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「残業代ゼロ制度」や裁量労働拡大の労基法改正案は継続――「働き方改革」本気度に疑問符

中央最低賃金審議会の会場前で最低賃金引き上げをアピールする人々。2016年7月。(撮影/東海林智)

中央最低賃金審議会の会場前で最低賃金引き上げをアピールする人々。2016年7月。(撮影/東海林智)

「安倍政権の労働政策のフェイズは明らかに変わったよね」

安倍晋三政権が9月中にも「働き方改革実現推進会議」(仮)を立ち上げる。第2次安倍政権の発足以降、労働政策を巡って翻弄され続けてきた厚生労働省。冒頭のつぶやきは、その厚労省の官僚の言だ。安倍政権を間近に取材した者から見ると「転向した」と思えるほどの変わりようだ。

安倍政権の発足当初、政権の目指す労働政策は、明らかに新自由主義的な色合いが強かった。それは「人を動かす」とした政策のキーワードからも明らかだった。終身雇用を中心とした安定した雇用の在り方を、流動的な雇用へと変えることを試みた。ありていに言えば、使用者が自らの都合に合わせ、思うように労働者を使える雇用の在り方へ変えようとした。人を自由に動かすには「解雇がやりやすく」なければならず、流動的に働く者を増やす必要があり、労働時間もフレキシブルにする必要がある。労働者を守る規制の緩和を求めた。これらが、まず何を第一に考えた政策であったかは、「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指す」とした政権のスローガンからも明らかだった。

こうした姿勢の中で、不安定で低賃金の派遣労働者を際限なく増やすことを可能にした改正労働者派遣法が、安保関連法さながら反対の声に耳をふさいで通された。また、実質的に長時間労働を合法化する「残業代ゼロ制度」(ホワイトカラー・エグゼンプション/高度プロフェッショナル制度)や裁量労働制の対象者拡大を目指す労働基準法改正案が国会に継続審議となっている。

これに対して、安倍政権が「最大のチャレンジ」と位置づける「働き方改革」は、(1)非正規社員の待遇改善をはかる「同一労働同一賃金」の導入(2)長時間労働の是正(3)最低賃金の引き上げ(4)高齢者や女性の活躍推進――を一つのパッケージとしたものだ。一見して、当初の安倍政権が目指した方向とは矛盾することが分かる。もっと言えば、これらは労働組合など安倍政権の労働政策に対峙してきた者たちが掲げてきた政策だ。参院選挙前、連合の幹部は安倍政権の新たな政策を「政策泥棒だ」とうなった。厚労官僚が言うように安倍政権の労働政策のフェイズは明らかに変わった。

政府は改革の理由について、少子高齢化で労働生産人口が減少する中で、女性や高齢者など多様な人材を確保することを挙げる。過労死するような長時間労働では女性や高齢者が参入できない。また、流動的な雇用の労働者が低賃金に固定化されることが経済の停滞を招くとする。これらは間違ってはいない。政権にとって解決しなけらばならない「課題」なのだ。課題は、これまでの、そして自らの政権が放置し、新自由主義的手法で、安く、流動的に労働者を使い続けたツケだ。金融緩和を中心としたアベノミクスの失敗が明らかになりつつある中、ツケを「究極の成長戦略」(安倍政権)に看板替えしたにすぎない。人が働くということを「成長戦略」と言う嫌らしさは、政権当初から変わってはいないが。

【「働かされ方改革」であってはならない】

ともあれ、秋以降の国会では、働き方改革の在り方が大きな争点だ。政権が本気で改革をやろうとするのか、人気取りにお茶を濁そうとするのかはすぐに明らかになるだろう。たとえば、長時間労働の削減に労働時間の上限規制を検討するという。上限は月80~100時間が検討されている。この時間は、言うまでもなく過労死ラインだ。さらに、自動車や電機などでの適用除外も検討課題だ。つまりは骨抜き。同一労働同一賃金や最低賃金の引き上げも同様に期待できない。何より、労基法改正案を引っ込めないまま、いくら労働時間削減を言っても説得力はない。

時代に合わせ、働き方を変えることは必要だ。しかし、それは働く側に立った「働き方改革」であり、使用者や国の立場からの「働かされ方改革」であってはならない。

(東海林智・ジャーナリスト、9月16日号)

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