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チケットの高額転売はなぜなくならないか

経営者 西山 圭=答える人 小泉なつみ=構成

約6割が定価以下、転売はファン拡げる

8月23日、日本音楽制作者連盟などの音楽業界の4団体と116組のアーティスト、24の音楽イベント主催者が「チケットの高額転売に反対します」という共同声明を発表した(※1)。 読売新聞や朝日新聞に意見広告を載せたほか、公式サイトも開設。「転売NO」というキーワードはネット上でまたたく間に広がった。

共同声明の背景にあるのは、高額転売を目的とした「転売屋」の増加だろう。各種推計によると、現在のライブや舞台の市場規模は5000億円程度。この20年で市場規模は2倍になった。それに伴い、ネット上でチケットを売買する「二次流通市場」も拡大した。かつて金券ショップが中心だった頃の市場規模は200億円程度だったが、ネットの普及で600億円程度に拡大したとみている。その結果、高額転売を目的にした「転売屋」の買い占め被害も目立つようになった。

私は「チケットストリート」という会社でチケットの二次流通を推進してきた。それはアーティストとファンの両方にとって、メリットがあると信じているからだ。今回の共同声明は、二次流通そのものを否定しているわけではないようだが、「転売NO」というキーワードは誤解を招きやすい。なぜ二次流通の促進が、音楽業界の発展につながるといえるのか。この機会に説明したい。

議論の前提となるのは「商取引は自由であるべき」という考え方だ。住宅、クルマ、家電など、買い手はニーズに応じて新品でも中古品でも自由に選ぶことができる。また一度買ったものは、売ることも自由だ。市場において公正かつ自由な競争が行われることで、消費者はいいものをより安く買えるようになる。

チケットでも同じことがいえる。実は二次流通のなかで定価を上回る「高額取引」はそれほど多くはない。チケットストリートの場合、定価を上回るのは全体の4割程度で、残りは定価以下の取引だ。定価割れするのは、ファンの数に対して公演会場が広すぎて売れ残っていたり、二階席や三階席などの悪い座席だったりする場合。「一次流通」の売り出し価格は主催者が決めるが、二次流通は需給バランスで決まる。定価割れであれば、参加者はいいライブに安く行けることになり、満足度は高く、ファン層を広げることにもなる。

このため米国ではチケットの二次流通を主催者自身が活用している。野球やアメフトなどアメリカの4大プロスポーツでは、全リーグ・全球団が転売や二次流通を公認しており、主催者は転売時の価格を詳しく把握することで、売り出し価格の見直しや、高額チケット購入者への営業活動などを行っている(※2)

共同声明では「イギリスではレディオヘッドなどのアーティストがチケット転売を防ぐための活動をしている」と紹介していたが、むしろ米国ではこうしたアーティストは少数派だ。世界最大の興行会社である米ライブ・ネイション社が二次流通に力を入れていることもあり、マドンナなど大半のアーティストが、転売や二次流通を容認している。

ただし、私も悪質な「転売屋」は厳しく取り締まるべきだと考えている。彼らは不正にチケットを買い占めて、価格を釣り上げることで利益を得ている。これは公正かつ自由な競争を妨げる行為で、消費者の利益を損なっている。主催者には不正を厳しく取り締まってほしい。また二次流通では、不正防止のために売り手の本人確認を徹底することが重要だ。チケットストリートでは「本人限定受取郵便」を通じて本人確認をしているが、二次流通業者のなかには本人確認を怠っている企業もある。そうした仕組みの未整備は不正の温床になる。是正が必要だ。

悪しき平等主義が「転売屋」を有利に

一方、たまたま当選したチケットが最前列などの「プラチナシート」だった場合、二次流通で高値取引されることもあるだろう。私は不正に入手したものでないならば、高額転売は容認すべきだと考えている。価値のあるものに相応の値段が反映されるのは、市場原理として自然だからだ。問題は、その利益がアーティストやファンではなく、悪質な「転売屋」に流れてしまうことだ。

ひとつのやり方として、「オークション」がある。昨年11月に宮城県石巻市で行われたX JAPANのチャリティー・ライブでは、最高で120万円の価格がついたという。このときの売上はすべて震災復興のために寄付されたが、それだけの価値があったともいえる。

価格を無視した需給調整は難しい。「チケットぴあ」や携帯向け電子チケットサービスを提供する「チケットボード」では、すでに定価に限定したチケットの二次流通を行っている。しかし定価限定では「安ければ買いたい」というファンの希望はかなわない。また本来の価値を知っている持ち主は、定価で譲ってしまえば事実上の「損」となるため、積極的に譲ろうとはしない。このためあまり拡がっていない。

「転売屋」を締め出すため、「顔認証システム」を採用する公演も増えている。購入者の顔写真を事前登録させ、入場時にカメラの画像認識で本人確認を行う。これは熱心なファンだけにきてほしい、という意向があるなら効果的な方法だろう。

しかし複雑な仕組みは、門戸を狭め、結果的にファンを減らす。顔写真を登録するため、数カ月前からの予約が必要で、購入のキャンセルや座席の譲渡はできない。さらに認証の費用は「システム利用料」などの名目でチケット代などに上乗せされてしまう。数万人規模の公演には不向きなシステムだ。ライブ体験の向上にはまったく寄与しないシステムのために、音楽業界全体が負担を強いられることになっている。

またチケットの入手機会が不透明で複雑なことも、「転売屋」がなくならない原因になっている。日本のエンターテインメント業界では、チケット価格の値上げを避けながら、実質的な販売価格を引き上げるために、「ファンクラブ会員先行」や「商品購入者限定」といった方法を取るケースが少なくない。購入方法が複雑になればなるほど、悪質な業者は情報をたくみに集めて、効率よくチケットを買い占めてしまう。そうなれば熱心にウォッチしていないライトなファンは、「転売屋」の高額なチケットを買うしかない。

米国の知人に「日本のファンクラブには高額な会費が必要だ」と話したところ、とても驚かれた。米国のファンクラブは、興味のある人をどんどん集めて、ライブ予定などの情報を提供する開かれた場所だからだ。閉鎖的な会員組織を通じてチケットを少しずつ捌いていく日本のシステムは、実は「転売屋」にとても有利だ。入手機会をできるだけ平等にして、主催者が本来の価値に応じた価格設定を行えば、転売で利益をかすめ取るのは難しくなる。


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パッケージは半減するも、ライブは2倍に成長中

10万円を超えるような高額転売の事例は決して多くない。どれだけ人気のあるアーティストでも、数万人規模の公演となれば「定価割れ」の座席が出る。悪しき平等主義はアーティストとファンの双方に不利益をもたらす。二次流通市場が正しく機能すれば、1人でも多くのファンをライブ会場に集められるはずだ。

音楽ソフトの市場規模は1998年をピークに約6000億円から約3000億円へと半減してしまった。このため音楽業界ではライブ活動がビジネスの主戦場になりつつある。ライブの質を高め、動員を増やすことが、音楽業界の未来をつくることになる。「転売NO」では、誰も得をしないはずだ。

※1:賛同団体は次の4団体。一般社団法人 日本音楽制作者連盟(FMPJ)、一般社団法人 日本音楽事業者協会(JAME)、一般社団法人コンサートプロモーターズ協会(ACPC)、コンピュータ・チケッティング協議会 https://www.tenbai-no.jp/
※2:チケットの売買サイト「StubHub(スタブハブ)」は、野球(MLB)、バスケットボール(NBA)、アメフト(NFL)、アイスホッケー(NHL)で公認済み。音楽イベントでもこの数年で急速に公認・容認が進んでいる。 http://www.stubhub.com/

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