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安倍政権は企業とリタイア後の高齢者とのマッチングを真剣に考えるべき - 「賢人論。」第4回猪瀬直樹氏(後編)


2013年の猪瀬直樹氏は、まさに「激動」のまっただ中にいた。著書『さようならと言ってなかった わが愛 わが罪』(マガジンハウス)にも詳しいが、都知事として東京オリンピックの招致活動に飛び回っていた最中に、最愛の奥様・ゆり子さんの脳腫瘍が発覚。悪性脳腫瘍と診断されてからわずか2ヵ月後に、手術の甲斐なく逝去した。そしてその年の年末、猪瀬氏は都知事を辞任することとなる。奥様の死を経験して、自分自身の「終活」についても考えるようになったという猪瀬氏が今考える、理想的な老後、そして“最期”とは。

取材・文/川口有紀(フリート) 撮影/伊原正浩

オリンピック招致活動に奔走していた時、すでに妻は脳腫瘍で余命数ヵ月だった

みんなの介護 猪瀬さんご自身のお話をお伺いできればと思うのですが、2013年、オリンピック招致の活動まっただ中で奥様を亡くされました。腫瘍が見つかってからわずか2ヵ月での死だった、と。

猪瀬 本当に予兆が無かったんだよね。MRIは毎年夏に受けているんだけど、さらに進行が早かったわけで。あれには本当に驚いた。著書にも書いたけど、かみさんの病気がわかる数日前、飼っていた犬が動かなくなったんだよ。今から思うと、あれは自分の運命を嗅覚で察知したのかな、と思う。なぜならうちの犬は、かみさんと朝夕必ず一緒に散歩してたから。

犬の様子がおかしくなったのが日曜日、犬を獣医に連れて行ったのが月曜日。それでもうだめだ、となったんだけど……その時は、かみさんの「言葉の言い間違い」が目立ったんだよね。で、水曜日にテニスに行ったんだけど、すぐ帰ってきた。聞くと「球が当たらないのよ」と。

みんなの介護 テニスに行けるくらいの元気はあったんですね。

猪瀬 そして土曜日、この先オリンピック招致だったりで海外に行くとき、パーティーに参加しなくちゃいけないこともあるから、そのための服を用意したと。で、とりあえず着てみて、ミニファッションショーみたいなことをやったんだよね。でも、その時の様子がちょっと気になって、夜の12時位に精神科医の斎藤環先生に電話をしたんだよね。斎藤先生とは対談はしたことあるけれど、そんなに親しいわけではなく…でも携帯番号は知ってて、ツイッターを見るとまだ起きていた。それで思い切って電話をしてみたんだ。

自分は、かみさんが何かしらの原因で精神的に不安定になっていて、それで言葉を間違えるのかと思ってたんだよね。でもそれは違う、すぐに病院に行けと斎藤先生に言われた。次の日、かみさんを総合病院に連れて行って、僕自身は所用もあって両国国技館で大相撲の千秋楽を見ていたんだけど、1時間くらいして終わった時に病院の先生から連絡が来て、悪性の脳腫瘍でグレード4、余命は数ヵ月だと。

みんなの介護 最初は軽い脳梗塞か何かだと思っていた、と著書に書かれていましたね。

猪瀬 そうなんだよ。で、次の日から僕はオリンピック招致のためにサンクトペテルブルクに行かなくちゃいけなかった。とりあえず手術の日程を帰国後に取って…でもかみさんはニコニコしてるんだよね。帰国した時も「テレビ、見たわよ」なんて言ってさ。

みんなの介護 本当に予兆のようなものがわかりづらかったんですね。

猪瀬 帰国して手術を待って、入院中も記者に気づかれないように裏口から入ったり…でも結局、手術してから2~3日後に具合が悪くなってICUに入った。でも僕は、オリンピック招致の最終プレゼンテーションのために、今度はローザンヌに行かなくちゃいけない。いつメールが入ってくるかわからない状態でプレゼンを終えて、帰国して…でも結局、帰ってきて10日ほどで死んでしまったんだ。

日本でも安楽死を認めるべきだと、僕は思う

みんなの介護 帰国された時はもう、昏睡状態だったんですね。

猪瀬 もう、介護とかできる状態じゃないよね。脳死の状態。生きているように見えるんだな、とその時になって初めて知ったよ。そうなると僕ができるのは、病院のベッドに座っていることくらいで。

でもね、あの時に一つ思ったのは「もし自分がこういう状態になったらどうするか」と。自分の意志が表現できなくなった時にどうするか、が問題だと思うんだよ。

みんなの介護 脳死、植物状態になった時のために自分は何ができるか、ということですよね。

猪瀬 僕は、日本は安楽死を認めていないけど、安楽死を認めるべきだと思う。この間、たまたま読んだ本に、延命医療を断る旨を自分で遺しておく、遺書のフォーマットが掲載されていて……参考になるかなとコピーして取っておいたりするんだけど。なんだかそんなことを考えるんだよね。でも、ヨーロッパでは安楽死を認めてるけど、日本人はなかなかできないよね、きっと。

みんなの介護 それは宗教観、死生観の差なのでしょうか?

猪瀬 それもあるし、日本人はそもそも意思決定ができない。日本の社会は「決断をしない」社会だから。もちろん病院側としても、遺族から訴訟を起こされるリスクはあるしね。

ふと思ったんだけど、この間、三島由紀夫が死んでから45周年だったんだよ。三島由紀夫って小さいころ、自分のお母さんから引き離され、お祖母さんに幽閉されて育った人なんだよ。だからもしかしたら「老いていく」ことが怖かったのかな、と。


高齢者がベンチャー企業を手伝ったり、なんて取り組みがあっても面白い

みんなの介護 今、ご自身の「老後」というのはどう考えていらっしゃるんでしょう。

猪瀬 今、僕は一人暮らしになってしまった。一応、民間警備会社には加入してるから、枕元に防犯ブザーがあるんだけど…以前うっかり触ってしまって夜中に警備会社が来て、真っ暗な中で懐中電灯で照らされてさ(笑)。まるで映画のシーンみたいだったよ(笑)。でも今や、自分「見守られる側」になるんだよね。例えば脳梗塞や心筋梗塞でこのブザーを押せない状況だったらどうか…とか、そういうことも考える。

みんなの介護 先ほど遺書という言葉が出ましたが、いわゆる「終活」を考えられるようになったのは奥様の死というのが大きいんでしょうか。

猪瀬 かみさんが死ぬまでは、そういうことは考えなかったね。そもそも、かみさんは死なないと思ってたからさ。女性のほうが平均寿命も長いし、俺より少なくとも1日は長く生きると思ってた。これまでは僕のことはかみさんが判断してくれてたけど、もう自分で考えないといけないんだな、と。

でもこの間、原節子さんが95歳で亡くなったっていう報道があったけど、90歳以上まで生きるのは当たり前の社会になるかもしれないね。だから自分の老後というのを、みんなが具体的に考えないといけない時代になんだろうな。

みんなの介護 高齢者のライフスタイルとして、猪瀬さんが今思うことはありますか?

猪瀬 昔、とある有名なデザイナーの死後、取材で奥様に話を聞きに行ったんだよ。そしたらその奥様が怒ってたんだよね。デザイナーとして第一線で活躍していた人が、施設に入ると「お絵かき」をやらされると。介護施設とかでたまにこういう話って聞くんだけど、どうにかならないかなと思う。こういうサービスに関しても、今後は色々考えられるべきだよね。

あとは、多くの人が言ってるけど、やっぱり定年後も仕事をやった方が良い。例えば高齢者がベンチャー企業を手伝ったり、企業とリタイア後の高齢者をマッチングさせていくサービスと安倍政権は、もっとこういう点にも力を注ぐべきじゃないかな、と思うね。

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