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理不尽に解雇され死亡した中国の大学教師 - 澁谷 司

政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

甘粛省蘭州市には、蘭州交通大学(旧蘭州鉄道学院)という公立大学がある。2003年、今の名称となった。現在、同大学は、工学系を中心に理系、経済、管理、人文等の専門分野を有し、2つのキャンパス、14の学院(学部に相当)と中国語学部など3つの学部を持っている。

 さて、2002年、同大学はその第2学院として、蘭州交通大学博文学院(教養学部。以下、博文学院)の設立を甘粛省教育庁に申請した。

 2004年、博文学院は中国教育部(日本の文科省に相当)によって、甘粛省で初めての独立学院(民間経営方式の高等教育機関)と認定された。そして、2008年から同博文学院は学生の募集を開始している。

 現在では、土木工程(エンジニアリング)系、電気通信工程系、機械電力工程系、情報管理系、交通運輸系、外国語系等9つの学部が設置され、在校生は1万1383人、教職員は714人いる。

 実は、今年(2016年)8月、その博文学院で英語を担当していた劉伶利という教師が癌のため、32歳の若さで亡くなった。これが中国では大事件となったのである。

 劉伶利は、4年前の8月、博文学院へ英語の教師として赴任して来た。だが、一昨年7月、劉は甘肅省人民医院(病院)で、卵巣癌と診断された。

 まもなく、劉伶利は、彼女の母親(劉淑琴)と共に大学へ休職届けを提出した。しかし、学院長の陳玲は、劉伶利と母親が提出した届けを正式には受理しなかったのである。

 劉伶利が癌の治療を受け始めてから5ヶ月経った翌(2015)年1月19日、劉は大学からの解雇通告を受け取った。陳玲学院長は、劉の長期欠勤を理由に、労働契約を破棄したのである(ちなみに、同時期、劉伶利以外にも、職員と教師が二人、解雇された)。

 劉伶利とその家族は、博文学院から解雇通知を受け取った後、同学院を労働契約違反だとして、甘粛省楡中県人民法院(裁判所)に訴えを起こした。

 同年10月20日、楡中県人民法院は、博文学院による劉の解雇は無効だとして、労働関係を回復する判決を出した。ところが、同学院は、一審判決を不服だとして、蘭州市中級人民法院へ控訴したのである。

 今年7月、同人民法院は二審でも、博文学院の劉解雇無効の判決を下した。けれども、同学院はその判決を無視している。

 普通、中国の労働規約では、病気を患ってから3ヶ月から24ヶ月の期間は治療を受け、再度、職を続けるか否かを決定するルールになっている。

 劉伶利が大学を辞めれば、当然、保険資格を喪失する。そのため、劉は癌の治療にかかる費用(数十万元)の大部分を自分で負担しなければならなくなった。

 結局、劉伶利とその家族は治療費を支払うことができず、十分な癌の薬を劉へ投与できなかったのである。そして、翌8月14日、劉伶利は死亡した。

 同月22日午後11時、博文学院は、ついに劉伶利の遺族に対して正式に謝罪し、お悔やみの言葉を公表した。

 そして、劉伶利と同博文学院の労働契約は有効だったとして、2014年9月から2016年8月まで2年間の給与、5万7600元(每月2400元と計算)と給与6ヶ月分相当の見舞い金、1万4400元、合計7万2000元(約110万円)を遺族へ贈った。しかし、すでに時遅しである。

 翌9月13日、博文学院は理事会を開き、陳玲学院長を解雇し、陳彪を次期学院長として招聘することを決めた。後に、陳玲は北京師範大学博士という学歴を詐称していた事が暴露されている。

 中国の大学は、国公立が主流を占める。だが、近年、民営の独立学院も増え始めた。大学はしばしば国公立を“看板”にして、独立学院の学生を集めることがあるという。

 一部の独立学院は、組織が民間企業と変わらず、利益を追求する機関となっている。そして、むやみに“なんとか費”と称して、父兄からカネを搾り取る傾向が強い。これでは、教育機関ではなく、単なる営利団体だろう。

澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、同大学海外事情研究所教授。
専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)等多数。

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