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「報道の自由」と軽減税率の危ない関係│斎藤貴男さんに聞いた(その2)

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「もっともシンプルで、公平な税制度」──しばしば、そんなふうにも説明される「消費税」。安倍政権は今年6月に増税の延期を発表しましたが、「増税」そのものについては、「いっそうの高齢化社会に向けて、社会福祉の財源を確保するためにはやむを得ない」というのが一般的な認識ではないでしょうか。
しかし、ジャーナリストの斎藤貴男さんは、これに真っ向から反論します。「消費税は、まったくシンプルでも公平でもない、『弱い者いじめ』の税制度だ」──その理由をうかがいました。

斎藤貴男(さいとう・たかお)ジャーナリスト/1958年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業、英国バーミンガム大学大学院修了(国際学MA)。「日本工業新聞」記者、「プレジデント」編集部、「週刊文春」記者などを経てフリーに。主な著書に『機会不平等』(文春文庫)、『ルポ改憲潮流』(岩波新書)、『消費税のカラクリ』(講談社現代新書)、『「東京電力」研究 排除の系譜』(角川文庫)、『ジャーナリストという仕事』(岩波ジュニア新書)など多数。

新聞への軽減税率適用。何が問題なのか

編集部 さて前回、消費税制度の「おかしさ」とともに、それについてまったく報じてこなかったマスコミの責任にも言及されましたが、それと深く関連するのが、生活必需品など一部の商品に標準の税率よりも低い税率を適用する「軽減税率」の問題です。昨年12月の閣議決定では、酒類・外食を除く飲食料品と並んで、新聞の定期購読料が軽減税率の適用対象とされましたが、斎藤さんはこのことを厳しく批判されていますね。

斎藤 マスコミの現状については、言いたいことがたくさんあるのですが(笑)、中でもきわめて重要で、かつほとんど知られていないのが、この軽減税率の問題です。
 閣議決定のとき、マスコミは食料品への軽減税率適用についてはかなり詳しく報道しました。外食は適用対象外だけど、じゃあコンビニの飲食スペースはどうなんだとか、テイクアウトで頼んだけど席が空いたから食べて帰ることにしたケースは、とか…。一方で、新聞への適用については、文化人を使った広告などで「新聞は活字文化の中心だから」「日本人の知的水準を維持するために必要だ」といった主張を繰り返すばかりでした。
 僕も活字の世界で食べている人間ですし、そうした主張にまったく共感できないわけではありません。ただ、それでも今回の新聞業界のやり方には、大きな問題があると考えています。

編集部 新聞の読者としては、増税されても購読料が高くならないならありがたい、とも思ってしまいそうですが…。具体的に、何が問題なのでしょうか。

斎藤 最大の問題は、権力に報道内容に干渉する余地を与えることです。
 日本新聞協会は、1989年の消費税導入のときから、一貫して「軽減税率の適用」を要求してきました。いわば政権与党、とりわけ税制調査会への「おねだり」を続けてきて、それが今回通ったわけですが、常識として強いものにお願いをするときには、何か「お礼」をしなきゃなりませんよね。

編集部 どういうことでしょう?

斎藤 「新聞は活字文化の中心だから」というけれど、あらゆる業界はそれぞれ何らかの存在意義をもっているからこそ存続しているわけです。どこの業界だって、「うちは重要だから軽減税率にしてくれ」と主張しますよね。食品みたいに「買えないと死んでしまう」ような分かりやすいものだけではなくて、たとえば「過疎地では自動車がないと生活できない」とか「ラップは食品を売るときの必需品だから、同じように軽減すべきだ」とかいう主張だってできるわけです。
 そう考えると、これは「どこの会社が」というのではなくて一般論ですが、あらゆる業界が永田町や霞ヶ関に日参し、さまざまな「バーター」を提案しに行くということになるに決まっている。その中で、業界としては大きいといえない新聞を優遇するんだったら、お金とか天下りとかよりも、「おまえのところの新聞の論調はどうにかならないか」という話に当然なりますよね。僕が安倍政権の人間だったらそう考えます。

編集部 「軽減税率を適用する代わりに、政権批判は控えろ」とか…。

斎藤 最近、新聞の「首相動静」の欄などで明らかなように、マスコミ各社幹部が首相としばしば会食していることが指摘されていますが、そこでこの軽減税率とその「バーター」について話し合われてきた可能性はきわめて高いと思っています。
 今回の増税延期で、軽減税率の適用も延期になったわけですけど、これはいわば「鼻面にぶら下げられた人参」が逃げていったようなもの。であれば、その人参をポイッと捨てられてしまわないように、人参がもらえるまでずっと言うことを聞きます、ということになるんじゃないか。

編集部 そうなると、メディアの重要な役割であるはずの「権力の監視」なんて、できるはずがないということになってしまいますね。ただ、新聞に軽減税率を適用するというのは、ヨーロッパなどでも一般的だと聞きます。

斎藤 新聞協会も、軽減税率適用の根拠としてその話を挙げています。それはたしかにそのとおりで、特にイギリスでは、新聞だけではなくすべての出版物が「ゼロ税率」なんです。
 ただ、そこに至る経緯は日本とは大きく違っています。イギリスでは18世紀、新聞というメディアが初めて現れて勃興したときに、それによって市民が知識をつけることに危機感をもった政府が、厳しい弾圧をしたんです。そしてその一環として、税の仕組みを変えて新聞に重い課税をしようとした。それに対して市民社会が「自分たちに知識や知恵をくれる新聞を弾圧するなんて、ふざけるな」と声をあげて。チャーチスト運動(※)の中心人物なども加わり、何人も投獄されるような事態になりながら、150年くらいかけて勝ち取られたのが、現在の「出版物ゼロ税率」なんですよ。

※チャーチスト運動…英国で1830年代後半に起こった、労働者階級の普通選挙権獲得運動。世界最初の労働者による組織的政治運動といわれる。

編集部 新聞社ではなく、読者からの声によって実現した制度なんですね。

斎藤 だから、それに倣うというのであれば、同じように読者の、市民社会の支持があって初めて、「軽減税率を適用してくれ」という資格があるのであって。どこからも求める声があがっていないのに、自分たちだけで「我々は日本の文化の中心だ」みたいなことを主張するのはまったく話が違うと思うんです。

編集部 ちなみに、新聞だけではなく出版業界からも軽減税率適用を求める声が上がっているそうですが…。

斎藤 こちらは、主に有害図書の扱いをどうするかがネックになってペンディングの状態になっています。たしかに、アダルト本は除くなどのある程度のゾーニングがないと一般的に理解は得られないでしょうが…。ただ、こうした「線引き」は非常に危険なものでもあります。
 業界内だけでやっている間はいいのですが、税制などにからめてしまうと「この記事はいいけどこっちはダメ」と、権力に口を出させる余地を与えることになる。ある雑誌に掲載される記事が気に入らないから、巻頭グラビアのヌード記事を口実にして取り締まるなんてこともできるようになってしまいます。もちろん、権力がなんだってけちを付けようと思えばいつでもできるんですけど、わざわざその種をこちらから与えているようなものではないでしょうか。

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