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ドイツ銀行から「ヘッジファンドの客が逃げ始めている」ということの持つ意味

先週、「ドイツ銀行からヘッジファンドの客が逃げ始めている」という報道がありました。これは預金者が銀行に預けている貯金を引き出すのとはちょっと違います。

そこで今日は「ヘッジファンドの客が逃げ始めている」という言葉の意味を説明したいと思います。

まず機関投資家の中でも年金のような保守的な運用主体は信託銀行に口座を開設し、最終顧客の資産をそこで運用、管理します。

これに対し、ヘッジファンドのような、トレーディング主体の機関投資家の中には、日頃からレバレッジを多用する関係で、投資銀行のプライムブローカーと呼ばれるサービスを利用することが多いです。

今回、「ドイツ銀行からヘッジファンドの客が逃げている」と言った場合、このプライムブローカー契約を解約しているという意味です。

プライムブローカーとは、あえて言えば「主取引証券」とでも訳すことができると思います、

そこでは投資銀行が、ヘッジファンドから受けた株や債券の売買注文を執行することもします。それに加えて、買った証券を保管します。また空売りするときは借株の手配をします。そして毎日の口座残高の計算をします。さらに情報端末を提供するなど、ありとあらゆるサービスを提供するわけです。

これは簡単なようで、実はかなり高度なインフラストラクチャが投資銀行に要求されます。なぜなら投資銀行は、プライムブローカーの利用者に対し、リアルタイムでポジションの状況を、ポータル・サイトを通じてアップデートする能力が要求されるからです。

株式、債券など多種類の原資産について、いろいろな通貨建てのポジションを、ロング(=買い持ち)とショート(=空売り)の両方に関し、総建玉、差し引きネットでの建玉など、あらゆる角度から正確に把握できるようにしなければいけません。

さらに分析ツール、VaRなどのリスク管理ツール、日報、月報などのりぽーティング・ツールも提供します。

プライムブローカーはヘッジファンド顧客がある株をショートしたいとき、その借株の調達もします。大きい投資銀行の場合、店内のポジションから借株が調達できれば、借株コストをさらに下げることも出来ます。

また投資銀行は新興国株式や普段余りトレードされない原資産に関しても、幅広く、ロー・コストな執行能力が要求されます。

このようにプライムブローカーのサービスを他行に比べて競争力のあるものにしようと思えば、IT、トレーディング・デスク、バックオフィスなど、あらゆる面で優れていなければいけないのです。つまり投資銀行のリソースを全部投入する「総力戦」と言えるでしょう。

代表的なところでは:

モルガン・スタンレー
ゴールドマン・サックス
JPモルガン
ドイツ銀行


などのプライムブローカーのサービスが有名です。

仮にA社をプライムブローカーに指定しても、株の注文を他証券に出すことも、もちろん出来ます。

しかしプライムブローカーは、いわば「正妻」なので、普通、一番たくさんのビジネスをそこへ集中します。

だから投資銀行はまずプライムブローカーの契約を獲得することに力を入れるわけです。

それではヘッジファンドは何を基準にプライムブローカーを選定するか? という点ですが、それは:

1) 投資銀行の信用
2) 注文執行能力
3) 情報ツール
4) リサーチ
5) リスク・ツール
6) 日報、月報の見やすさ、使いやすさ

などになります。

長い間、モルガン・スタンレーが総合的にナンバーワンのプライムブローカーと見做されてきました。

またゴールドマン・サックスは情報ツールなどの点ではモルガン・スタンレーに負けていたけど、特に債券を主にトレードするヘッジファンドにとっては重要なプライムブローカーでした。

そのような中にあって、ドイツ銀行も、有力なプライムブローカーの候補として業者選定する際、必ず検討する対象のひとつでした。

ドイツ銀は国際分散投資をするヘッジファンドには人気でしたし、特にオフショア・ファンドを設定する際、他のプライムブローカーよりアドバンテージがあったと思います。

すると「最近、ドイツ銀行からヘッジファンドの顧客が逃げ出している……」と言った場合、それはプライムブローカーからドイツ銀行を外すという意味なのです。

具体的にはドイツ銀行で預かってもらっている券面を引き揚げて、他社へ移し替えするわけです。

なぜヘッジファンドがそうするか? と言えば、それはプライムブローカーが信用取引などの際に「信用力」をヘッジファンドに提供する関係で、ドイツ銀行の信用力に揺るぎが生じると、ドイツ銀行に決済を依存しているヘッジファンドのいろいろな取引にも円滑性が保証できなくなるからです。

現在、ドイツ銀行のファンディングに占めるプライムブローカーの割合は7%程度に過ぎません。だからAQRのような有名なヘッジファンドがドイツ銀行から逃げても、それがドイツ銀行のファンディングに与える影響は軽微だと思います。

ただそれらのヘッジファンドは「リスクを感じ取る嗅覚」がとりわけ敏感なので、そういうリーダー的なヘッジファンドが逃げると、他の顧客も不安になるというわけです。

DB

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