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なぜ社長は辞められないのか?

■自分から辞められない経営者たち

今年はセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長の解任、ソフトバンクグループの孫正義社長の引退撤回と、経営者の進退問題が話題になりました。また、それ以前であれば、大塚家具の父娘の社長の椅子争い、ファストリテイリングの柳井社長の社長復帰など、辞められない経営者たちの例は枚挙にいとまがありません。

名経営者たちが事業承継を考えながらも、なぜ「辞められない社長」になってしまうのか? 彼らには遠く及ばないものの、私もつい2日前に後継者に社長のバトンを渡して退任し、彼らの気持ちが痛いほどよくわかりましたので、少しまとめてみたいと思います。

1.社長には辞める自由がない

「こんな会社もう辞めてやる!」と思ったことのないサラリーマンは恐らくいないのではないでしょうか? 

私も会社員を何度か経験しましたが、就業中、辞めたいと思ったことは何度もあり、実際に辞めました。経営者になっても同じで、専務時代には何度もそう社長に言ったこともあります(その結果、「そこまで言うなら自分で社長をやれ」と言われて社長になったのですが・・・)。

しかし、自分自身が代表取締役になって初めて気がついたのは、「社長には辞める自由がない」ということです。 数年単位で社長が交代するのが当たり前のサラリーマン社長や、強制的に事業を停止せざるをえない倒産を別にして、定年がない社長業を辞めるには、廃業にしても、事業承継にしても、自分が辞める前に長い時間をかけて準備をしなければなりません。当然その間は辞められないわけですから、衝動的に辞めたいと思っても辞めるまでの期間はやはり事業を続けるための気力と努力が求められます。

まして銀行の借り入れがあれば、(上場企業を除き)ほとんどの社長が個人保証をしています。返済のめどがたたないまま社長を辞めてしまったら、会社の借金を一生かかって返す人生が待っている可能性は低くありません。

このように「辞められない」状況で長年働いていると、社長の辞書からはいつの間にか「辞める」という文字が消えてしまいます。「とにかく自分が責任をもって事業を続けるしかない」という使命感のようなものが長年の社長生活の間に体にしみついてしまうのです。

2.後継者との力量の差に我慢できない

どれだけ権限を委譲していても、どれだけ優秀な後継者候補がいても、社長とナンバー2以下の取締役及び社員が決定的に違うのは、最後に決断をし、その責任をとるのは社長以外にいない、ということです。

私は16年間社長を務めましたが、その間、文字通り一時も気が休まることはありませんでした。営業、生産、人事、財務など、すべての分野でごくごく細かいことまで「あれはどうなってるんだろう?」と夜中に気づいてメモをし、翌朝一番にチェックするのは日常茶飯事。休暇をとって旅行に行っても、会社のことが頭から離れたことは一度もありません。

こういう生活を長年続けていると、社長の力量は当然、上がっていきます。逆に、ナンバー2以下がどれほど優秀だとしても、この立場からくる差は決して埋めることができないのです。その結果、長い目で後継者を自分が育てているつもりでも「自分だったらこうするのに」という気持ちがむくむくと社長の心の中に湧き上がってきます。そして「やっぱり自分でなければこの会社を続けていけない」という結論に往々にして至ってしまうのです。

3.会社に対する思いが断ち切れない

社長にとって、苦労しながら育ててきた社員たち、自社製品やサービス、オフィスや生産設備、そして敷地内の植木の1本1本に至るまで、会社に関わる全てのことは自分自身の人生と重なります。

大切な社員が一人前になるまでにぶつかりつつ、励ましつつ共に働いた日や、ヒット商品を生み出すまでに重ねた苦労と失敗、不安を感じながらも背伸びをして借り入れで購入してきた社屋や機械など、会社には社長の脳裏にその時々の記憶を鮮やかに蘇らせてくれる人や物があふれています。

自分が社長の座を降りるということは、それらすべてが後継者のものになること。大塚家具の例でもわかるように、自分の遺伝子をもつ息子や娘でもなかなかできないのに、ましてや血がつながらない後継者(私の場合も後継者は他人です)をいくら信頼し、期待していても、会社を渡すことは自分の人生を失ってしまうような感覚につながるのです。

■辞めるためには退路を断つしかない

冒頭に挙げたような名経営者たちは、自分が永遠に社長を続けられないこと、いつかは大事な会社を託す後継者に事業を承継しなければならないことは100%わかっているはずです。それがどうしても実行に移せないのは、やはり上に述べたような社長の心の在り方自体に問題があると思います。

しかし、そのような社長が承継準備ができていないまま突然亡くなったり、病気や事故など社長を辞めざるをえない状況に陥ったときに最も大きなダメージを受けるのは、その会社の社員です。私自身も後継者不在のまま50歳を超えたとき、さまざまな可能性を考えつつも「このままではもし私に万一のことがあったら廃業以外に道はなく、社員の生活を守れない」と思い至り、事業承継の準備を始めました。 その際真っ先に考えたことは、絶対に「やっぱり社長辞めるのをやめた」と自分が言えないよう、すべての退路を意識的に断つことでした。

「社長を辞める」、16年の社長人生の中で一番困難な仕事だった事業承継を終えて、現在、心の底から安堵しています。

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