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中国「ライブ動画の女王」たち、高収入の源泉は

By PANG YUHONG and OLIVIA GENG

 【新郷(中国河南省)】クイ・ユンカイさん(21)の仕事は、人口600万人の新郷の街が眠りにつく深夜から始まる。彼女の職業は自身の動画をインターネットで生配信すること。クイさんは「ダ・クイ(大きなクイ)」というハンドルネームで4時間にわたりファンと交流し、大きな声で中国のポップソングを歌ったりする。

 彼女の動画を見ているファンは、ハートやバラの絵文字を送信して応援する。「とても美しい歌声だ」「素晴らしい」といったコメントが画面を埋める。

 中国にはライブ動画をストリーミングできるプラットホームが200以上存在する。調査会社のiiメディア・リサーチによると、ライブ動画配信の市場規模は今や13億ドル以上に成長した。年内には国内のネット利用者の半数にあたる3億1200万人がライブ動画配信を視聴すると同社は予測する。動画配信のノウハウを伝授する大学講座も誕生する一方、政府はコンテンツの取り締まり強化に乗り出している。

 ライブ動画配信アプリの大手である映客(Ingkee)、斗魚(Douyu)、そしてキキ(Qiqi)といったアプリでは、「ストリームの女王」と呼ばれる人気投稿者たちに向けてファンがバーチャル・プレゼントを贈る。例えばクイさんのファンは、13.4人民元(200円)を支払えばバーチャルのバラを5本贈ることができる。動画はまるで集団オンライン・デートの様相だ。

 バーチャル・プレゼントの売り上げの半分はストリーミングを提供しているサイトの収入になり、残りの半分を動画投稿者とそのマネジメント会社が分ける形が多い。人気アプリのキキでは、貢いだ金額によってファンもランク付けされる。760円なら「お金持ち」。最高ランクの「神なる皇帝」の肩書を得るには7600万円を使わないといけない。

平均月収の10倍の収入

 クイさんは夜の仕事を初めてまだ数カ月だが、約4万元(60万円)の収入を毎月得ているという。河南省の平均収入の10倍だ。今は「クイ軍団」と名乗る5000人のファンが彼女の動向を追い続ける。クイさんは8月、7万人の投稿者が登録するキキで15位にランクインした。深夜に生配信される彼女の動画は、毎回1800人ものファンが視聴している。

 「最初の頃は1日に6時間も7時間もパソコンの前に座って動画を配信して、視聴者と話していた。食事をするのも忘れていた」とクイさんは話す。

ライブ動画配信サイト「キキ」では、視聴者は支払う金額によって28段階にランク付けされる。「神なる皇帝」になるには500万人民元(7600万円)の利用が必要だ(表中央の太字金額は各称号を得るために必要な支払い金額、その右は称号を維持するために必要な月額、単位は人民元)
ライブ動画配信サイト「キキ」では、視聴者は支払う金額によって28段階にランク付けされる。「神なる皇帝」になるには500万人民元(7600万円)の利用が必要だ(表中央の太字金額は各称号を得るために必要な支払い金額、その右は称号を維持するために必要な月額、単位は人民元)

  米アルファベット傘下の動画共有サイト「ユーチューブ」には10億人以上のユーザーがいるというが、番組は一方的なもので視聴者が参加することはない。生配信でチャットもできる中国のプラットホームは、ツイッターのペリスコープ機能に似ていると言えるだろう。中国の生配信の特徴は、視聴する側から直接収入を得るシステムができあがっている点だ。

 ライブ動画配信の分野には中国の大手企業が続々と進出している。8月、斗魚は国内インターネットサービス大手である騰訊控股(テンセントホールディングス)などから2億2600万ドルの資金を調達したと発表。中国一の富豪と言われる大連万達集団(ワンダ・グループ)の王健林会長の息子、王思聡氏は昨年、ライブストリーム用のアプリであるパンダTVを立ち上げている。

 中国の電子商取引最大手、阿里巴巴集団(アリババグループ)の動画部門である優酷土豆は、2014年にライブストリーミング用のサイトを立ち上げ、昨年はゲーム動画の配信を専門にする火猫TVに投資した。スマートフォンメーカーの小米科技(シャオミ)は、今年に入ってからミ・ライブと呼ばれるストリーミング・サービスを立ち上げた。競合が増える中で一歩リードしているのは、1日のアクティブユーザー数が700万人近いという映客だ。

セレブもストリーミングに参入

 有名人もライブ動画配信に参加している。リオ五輪で銅メダルを獲得した際の喜びぶりが話題を呼んだ競泳の傅園慧選手は8月に生番組を配信、1回で1100万人の視聴者を引き付けた。

 軍の兵士でさえライブ動画配信をする。人民解放軍の機関誌によると、腕立て伏せの仕方を教えたり歌を歌ったりする番組が今年に入ってから配信された。誤って軍事機密が流出する危険があるため、番組打ち切りの命令が出たという。

 「ストリームの女王」の中でもトップクラスのカオ・アンナさん(26)は、これまでの最高月収が100万元(1500万円)。たった2時間の放送で26万元(390万円)を手にしたこともある。

 もっとも、それほどの高収入は珍しい。パンダTVで2カ月にわたって配信をしているジ・ハンさん(21)は、月収が2000元(3万円)に達したと話す。「これは激務だ。わずか数人しか視聴者がいなくても、3時間にわたって話したり歌ったりし続けないといけない」と彼女は言う。

中国のライブ動画配信アプリ「映客」の画面
中国のライブ動画配信アプリ「映客」の画面
Photo: Ingkee


大学でライブ動画配信講座も

 浙江省にある義烏工商学院によると、この秋に同大学に入学した3000人のうち25人がライブ動画配信に関する訓練プログラムを受けるという。プログラムは昨年から始まり、すでに1万人以上のファンを持つ学生もいるという。講義では動画配信のエチケットを教えるほか、踊りや運動のレッスンもある。最終試験では、30秒の動画配信を想定して連続してポーズを取る課題を与えられる。

 一方で政府は、急成長を続けるライブ動画配信市場の取り締まり強化を模索する。中国の国家新聞出版広電総局は今月、動画配信の認可を得るための新たな要件を発表。番組が違法な内容を含んでいてはならず、「拝金主義」など下品な内容は拒否すべきだとしている。 

 中国のソーシャルメディア企業YYでエンターテインメント・プラットホーム部門を指揮していたグ・フェング氏は、この新たな規制によって業界の整理・統合が促されるとみている。中小の業者には資本面などで認可を取得する要件が満たせないためだという。

 グ氏はライブ動画配信が飛躍的に広まった背景として、孤独や退屈といった要素が大きいと分析。ファンは「オンライン上の有名人と話すためにお金を払う」と指摘する。ただ政府の規制が強まることで、業界の初期の成長期は終わるとみている。

 黒竜江省ハルビンの質店で働くソン・シナンさん(22)は、クイさんのライブ動画配信のファンだ。8月から計2000元(3万円)を貢いだと言う。彼はクイさんについて「お金だけが目的で偽善ぶっている他のキキの女性とは違う」と話す。多額の支払いをしたため、現在のランクは「子爵」だ。

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