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介護業界だって、官の規制に左右されないところに、民間は採算の合う場所を追いかけなければいけない - 「賢人論。」第4回猪瀬直樹氏(前編)

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特別インタビュー「賢人論。」第4回(前編)猪瀬直樹さんは「官の規制に左右されないところに民間は採算の合う場所を追いかけなければいけない。それは介護も同じこと」と語る

ジャーナリストとして数々の名著を手がけ、東京都の副知事、そして都知事として都政に関わってきた猪瀬直樹氏。2020年東京オリンピック誘致は、この人なしでは実現しえなかっただろう。もちろん功績はそれだけではなく、介護分野においてもさまざまな改革を行っている。施設不足を解消すべく、東京に見合った独自の施設基準として「東京モデル」を打ち出し、「ケア付き住まい」「都型ケアハウス」を推進。また、高齢者が地域で生活できる拠点を整える「シルバー交番」の設置など。実際に改革を行うことで、彼自身が実感したのは「規制の壁」だという。そして、その経験をふまえた上であえて言う「行政だけに期待するな」。その真意とは?

取材・文/川口有紀(フリート) 撮影/伊原正浩

公的な介護サービスだけじゃ追いつかない。超高齢社会の今、官と民が補いあっていかなきゃダメだと思う

みんなの介護 猪瀬さんご自身、副知事、そして都知事としてさまざまな福祉行政で功績を残しています。実際に介護や福祉の現場を見た経験も多いと思うのですが、どのような印象でしたか?

猪瀬 港区の包括支援センターを視察した時、驚いたのは、たった2人で何十件もの家を担当していたこと。これでは回らないな、と思った。だから介護福祉業界が民間市場に頼らざるを得ないな、というのは実感するんだよ。この超高齢社会の現状を考えると、官だけでは追いつかない。公と民が補いあっていかないといけないと思うんだよ。

みんなの介護 現在だと、例えばどんな事業があるでしょう?

猪瀬 「伊藤忠商事(株)」は大手民間警備会社と組んで、海外駐在員向けの高齢者見守りサービス「駐在員ふるさとケアサービス」というのを2011年から始めている。伊藤忠は海外市場が大きい会社だし、駐在員が心置きなく働くためには、日本に残した一人暮らしの高齢者家族に関する心配、不安を取り除かなくてはならない。緊急通報システムに加えて、24時間365日対応の看護師による電話健康相談サービス、掃除や洗濯など短時間の家事代行を行っている、と。

「駐在員ふるさとケアサービス」にしても、隙間を埋めていくようなサービスかもしれないけど、全員が納得いくものじゃない。海外駐在をした場合自宅をどうする、一人で残された高齢者をどうする、という問題から生まれたサービスなわけだよね。一気に何かを変えるよりも、今起きている問題をどうやって埋めていくのか、それを民間の警備会社が始めている。何かとても良い解決法があって、全部が一度にひっくり返るなんてことはないんです。少しずつ、少しずつ変わっていく。そういうものだよ。

これからは企業が社員の介護問題もケアする時代になる

みんなの介護 そう考えると、そのサービスの需要と供給のバランスは取れるのだろうか…といったことも考えてしまいます。

猪瀬 市場というのはそれに見合う形で生まれてくるわけだから、当然、生まれたニーズを誰かが埋めることになる。例えば伊藤忠の場合、見守りサービスは福利厚生の一環として会社負担なんですよ。企業としても心おきなく働ける環境を整えたいわけです。今、企業の持っているお金は300兆円。今後はそういうところにお金をかけていく時代になると思いますよ。

みんなの介護 企業が社員の介護問題もケアする、と。

猪瀬 昔の企業は「家族」だったけど、今はそうじゃない。でも、昔は国家と個人の間に「家」というものがあったんだよね。例えばそれは今の核家族とは違い、子どもが多い家から少ない家に養子をやることもあるし、維持していく必要があるもの…いわば、国家と個人の間の「中間状態」なわけです。

現代にもそういうものがあったほうがいい、という考え方がある。でも日本は戦後に「家」制度が崩壊してしまったから、「中間状態」の屋根を建てなおす必要がある、それはたとえば現代の形だと、グループホームだったり、シェアハウスだったりするのかな…とも思うんですよね。

特別インタビュー「賢人論。」第4回(前編)猪瀬直樹さんは「介護と保育の資格一本化やコンパクトシティなどと言われている超高齢社会への解決策は決してひとつではない」と語る

超高齢社会への対策をしたとしても、結局みんなが満足する方法なんかない

みんなの介護 例えば、コミュニティが密な田舎のほうが、地域で連携ができる分高齢者は暮らしやすい…という状況があったりしますもんね。

猪瀬 そうなんだよね。だから一筋縄ではいかない話で。結局、高齢社会への対策は「これだ!」という答えはないんだよね。解決策は例えばシェアハウスかもしれないし、高齢者住宅と保育所を一緒にしたまちづくりかもしれない。コンパクトシティ構想とか色々言われてるけどね。千差万別でいろんな試みが行われていくけど、みんなが満足する方法というのはないよね、やっぱり。

みんなの介護 行政と民間の連携は、うまくいくものなんでしょうか。

猪瀬 実は今、大手警備会社は民営の刑務所を担当しているんですよ。実際に視察に行ったこともあるんだけど、通常の刑務所みたいな高い壁とかはなくて、センサーで警備をしている。中ではパソコンなどを教え、社会復帰の手助けもする。昔は木工作業が中心だったけど、今は木工の技術よりもパソコンの知識を得た方が就職に有利でしょう?もちろん犯した犯罪が軽く、出所が前提の場合だけどね。

みんなの介護 刑務所内で介護資格の勉強をさせる場所もあるらしいですね。

猪瀬 そう、何が再就職に必要か、ということなんです。刑務所というのは明治時代からのシステムがそのままで、取り残された世界。でもそんな刑務所が民間と連携している時代になっている。この事例を見ると、変化は可能だと思うんだよ。

だって、ATMだって昔は銀行にしかなかったんだから。今はコンビニに必ずあるでしょう? サービスというのは変わってくるんだよ、ということを頭に入れた上で、介護サービスも考えていかなくてはいけないと思うんだよね。

みんなの介護 ただ、介護業界に関しては介護保険という縛りがあります。やはり変化のことを言うと、そこが厳しいという現状を言う従事者も多いようです。

猪瀬 そこは僕にはわからないけど(苦笑)。でも、変わってきているのは現実で。だから介護保険という幅はあるけれど、介護の業界、サービスも変化していく可能性がある。そう思っておいていいんじゃないかな。

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