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死刑確定者と会うとはどういうことか~松本麗華さんの記事を読んで。

オウム真理教の教祖だった麻原彰晃氏の三女、松本麗華さんが、東京拘置所から再三に渡り麻原氏との面会を断られていることを公表して話題になっています。
今回は、松本麗華さんの記事を読んで思いついたことを、つらつらと書いていきたいと思います。

拘置所や刑務所に勾留・拘禁されている人(死刑確定者以外)が外部の人と面会するにあたっては、法律上様々な制限が設けられています。

例えば、まだ刑事裁判によって有罪が確定していないいわゆる未決拘禁者については、「1日に1回、1度に3人まで」と決められています。

受刑者については、まず面会できる相手方が、親族や釈放後に雇用を予定している人など一定の範囲の人に限られます。また、面会の回数は、受刑開始直後は1か月に2回とされています。その後、その回数は、問題行動なく受刑生活を送っている場合には徐々に増えていくことになっているようです。

面会には、刑事施設の職員が立ち会って、会話内容に問題がないかなどをチェックします。
面会時間は1回につき15分から20分と短いものです。

未決拘禁者は、まだ「罪人」と決まったわけではなく、矯正教育を受けている立場ではないので、受刑者よりも幅広く外部の人との面会が認められているのです。

余談になりますが、未決拘禁者は、本や雑誌を購入したり差し入れしてもらったりして、基本的には自由に読めますし、お金があればお菓子などを買うこともできます。

未決拘禁者の場合も、受刑者の場合も、弁護士との面会には、特別なルールが設けられています。
まず、自身の刑事事件の弁護人との面会については「秘密交通権」が保障されているので、職員の立会いも、時間や回数の制限もありません。

また、拘置所や刑務所における処遇の問題について弁護士の法律相談を受ける場合、法的措置に向けて打ち合わせをする場合にも、職員の立会いを排除することができます。

ただ、これらとは関係ない単なる民事事件の法律相談については、一般の方との面会とほぼ同様に扱われることとなります(但し、事前に申請することによって面会時間は一般の方よりも延長してもらえることが多いです)。

死刑確定者の扱いは、未決拘禁者や受刑者とはかなり違います。

法律上は、親族や「心情の安定に資する者」(例えば、旧知の友人などが当たります。)など一定範囲の人から面会の申し出があれば、原則として面会が許可されることとなっています。

がしかし、実際の運用は異なります。
面会の申し出をしても、法律上の例外に当たるとは考えられないようなケースで、面会することが認められないケースが散見されるようです。
従来面会を認められていた人について、ある日突然認められなくなった。そんなこともあるのです。
松本麗華さんの件は、特殊な事例ではありません。

最近麗華さんが面会を求めた際には、麻原氏が面会に応じる意思を表明しなかったからという理由で面会が認められなかったそうです。
麻原氏は現在右も左も全く分からない心神喪失の状態にあるということですから、それを前提とすると、面会に応じる意思表明をすることはありえないわけで、松本麗華さんは、この先も麻原氏には全く会えないということになります。

そして「面会に応じる意思を表明しない限り」面会を許可しないなどというルールは明示的にないわけで、拘置所の職員が松本麗華さんに告げた不許可の理由は、合法的なものとは考えにくいと言わざるを得ません。

死刑確定者の場合は、弁護士との面会も、受刑者や未決拘禁者と異なります。
どんな理由の面会であっても、必ず立会いが付くのです。
施設側の処遇に対する法律相談のために面会する場合、未決拘禁者や受刑者であれば、職員の立会いなくして会うことができます。

しかし、このような相談であっても、死刑確定者の場合には立会いの職員を排除することはできません。

また、再審請求をしている場合、担当の弁護士と打ち合わせをするにあたっても、職員が立ち会います。
先ほども述べた通り、未決拘禁者が弁護人と打ち合わせをする際には立会いが付くのです。これは、職員(国家権力)の監視を受けない弁護人との十分な打ち合わせの機会を確保するためです。
そのような機会が死刑確定者の再審請求には認められていないのです。

死刑確定者にとっては、再審請求は、死刑を回避するための最後の砦です。
通常の刑事手続と同等あるいはそれ以上に弁護士との密な打ち合わせの機会が保障されてしかるべきのはずなのに、それが確保されないのです。

聞いたところでは、職員からの信頼を得ている(例えば、長年コンスタントに面会に通っているような)弁護士との面会の場合には、例外的に立会いの職員が付かない場合があるようですが、特例的な扱いにすぎません。

このように、死刑確定者の外部との接触は著しく制限され、かつ必ず監視がつくことになります。
なぜでしょうか。

簡単に言えば、「ちゃんと死刑が執行できるように」と言われています。
死刑確定者は、いつ刑が執行されるかわからない常人では予想できないような恐怖とともに毎日を過ごしています。
執行に至るまでの過程で精神に異常をきたす人も少なくないと言われています。

つまり、いつどこでどんなタイミングで精神のバランスを崩すかわからないわけです。
死刑の執行は、確定者が「心身ともに健康な状態」でなければできないとされています。
精神に異常をきたされては、死刑を執行できないのです。
自殺されても困るのです。
そのために、余計な刺激が与えられないよう、外部との接触を制限し、監視をつける。

もちろん、死刑になるような重大な犯罪を犯した人間なので逃亡を何としても防がねばならないという事情もあるでしょう。

しかし、それ以上に、死刑確定者が日々どんな暮らしをしているのか。そんな内部事情がさらされないように、ということなのではないでしょうか。
あるいは「死刑確定者」自体を社会にさらしたくない。そんな思惑もあるように思えてなりません。

死刑確定者が施設内に拘禁されていることを「刑に服していること」と思っている人が少なくないようですが、死刑確定者に課される刑はあくまで「死ぬこと」です。
拘禁は刑の執行を確保するために行われているにすぎません。
そうであれば、本来、「刑の執行を確保するために必要な範囲」での権利制限しかできないはずなのです。
そして、「心身ともに健康な状態」を保つためには、然るべき人と自由に会えることが最も重要なことのはずなのです。

これに加え、死刑確定者との面会は、その家族や近しい人の権利でもあります。
麻原氏は、確かに最悪のテロ犯罪の首謀者です。
しかし、麗華さんにとってみれば、お父さんです。
お父さんの今の姿がどんなものなのか。
それを確認する権利が麗華さんにはあるはずです。
それは、麻原氏が凶悪犯罪の首謀者であったこととは関係ありません。

死刑確定者は、被害者やその家族、世論から見れば極悪人です。
しかし、裁判所から「生きる価値がない」と烙印が押されたとしても、この世の誰かにとっては生きる価値がある命の持ち主であること(あるいは、あったこと)は間違いないはずです。
国は、人を殺してはならないと義務を課しておきながら、自ら人を殺せる制度を作っています。
その矛盾を償う意味でも、死刑確定者とその人を大切に思う誰かとの最後の時間を大切に見守るべきではないかと思います。

*なお、私は死刑廃止論者です。

<付記:平成28年10月7日>
本投稿を読んでくださった同業の方から、東京拘置所では、再審事件の打ち合わせに当たっては30分の時間制限は課されるものの、職員の立会いはないという情報がありました。
また、別の弁護士からは、処遇相談と再審事件相談にあたりやはり東京拘置所で職員の立会いはなかったという情報がありました。
テラバヤシ自身が数年前に死刑確定者の処遇に関する相談を受けた際には、都度申し入れをしたにもかかわらず職員の立会いは排除されませんでした。
あたかも原則が「立会いあり」のような書き方を本文中でしてしまいましたが、刑事施設毎・事案毎に扱いが異なる可能性が高そうなので、この点は訂正させていただきたいと思います。

これは、死刑確定者に限りませんが、細かな面会等外部交通の運用は、施設毎、あるいは施設責任者の交代により変わるものです。
以前、名古屋拘置所においては、公判前・公判中の未決拘禁者において、弁護士側による私的精神鑑定を行う際には、数時間にわたりアクリル板のない部屋で面談等を行うことが認められていた時期がありました。
ですが、とあるタイミングで、このようなことが認められなくなりました(現在どのような運用になっているかわかりません)。
東京拘置所においては、(少なくとも数年前までは)アクリル板のない部屋での鑑定のための面談が認められることはなく、面談時間も30分以内だったようです(現在また運用が変わっていれば情報をいただけると幸いです)。

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