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「採用」を科学する 『採用学』 - 中村宏之

 大学入試や就職活動ほど世代によって状況が異なるライフイベントはない。特に就職活動は、経済の好況や不況によって大きく変わり、世代を構成する人数によっても変わる。四半世紀以上も昔の筆者(中村)の就職活動は、当時はそれなりに必死だったつもりだが、今と比べると極めて牧歌的なものに思える。オンラインのエントリーなどなく、提出や登録の書類はすべて手書きだったし、携帯やメールなどもなく、連絡はすべて固定電話だった。それを考えると今の学生はエントリーシートなど電子的な手続きが多くて大変なのだろうなと想像する。

 企業が新卒学生をとるためにコストと時間をかけるという点は昔と変わらないが、将来の企業を担う人材をどう確保しなければならないかというのは、時代の先の先を読まなくてはならず、それも以前とは質的に大きく変わってきているのだろう。

 本書はそうした現代の採用の最前線がどうなっているのかを論理とデータにもとづいて分析した。

ガラパゴス化する日本の採用


『採用学』
(服部泰宏、新潮社)


 そもそも採用とは何か、という問いから説き起こす。

 〈企業の目標および経営戦略実現のため〉であるとともに、〈組織や職場を活性化させるため〉であるが、その中で「良い採用」については〈高い仕事の成果をあげる人材を採用することと高い満足度を得て中長期的に企業にとどまること〉という点についても指摘する。その上で日本の採用が「ガラパゴス化」しているとみる。

 〈同じような採用基準により、同じような「優秀さ」をめぐるきわめて同質化した競争になっている〉という指摘は頷ける部分も多い。

 候補者獲得の過程で優秀な人もそうでない人も多くの人材を確保しようと企業はヒートアップし、求職者の側も加熱するという指摘もよく理解できる。そしてその後採用を絞り込む過程で企業は様々なコストをかけているのである。

 画一的な採用方針で果たしていい人材がとれるのか。苦労して採用した人材をどういかすのか。企業哲学や経営方針に密接にかかわってくる問題である。

 ただ自分の周囲の友人や知人の例を見ても、例えば商社や証券会社で、業界1位と2位の企業で、入社時点での人材の質が大きく異なるかということはあまりないような気もする。

 逆にある銀行では、ある年と翌年の採用でリクルートの手法を少し変えただけで、優秀さの度合いが異なる、全く違うタイプの社員が集まったというケースもあった。

対象者の「何を見るか、何をみないか」

 著者は採用でミスマッチを起こさない重要さも指摘する。企業が自社をめぐるポジティブな情報を出し過ぎて採用すると、その後、現実とのギャップに違和感を持つ人も出てくるからだ。

 〈結局、現実的な相互期待のマッチングがなされていない多くの社員を生み出してしまう〉こととなり、最終的に大量離職を招くことになる。

 さらに

 〈教育研修やキャリア、昇進といった部分で、社員と企業の間の期待のミスマッチが入社後に大きな問題として表出する〉という著者の研究成果は、自分も企業に所属する者の一人としてわかるような気がする。企業はきめ細やかに情報を出して理解を進めることが大切なのだろう。

 優秀さとは何か。選抜時のポイントとは何か。本書では興味深い指摘が並ぶ。それぞれが具体的な事例やデータを使いながら詳しく解説されている。

 また採用にあたって対象者の「何を見るか、何を見ないか」も重要で、ゲーム化している日本の採用の中で、その基準が変わっていくことも起こりがちだ、という指摘は同意できる。基準をしっかりもち、みるべきポイントを絞り込むという指摘は多くの企業に共通することだろう。

 本書の中で印象に残る言葉に「採用イノベーション」という表現があった。画一的なスタイルに陥らないように、実に多くの企業が様々な工夫をこらしているのがわかる。求職者に複数のエントリー口を用意する製菓会社や、フリーターを積極採用する運輸関連企業など、豊富な事例が紹介されているのは興味深い。

 採用という企業それぞれに固有の事情や特徴がある難しい分野を科学的に分析した力作である。採用する側、される側の双方に大いに参考になるだろう。

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