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英国はいつEU離脱通告を行うのか? - 岡崎研究所

 German Marshall Fund of the USのマイケル・リー上席研究員が、8月22日付のGMFのサイトで、英国のEU離脱の弊害をなるべく小さくすべきことを訴えています。要旨は、次の通りです。

計画も目標もないBrexit

 1956年のスエズ危機あるいは1938年のミュンヘン協定以降において、キャメロン首相による国民投票の決断ほど英国と欧州に害をなしたものはない。政府にはBrexitを実行する計画も交渉目標についての考えもなく、全く準備が出来ていない。Brexitは、テロ、難民、エネルギー安全保障、気候変動といった課題に対応するEUの努力を削ぐことになろう。この害を緩和することに英国と欧州、さらには米国も利益を有する。

 メイ首相は保守党を纏め、英国独立党をコントロールするために、ひどく遅れることなくBrexitを実現しなければならない。しかし、フランス、ドイツ、オランダが、選挙を前に満足な取り引きに応ずるとは期待できない。従って、メイが時間をかけて達成可能な交渉目標を練り上げ、正式に離脱通告をする前に瀬踏みをすることは正しい。

 この一時休止によって英国はその可能なオプションについて現実的になれるかも知れない。毎日のように離脱に伴うコストが明らかになる。EUに支えられて来た科学者、研究者、農民、漁民が政府に同様なスキームを提供するよう陳情している。しかし、政府の財政には限度があり、彼等を満足させられない。大学は多くのEUの留学生を失うことに驚愕している。建設企業にとっては、世界最大の貸し手である欧州投資銀行に代る貸し手は容易に見つからない。

 欧州委員会は早急な交渉開始を言い立てている。離脱の波及を防ぐため英国を痛い目にあわせるべきと言う意見もあるが、英国と緊密な関係を維持し続けることが利益であるとの認識の兆しも見られる。

 単一市場は加盟国の相互の経済的利益の上に築かれている。従って、無制限な労働力の移動に対する或る程度の制限は受け入れ得るとEU諸国は判断するかも知れない。公式原則にも拘わらず、排外主義的ポピュリストに向き合っているEUの首脳たちはこれを歓迎するかも知れない。
メイ首相は選挙で承認を得られれば、EUと取り引きする立場が強化されるだろう。彼女は、労働党が混乱状態で、英国独立党も内部対立にあることを利用して不意に選挙を打とうとするかも知れない。

 英国のEU離脱合意は、それがEUのあり方についての再検討の一部を成すのであれば、より好ましいものとなろう。EUに対する不満は広く存在し、現行のモデルは限界と思われる。欧州の首脳たちは、塹壕に籠るのではなく、英国との新たな関係を築くことによって、多様化した、より柔軟なEUモデルに到達する方途を考えるべきである。


出 典:Michael Leigh ‘Brexit: Limiting the Damage’ (German Marshall Fund, August 22, 2016)
URL:http://www.gmfus.org/blog/2016/08/22/brexit-limiting-damage

 この小論の論旨は明快ではありませんが、英国は時間をかけても離脱戦略を練り現実的なオプションを整理すべきこと、他方、EUは現行のモデルをより柔軟なモデルに見直し、その作業の関連で英国とは密接な関係を構築すべきこと、を論じています。

離脱相と国際貿易相で権限闘争

 時間をかけて良いと筆者は書いていますが、国民投票から2カ月すぎても、離脱戦略の検討は全く進んでいない様子です。それどころか、ジョンソン外相とデービスEU離脱相およびフォックス国際貿易相との間で権限闘争が展開されています。EU離脱省と国際貿易省という外務省を始め他の省と担当分野が重なる二つの省を新設したのですから、当然起るべき紛争が生じているともいえるでしょう。報道によれば、外務省の欧州部局とブリュッセルのEU代表部はEU離脱省の管轄に移行するようです。フォックスは外務省の経済部局の吸収を目論み、ジョンソンと対立しています。彼は国防省や財務省の貿易関係部局の取り込みも狙っています。従って、EU離脱省と国際貿易省の陣容は未だ整わず、離脱戦略どころではないようです。

 テリーザ・メイは来年始めにはEUに離脱通告を行うとしていましたが、これが遅れて来年末頃になるのではという憶測も見られます。この小論は来年春にはオランダの議会選挙とフランスの大統領選挙、秋にはドイツの議会選挙が予定されていて、それまではこれら諸国は柔軟にはなり得ないので、離脱通告が遅れることになっても構わないといっているように読めます。しかし、先行き不透明な状態をそこまで引き摺ることの可否が問われざるを得ないでしょう。

 小論は離脱交渉において人の移動の自由について或る程度の制限を課すことに合意が成立する可能性に言及しています。英国を除くEU諸国に見られる排外主義的感情は専ら中東や北アフリカからのムスリムの移民に向けられたもので、他のEU諸国からの移民に向けられたものではないように見えます。しかし、この感情がEU諸国からの移民にも向けられるのであれば、そしてそれがオランダ、フランス、ドイツの選挙を通じて露わになるようなことがあれば、英国の望む移民の流入急増の場合の緊急ブレーキの仕組みに合意が成立するかも知れません。換言すれば、離脱通告と交渉を遷延させることによって一転してBrexitを回避することが可能になるということかも知れません。

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