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産休・育休中の女性社員には社会保険料がかからないことを知っていますか? - 榊 裕葵 社会保険労務士

最近、当事務所において女性社員の妊娠・出産に関する対応についての問い合わせが立て続けに数件あった。

■産休・育休中の女性社員の雇用コストの実際


経営者の方からしばしば相談を受けるのは、「育児休業を取得させたいのはやままやまだが、大企業ならともかく、うちのような小さな会社ではコストが・・・」という話である。

確かに、経営者の方の気持ちは理解できる。

しかしながら、妊娠した女性の雇用継続にはコストがかかるというのは大きな誤解であり、雇用を継続して産休・育休を取得させることのほうが会社にとってプラスになるのだということを本稿では説明したい。

また、本稿が、妊娠した女性の雇用の維持につながれば幸いである。

■産休・育休中の女性社員の給料は不支給でOK


第1に、給料についてである。

労働基準法において、妊娠した女性は、産前6週間、産後8週間の産前産後休暇を取得することができることになっている。そして、育児介護休業法では、それに引き続き、原則として子が1歳に達するまでに間、育児休業を認めている。

経営者にしてみれば、出産はお祝いすべきことであれど、長期間勤務から離れる社員に対し、賃金を支払うことは難しいと考えるのが自然であろう。

この点、休暇を取得させなければならないことと、賃金を支払うことは別問題である。休暇を取得させ、なおかつ賃金も支払わなければならないのは年次有給休暇のみであり、それ以外の休暇については、無給で差し支えないのである。

産前産後休暇および、育児休業期間においても、会社は1円も賃金を支払う必要はないので、経営者の方は安心して頂きたい。

会社が賃金を支払わないかわり、産前産後休暇や育児休業の期間の本人の所得補償としては、産前産後休業の期間については健康保険から本来の賃金の約3分の2が「出産手当金」として支払われ、同様に、育児休業の期間については雇用保険から、本来の賃金の約3分の2から約2分の1が「育児休業給付金」として支払われることになっているのだ。

すなわち、産前産後および育児休業期間中の女性社員の賃金は、国が肩代わりしてくれるということである。

■産休・育休中の女性社員は社会保険料も免除


第2に、社会保険料についてである。

産前産後休業や育児休業で勤務していない女性社員に対して賃金を支払わなくても良いことが分かったとしても、事業主の方が次に懸念するのは社会保険料の支払であろう。

社会保険料は、健康保険料と厚生年金保険料を合わせて、賃金額面の約30%になり、これを約15%ずつ会社と本人で折半負担している。

そうすると、賃金はゼロで良いとしても、社員が在籍している以上、社会保険料の負担は続くのではないかということが懸念として出てくる訳である。

この点も、安心して頂きたい。産前産後休業期間中および、育児休業期間中の社会保険料は、会社負担分、本人負担分含め、全額が免除となるのである。ただし、免除を受けるためには会社を管轄する年金事務所へ免除の申請書を提出する必要があるので、それを忘れないように気を付けて頂きたい。

このように、産前産後休業、育児休業期間の女性社員に関しては、賃金と社会保険料含め、会社には金銭的な負担が生じないような法制度になっているのである。

であるから、経営者の方は、コスト面を懸念して、妊娠した女性の「解雇」や「雇止め」をしないようにして頂きたい(そもそも、妊娠を理由とした解雇や雇止めは法的にも違法である)。

■産休前からつわりが酷い場合の対応は?


さて、ここまでが原則論であるが、実務において少なからず相談を受けるのは、妊娠中の女性が、つわりが酷いことなどを理由に仕事のパフォーマンスが落ちたり、産前休暇が始まる前に休みがちになってしまうようなことについてである。

このような場合、会社としてはどのように対応すべきであろうか。

まず、つわりが極めて酷い等で、ほとんど就労できないようなケースである。このような場合には、無理に働いてもらって本人が苦しんだり、流産のリスクが生じることなどは望ましくないので、本人と話し合った上、早目のタイミングで休職に入ってもらうことが望ましい。良く話し合うのが大前提であるが、本人があくまで就労すると言い張っても、業種によっては、安全上の理由から、会社が出勤を禁ずる業務命令を出すことは許されるであろう。

なお、上記のような場合、「つわりが酷くて就労が不可能である」という医師の診断書をもらえば、健康保険から通常の賃金の約3分の2の金額が「傷病手当金」として支給される。すなわち、「出産手当金」を産前6週間より前倒しでもらっているのと同じ状態になるということである。

次に、ある程度の就労は可能であるが、パフォーマンスは落ちるというケースである。このような場合には、短時間勤務、在宅勤務、軽易な業務の転換など、本人の負担を軽減する方向で勤務条件を調整すべきであろう。

現在はインターネットやクラウドサービスも発達しているので、資料作成やデータ入力などであれば、在宅勤務も充分に対応可能なはずだ。

■助成金を活用すれば会社の負担はさらに減る


しかしながら、事業主の方のしてみれば、前倒しで休職に入った部分の社会保険料の負担や、パフォーマンスが落ちている期間の周囲がフォローするコストなどは実際のところ気になるであろう。

このようなコストをカバーするためには、助成金の活用を検討することができる。

たとえば、現在活用できる助成金の中に、「両立支援助成金 育休復帰プランコース」というものがある。この助成金は、会社が産前休暇に入る前の女性社員に一定の助言やフォローを行い、当該女性社員が育児休業を3か月以上取得したら30万円が支給され、本人が職場復帰した場合にはさらに30万円が支給されるというものである。すなわち、会社は女性社員に育児休業を取得させ、復職させるという法律通りのことをきちんと行えば60万円の助成金が受けられるという訳である。

60万円あれば、妊娠した女性社員を周囲がフォローするコストはそれなりに吸収できるのではないだろうか。

このように、女性社員が妊娠し、産前産後休暇や育児休業を取得したとしても、法制度をきちんと読み解いたり、助成金を活用したりすれば、会社にかかる負担は、少なくともコスト軸に関してはミニマム化できるのである。

■コスト軸以外で考えられること


コスト軸以外では、当該女性社員の不在中の業務のフォローを誰が行うのかが懸念されるが、社内人員のやり繰りでフォローをするということであれば、引継ぎを行うことをきっかけに、業務の見える化や効率化などにつなげるチャンスであると前向きに捉えたい。

また、人材派遣や臨時雇用により代替要員を確保した場合には「両立支援助成金 代替要員確保コース」という助成金を利用することができ、会社は50万円の助成金を受け取ることができる。

あるいは、たとえば出産する女性が経理や総務などを担当していたというような場合は、近年は様々な事務系のアウトソーシングサービスが広がっているので、休暇期間中は代行業者に記帳や給与計算などを依頼するというような方法も取れるであろう。

■結び


このように、妊娠・出産をする女性を支援し、会社にも過度の負担をかけないような法制度や社会的インフラは想像以上に整っている。したがって、「何となくコストがかかりそう」というイメージだけで女性社員の妊娠・出産をネガティブに捉えるのではなく、逆に、会社としても積極的に応援していきたいものである。

そうすることで優秀な女性社員の退職を防ぎ、求人活動においてもポテンシャルのある人材を惹き付けることにもつながるのではないだろうか。

《参考記事》
■社会保険の未加入企業は「逃げ切り」ができるのか? 榊 裕葵
http://aoi-hrc.com/shakaihoken-mikanyuu
■社員を1人でも雇ったら就業規則を作成すべき理由 榊 裕葵
http://aoi-hrc.com/blog/shuugyoukisoku-sakusei/
■台風26号接近、緊急投稿。「台風で電車が動かなかったので遅刻しました」は法的に許されるのか? 榊裕葵
http://sharescafe.net/33987276-20131015.html
■働く人が労災保険で損をしないために気をつけるべき”3つのウソ” 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41626385-20141030.html
■東名阪高速バス事故、11日連続勤務は合法という驚き 榊 裕葵
http://sharescafe.net/45556859-20150715.html

榊裕葵 ポライト社会保険労務士法人 マネージング・パートナー
特定社会保険労務士・CFP 

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