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ノーベル賞・大隅さんの警鐘は政府に通じまい

 ノーベル医学生理学賞に決まった東京工業大の大隅良典栄誉教授が日本の科学研究に警鐘を鳴らしているのが印象的です。メディアも社説などで同調していますが、大学いじめが自己目的化した政府に通じると思えません。東京新聞の《ノーベル賞・大隅氏 「科学が役に立つのは100年後かも」》で「今、科学が役に立つというのが数年後に企業化できることと同義語になっているのは問題。役に立つという言葉がとっても社会を駄目にしている。実際、役に立つのは十年後、百年後かもしれない」と語っています。現実に第535回「文科省主導の大学改革が国立大の首を絞める」で指摘したように国立大学は疲弊しきっており、研究論文数では先進国中で目を覆うばかりの地位低下を招いています。

 大隅さんの仕事の意味はご本人が朝日新聞のインタビューで答えている言葉で明解です。「たんぱく質の合成が大事だというのは異論がないわけですが、たんぱく質が作られた分だけ壊れないといけないので、分解はそれと同じくらい大事」。適切に細胞内で分解されないと様々な病気の原因になるとして近年、大注目されるようになりましたが、大隈さんはたった一人で単細胞生物の酵母を対象に研究を始めました。オートファジー(自食作用)は難しすぎる用語です。


 ノーベル賞級の仕事を説明する模式図を書いてみました。人類の持つ知の地平の一角で、新たな突破口を開く研究が現れます。そこから後続する研究で拡大していく知見の大きさでブレークスルーした研究のインパクトが測れます。大隅さんは酵母でたんぱく質を壊す仕組みを解明し、後続の研究者がパーキンソン病やアルツハイマー病など人間の病気との関連に到達しました。何処で突破口が開かれるかは予め分かるはずもないと、大隅さんは考えていらっしゃるから「役に立つ」研究志向に疑問を投げるのです。

 昨年夏、大隅さんは「科研費について思うこと」を公表して基礎研究の危機を訴えています。国立大に対する運営費交付金の継続的な削減で従来はあった研究できる環境が消え、科研費等の競争的資金が「研究費」そのものになってしまいました。

 《競争的資金の獲得が運営に大きな影響を与えることから運営に必要な経費を得るためには、研究費を獲得している人、将来研究費を獲得しそうな人を採用しようという圧力が生まれた。その結果、はやりで研究費を獲得しやすい分野の研究者を採用する傾向が強まり、大学における研究のあるべき姿が見失われそうになっているように思える》

 《安倍首相「日本人として誇り」 大隅さんノーベル賞》を見れば大隅さんの憂慮が理解されていないと読み取れます。

 《首相は「先生は常々、だれもやっていないことに挑戦するとおっしゃっておられ、そうしたチャレンジする姿勢が今回の受賞につながったのではないかと考える」と述べた。また、「今後とも政府としてあらゆる分野でイノベーションを起こし続けることを目指し、独創的で多様な研究をしっかり支援していくとともに、研究を担う人材育成に力を入れていきたいと考えている」と語った》

 政府が「選択と集中」のさじ加減が出来るとの不遜さをがノーベル賞学者の憂いの対象になっているのに、国立大運営費交付金削減を毎年1%ずつ積み増ししてきた失政への反省など何処にもありません。実用研究志向が強烈な韓国には1人もノーベル賞科学部門受賞者がいません。ある意味でオタクのような若き日の大隅さんの仕事ぶりを支えた環境が大学から失われたと指弾します。

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