記事

『エアインタビュー』問題の本質 -サッカーメディアは「エンターテインメント」か「ジャーナリズム」か

2/2

取材ソースの信憑性の担保

あの頃ペニー・レインと (1枚組) [DVD]
『あの頃ペニーレインと』という映画があった。ロックの話だが、同じエンターテインメントとして参考になると思う。ローリングストーン誌で仕事を得た音楽ライター志望の青年が、バンドのツアー同行の独占記事を書く。それを手にした編集部は、録音テープがあるのかを問いただし、そのうえで記事チェック担当者はバンドのマネージメントにまでその事実を確認する。その映画ではツアーの途中に本当にあった飛行機墜落寸前のアクシデントをバンドのメンバーが否定してしまったため、青年の記事はボツになってしまう。ようするに、ローリングストーン誌は掲載するインタビューがエアであるかないかを編集部がひとつひとつ確認しているということだ。

こうしてみると、信頼できる実績があろうとなかろうと、取材の事実を確認できないのならば、残念ながら甘いのではないかといわれても致し方ないと思う。そして、これに対して読者がこれはエアではないかと疑いの声をあげることは正当な権利であろう。さらには、その読者に変わって、別のメディアがその疑問を追及していくのもこれまた真っ当なことである。

さて、これまでの話を整理して本件を考えるにあたって、以下のような3つのステータスを設定してみる。

(1)そのインタビューは本当に行われたのか
(2)それはインタビュイーの利害関係者も含めて権利関係をクリアしているものなのか
(3)読者に対して、そのインタビューがどのような種類のものなのかを説明してあるものなのか

今回のエアインタビュー疑惑は、この(1)について疑義を呈している。

そして、それに対して『サッカーキング』の回答は、(1)は事実であるが、(2)はグレー(もちろんまがりなりにも「報道」なのだから、これらの権利を無視することも可能である。ただしこれにより取材先との関係は悪化する)、そして(3)については口を濁すというところなのではないだろうか。

「ジダン本人とマンツーマンでインタビュー取材をした上で、ボリューム的に足りないところを、囲み取材及び記者会見のジダンの言葉から補足している」

と『サッカーキング』側は反論の中で触れているが、もしこれが事実だとしたら、いくら基本がマンツーマンのインタビューだとしても、それに囲み取材、ましてや記者会見の言葉まで入れ込んでしまったら、それは構成されたもので「インタビュー」とは通常言い難いし、質問の一連の流れを読みこんでいくだろう読者の期待を裏切っていることになる。解釈によっては、それ自体で「エア」だと言われる余地は残念ながらあるのではないか。

サッカーメディアは「エンターテインメント」か「ジャーナリズム」か

さて、この問題は、結局は日本のサッカーメディアが、ジャーナリズムなのか、それともエンターテインメントなのかという、そもそも抱えていた問題に行きつくのではないだろうか、というのが筆者の考えである。

取材源を秘匿し、権利元も知らないルートをもとにコメントを取るというのは、それはそれで十分にジャーナリスティックなことではあるが、もしこれを『あの頃ペニーレイン』でのように、インタビュイーや権利元が知らないと言ってしまえばどうなるだろうか。また、記者そのものがエアをしている可能性は、いくら信頼しようしてまいが、読者の側からは否定できない。

以前、くだんの『サッカー批評』がカンゼン社が編集していた時代、サッカーメディアの編集長クラスによる「サッカー界におけるジャーナリズム」というテーマの座談会で、『サッカーキング』の反論を書いた岩本氏は、自身のサッカー誌の編集方針が「ジャーナリズム」でなくともよいということを断言していたことがある。

実際、そのメディアはエンターテインメントとしてのサッカーが編集方針であり、そこには批評性やジャーナリズムというようなものは排除されている。これは別に『サッカーキング』に限らない。ほとんど全てのサッカーメディアのほとんどがそうなのだ。先に、『フットボール批評』のJリーグのクラブライセンス制度の悪しき権力化についての扱った記事に触れたが、こういう真っ当な批判がサッカーメディアが本格的に扱っているのはほとんどない。クラブに対する批判もほとんどない。もちろんジャーナリズムの世界ならばよくある、メディア同士の批判もない。

ところがジャーナリズムの側は批評精神がなければならない。その批評精神が空回りにしないように「インタビュー」というのはこういうものだという倫理がある。取材ソースに対する考え方もしかり。もちろん言った言わないでトラブルになる現実的な理由があるが、ライターすら全面的には信用されてはいない。

一方、スポーツというエンターテインメントメディアの考え方であると、記事は、読者のニーズと取材先とのパワーバランスでつくられるのが当たり前のことだ。芸能メディアではもっとこれが極端だろう。架空のインタビューなどたぶんざらにあるのではないか。もちろん本人も含めた利害関係者がそれでよしとしているからだ。

そもそも、今回のエアインタビューにしても、掲載したメディア側はいかようにでも善意の第三者となることはできる。それはインタビュアーがあげてきたものだから信じるしかない、という理屈だ。しかし、それを読み手から真実ではないのではと言われてもそれは仕方がないことだ。その判断はただ読者に委ねられることになる。

サッカーメディアが、エンターテインメントなのか、それともジャーナリズムなのか、たぶんこの『エアインタビュー』疑惑があるのは、その認識の差が根底にあるからだろう。そして、その差をどう理解するかは、ただ読者の権利となる。その読者が望むならば、疑惑の追及もまた当然の権利となろう。それがそのメディアにとってマイナスになるならば、あらかじめ疑惑がかからないような誌面をつくるしかない。もちろんその疑惑や批判をものともしないということも、また自由である。こちらも読者次第である。

最後に。この「エアインタビュー」の疑惑についての議論の正否とは別に、あのメディアとはつきあうなというような話が、出入りする人達に伝えられているとも耳にする。これが事実であるとすれば大変残念であるし、関係者にとって迷惑な話である。そしてフェアではない。法の話を持ち出すのも野暮で無粋な話だが、それでも承知でいわせてもらえば、「独占禁止法違反」ですらある。こちらについては本題とは別に特に記しておこうと思う。

あわせて読みたい

「ジャーナリズム」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    小室圭氏留学 皇室パワー利用か

    NEWSポストセブン

  2. 2

    セブンの生ビール販売中止は正解

    ヒロ

  3. 3

    「ドラクエ式」が被災地で大活躍

    中妻穣太

  4. 4

    山本太郎氏の品位欠く罵声に呆れ

    早川忠孝

  5. 5

    橋下氏「定数増法案は戦後最悪」

    AbemaTIMES

  6. 6

    田原氏「麻原彰晃はマジメな男」

    田原総一朗

  7. 7

    枝野幸男氏「私こそ保守本流」

    キャリコネニュース

  8. 8

    川上量生氏 五輪事業辞任を説明

    川上量生

  9. 9

    豪雨よりも欧州視察 立民に呆れ

    櫻井充

  10. 10

    野党の卑しい不信任決議案に反対

    足立康史

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。