信に力を注いでいるのだが、週1回はまだ、ひきこもりや発達障害をもつ子どもや親御さんの面談を行なっている。

そのなかで、ずいぶん落ち込んでいた親御さんが先日やってきて、自分の子どもの対処方法を相談された。

その詳しい中身は当然書けないが、そのお子さんのニーズだったらここがいいだろうと思い、某支援機関を紹介した。

若者が抱えるニーズには、たとえば、友人関係、日常生活(調理体験等)の訓練、学び直し、就労に関する情報取得等、いくつかのパターンがある。

そのケースは典型的ニーズのひとつだったので、僕としては深く考えずにいくつかの機関をあげていった。

そうした機関はソーシャルワーク的には「社会資源」というのだが、それらの情報を提示していくと、親御さんは徐々に元気になっていった。

ここでは簡単に書いているが、僕としては支援者としての力の限りを尽くして目の前の親御さんに笑顔が戻るよう励まし、共感し、情報提供していった(当欄ではひねくれたことばかり書いているが、僕の日常はこうした支援が中心だ)。

だからその親御さんが帰る時、まあまあうまくいったなあと一安心したのだ。

■上司がオッケーといえば、現場では対応できる

が、しばらくして親御さんから、僕が紹介したある機関からはあっさりと面談のアポを断られたと連絡があった。

その理由は「年齢」制限だった。親御さんの子のクライエントの年齢は、僕が紹介した機関の対象年齢を超えていた。だから、電話の時点で、その支援機関は親御さんに対して「対象年齢ではない」とあっさり説明したのだと言う。

よくあることだ。僕に相談してきたその親御さんも「よくあることですよね」と笑っていた。

が、僕は無性に腹が立った。そして、珍しくひどく落ち込んだ。

子ども若者支援において、「18才」や「16才」は支援対象から外れる年齢としてよく知られる。18才であれば市役所や区役所の児童虐待や貧困支援からは外れる。16才であれば、行政の教育支援機関の不登校支援からは外れる。

だから、その親御さんが言うようによくあることなのだ。

では、なぜ僕はひどく落ち込んだのか。

それは今思うに、ふさぎ込んでいたその親御さんに社会資源の情報を提示してだいぶ元気になったにもかかわらず空振りしてしまった残念さに加えて、「年齢制限」に引っかからないでくぐり抜ける方法があることを僕がよく知っているからなのだろうと思う。

16才や18才が支援の制限だとしても、その支援組織を束ねるリーダーや上司が受けてオッケーといえば、現場では対応することはできる。

その、年齢制限という「法的制約」を監視する人や機関は実はどこにもおらず、それは法や仕様書に書いているだけの規則だ。

その法や仕様書の「例外」を許し、支援への扉を開ける許可を、組織のリーダーや上司が例外的に許すことができれば、支援することはできる。

■民間は掟を守らない代わりにイノベーション創出の権利をもつ

つまり、リーダーや上司が、法や仕様書の「例外」を認めることができれば、支援を受けるニーズをもった当事者たちとかかわることができ、かかわれば今の状態よりもいい方向に導くことができるだろう。

が、ほとんどのリーダーや上司は法を守る。

これが行政機関であれば、法の番人という定義上わかるのだが、いまの日本では、NPOや福祉機関(社会福祉法人等)といった行政から事業を任された民間機関のほうが過剰にルールを守るようだ。

冒頭の例にあげた社会資源も、民間機関だった。行政から事業を委託された民間機関が、行政以上に「例外」を許さない。

言うまでもないが、「例外」の積み重ねが新しいシステムを形成していく。また、「例外」のひとつがイノベーションとなる。

既成の仕組みを破る「例外」があって初めて新しい仕組みが現れるのだが、それは既存行政機関にはできない。行政機関は「掟」を守ることがその定義だからだ。

だから、掟の枠外にいる民間機関、たとえばNPOや社会福祉法人が、ルールや掟をあえて破り、「例外」を認めることでイノベーションをつくっていくしかない。

民間は掟を守らない代わりにイノベーション創出の権利を持っている。

そのイノベーション創出の権利を自ら放棄し、第二行政となっている。「掟の番人」は、最初の番人である行政機関だけで十分だ。行政事業を委託運営する民間機関が番人になる必要はない。

そうした意味に薄々気づいているせいか、この頃の僕は落ち込んでいるのだと思う。★

※Yahoo!ニュースからの転載

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