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赤字企業が操業を続ける合理的な理由 - 塚崎公義

塚崎公義 (久留米大学商学部教授)

 赤字なのに操業をやめない企業、赤字とわかっていても注文を取りにいく企業があります。赤字なら操業を止めれば良いのに、と思う人もいるでしょうが、じつは操業を続けることが合理的な場合も多いのです。今回は、赤字操業の合理性について考えてみましょう。

企業のコストには固定費と変動費がある

 企業の利益は、売上からコストを差し引いて求めます。そのコストは、固定費と変動費に大別されます。変動費というのは、材料費が典型ですが、売上げが増えると増えるコストです。固定費というのは、正社員の人件費などで、売上げが増減しても変化しないコストです。

 店舗を借りている場合には、家賃は通常は固定費になります。もっとも、「売上げの1割を家賃とする」といった契約になっている場合には、家賃は変動費となります。自分で店舗を持っている場合には、減価償却費と借入金利(店舗購入費用を銀行から借りた場合)が固定費となります。ちなみに減価償却費というのは、「20年経つと店舗が古くなって使えなくなるから、店舗建築費用の20分の1を毎年の費用として利益から差し引いていこう」という部分です。

操業を止めると固定費が全額赤字に

 A社の固定費が10万円だとします。変動費は製品1個あたり2万円です。毎月の生産量は10個です。当社の製品は現在値崩れしていて、2万5000円でないと売れません。

 A社は、操業を止めると10万円の赤字になります。操業を止めて売上げがゼロになっても、正社員の給料などは払う必要があるからです。一方で、操業すると固定費と変動費の合計が30万円、売上げが25万円で、差引5万円の赤字になります。それならば、操業することは合理的です。

 B社はブランド品を作っていて、4万円でしか売らない方針です。しかし不況なので、4万円では3個しか売れません。そうなると、売上げは12万円、コストは固定費の10万円と変動費の6万円で合計16万円、差引4万円の赤字となります。この場合も、操業をやめると10万円の赤字になりますから、操業を続けるのが合理的、ということになります。

安売り競争が起きるワケ

 かつて、牛丼チェーン同士が壮烈な安売り競争を繰り広げたことがありました。これも、固定費と変動費を分けて考えると、御互いが合理的に行動している結果であることが理解できます。C店とD店には、それぞれ10席あります。客は10人で、1円でも安い方に行きます。1日当たりの固定費は1000円で、材料費は100円だとします。牛丼が300円で、客が5人ずつなら、平和です。C店もD店も、収入は1500円、固定費が1000円、変動費は500円なので、損得無しです。

 しかし、平和は永くは続きません。C店が牛丼を299円に値下げしたとします。C店の売上げは2990円、コストは固定費の1000円と変動費の1000円ですから、差引990円の利益となります。一方、D店は客がゼロですから固定費の1000円がそっくり赤字になります。

 D店は対抗策として牛丼を298円に値下げします。D店の売上高は2980円に、コストは固定費の1000円と変動費の1000円で差引980円の利益になります。一方、C店は客がゼロですから固定費の1000円がそっくり赤字になります。

 こうして値下げ合戦が始まるわけですが、どこまで続くでしょうか? 理論的には牛丼の値段が変動費プラス1円になるまで続きます。相手が102円で牛丼を売って自店の売上げがゼロになって1000円の損になるよりは、101円で売って990円の損にとどめた方が得だからです。

 牛丼の場合には、他業種から客を奪って来ることができますから、これほどヒドいことにはならないでしょう。たとえば牛丼が200円になれば、ラーメン屋から客が流れて来るかも知れません。それにより両店とも満席になれば、両店とも売上高2000円、固定費1000円、変動費1000円で平和が戻ります。しかし、たとえばガソリンスタンドの場合、他業種から客を奪って来ることができませんから、理論的には変動費プラス1円まで安売り競争が続く可能性があるわけです。

 こうした安売り競争は、固定費が大きく変動費が小さい装置産業ほど熾烈になりやすいと言われています。最近でも、中国の鉄鋼業が熾烈な値下げ競争に走ったため、国際的な鉄鋼市況が崩れて先進国の鉄鋼メーカーも痛い目に遭わされていましたね。

赤字操業すべきか否かはサンクコストの問題?

 「サンクコスト」という考え方があります。既に払ってしまった金は戻らないのだから、その事は忘れて未来志向で一番ベストな選択をしよう、という考え方です。本シリーズで、ビュッフェ店に入ったらマズかった場合、支払った代金の異は忘れて店を出て、自宅でお茶漬けを食べよう、と記しましたが、それがサンクコストの考え方です。じつは、赤字操業すべきか否かも、その考え方の応用なのです。

 固定費というのは、売上高と関係ない費用です。つまり、払ってしまった店舗購入費用、雇用契約を交わしてしまった正社員の給料など、「戻ってこない金」なのです。戻ってこない金のことは忘れて、未来志向で最良の選択をしようと思えば、「材料費より1円でも高いなら受注しよう」という選択になるわけです。もちろん、店舗を購入し、正社員を雇った判断が結果として間違っていたわけですが、今更それを言っても何もならない(死んだ子の歳を数えても始まらない)というわけですね。

固定費の大きな企業は収益の振れ幅が大きくなる

 企業の決算発表を見ると、売上げが10%以上増減することは希ですが、利益が10%以上増減することは珍しくありません。そのからくりも、固定費と変動費にあるのです。

 今、固定費8万円の理髪店があるとします。客単価は1万円、来店客が10人だとします。理髪店は、変動費はゼロだと考えて良いでしょうから、売上げが10万円、費用が8万円で利益は2万円となります。

 来店客数が11人となり、売上高が11万円に増えたとします。費用は8万円のままですから、利益は3万円となります。売上高が1割増える間に利益は5割増えるわけです。もっとも、良い事ばかりではありません。売上げが10万円から9万円に一割減ると、利益は2万円から1万円に半減してしまうのです。

 ちなみに、来店客8人で利益ゼロの売上高を、損益分岐点と呼びます。これを下回ると赤字に転落する、という境目の売上高です。損益分岐点の会社の売上げが僅かでも増えると利益が僅かに発生しますから、増益率は無限大になります。あまり意味のある数字ではありませんが。

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