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相次ぐテロで警備増強、軍や警察に漂う疲労感 - 宮下洋一

 昨年1月にパリで起きた週刊紙「シャルリー・エブド」襲撃テロを発端に、同年11月13日に同市内と郊外を襲った同時多発テロ、今年6月13日の警官殺害事件、7月14日に南仏ニースで発生したトラックテロ、同月26日の北部ルーアン近郊で起きた教会立てこもり事件とフランス国内ではテロが立て続けに起きている。

軍備増強も現れない成果

 これら一連のテロによる死者数は、合計で234人に上り、この1年半あまりで、フランスは史上最悪の悲劇に見舞われた。そんな中、フランスの内務省や国防省は、警備体制の限界に頭を悩ませており、国民は、成果が出ないテロ対策への不満を抱えている。

 フランソワ・オランド大統領は、パリの同時多発テロ以降、民間予備役の増強を進めてきたが、ニースのテロ事件を受け、7月20日、さらなる補強を決定。「すでに1万2000人の予備役が憲兵隊と警察に加わったが、これを(月末までに)1万5000人に引き上げる」と発表した。

 未経験の予備役志願者の対象年齢も、これまで30歳までであったのを、40歳までに広げた。

 南仏ペルピニャンで、郵便局長を務めるジャンクリストフ・ブレーズ氏(42)は、「憲兵隊から、急きょ、5年前に辞めた予備役への復帰を求められている」と示唆。「ただ、拳銃は携帯するが、使い方さえ知らない」と述べ、万が一の準備や訓練が備わっていない事実を嘆いた。

 闇雲に軍や警察を増強しようとするフランスだが、オランド大統領の感情論が先立っていると非難する声もある。

ある国防省幹部は、週刊誌「ル・ポワン」の取材に対し、切羽詰まった状況を明かしている。

 「それ(感情論)は理解できるが、フランス的な対応ではない。復讐のためにそう語るのかもしれないが、軍事的決定とは完全に切り離すべき」

 また、憲兵隊のジャンユッグ・マトゥリ中佐は、「疲弊した憲兵隊員や兵士は、職務で十分な警備を維持できなくなっている」と、日刊紙「ラクロワ」で吐露した。

制限される国民の自由

 この他、不法移民やテロリストの警備に当たる国境警察も、レタ・ドゥルジャンス(非常事態宣言)の延長を強いられている。

 スペイン・フランス間の国境警察官は「とにかく全車をコントロールしなくてはならない」と述べ、詳細については明かさない。陸路においては、5km走行するのに2時間を要する大渋滞を引き起こすこともあり、警備強化に賛成の国民も「これでは、時間のロスで仕事にならない」、「旅行の計画も立てられない」などのいら立ちを見せている。

 フィリップ・ドゥセ社会党議員は、テロ対策により、町中のデモ活動や、抗議運動が縮小される見通しを懸念。「身の安全を確保するため、どれだけの自由を断念せざるを得ないのか」ともらした。

 このように、相次ぐテロを受け、政府は警備補強を図ろうとする一方で、国民の自由や日常生活への支障が、日ごとに生じているのも現実のようだ。

テロにより分断されるフランス

 死者84人を出したニースでは、事件発生から2週間がたっても国家の追悼式が行われておらず、犠牲者の遺族や市民は、「(ニースのある)コートダジュールが無視されている」と怒りを表す。だが、政府は、度重なる事件の教訓から、場所とタイミングを慎重に検討していることを強調する。

 世論調査機関IFOPによると、パリ同時多発テロ事件後、オランド大統領のテロ対策を支持した国民は51%だったが、ニースのテロ事件後には、わずか33%に下落。

 テロ対策が難航する中、国会は7月中旬、ジハード(聖戦)を行う可能性のあるフランス帰還者に対し、懲役最高5年と罰金7万5000ユーロ(約870万円)の制裁を検討。国民運動連合(UMP)や国民戦線(FN)といった野党は、警備よりも、警戒する在仏外国人を直接閉め出す、排他主義的な行動を訴えている。

 移民対策に名乗りを上げたニコラ・サルコジ前大統領は、民放TF1で、「これは完全に戦争である」と警告。「敵には、タブーも国境も信条もない。だから私は強引な言葉を敢えて使う。彼ら(が生き残る)か、我々か。私なら別の政策がある」とほのめかした。

 移民に寛容で、テロ事件とはむしろ関係の浅かったフランスが、この1年半の間に窮地に陥った。今後、確実に増え続けるテロリズムにどう対処していくのか、フランスのみならず、国内治安確保に向けた冷静な判断が求められている。

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