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刑の一部執行猶予、気になる対象者の選定

大麻事件で2度目の裁判を受けた有名人の長男に対して、一部執行猶予の判決が言い渡されたそうです。
今年6月に導入された一部執行猶予制度、導入から3か月目となる今では、取り立てて報道されることもなくなりましたが、こうして、有名人の事件報道などを通じて、私たちの目に触れることになります。新制度も、どうやら裁判実務に根を下ろし始めたのでしょうか。

<ニュースから>*****
●元チェッカーズ長男に有罪 大麻所持で
大麻取締法違反(所持)などの罪に問われたT被告(22)に、東京地裁(伊藤ゆう子裁判官)は16日、懲役1年4月、うち4月を保護観察付き執行猶予2年とする判決を言い渡した。
被告は元人気バンドチェッカーズの元メンバーの長男。6月19日に東京都渋谷区で大麻約0・7グラムなどを所持していたとして起訴され、検察側は懲役2年を求刑していた。以前にも大麻取締法違反罪で有罪判決を受けており、事件当時は執行猶予期間中だった。
2016年9月16日 19:48産経ニュース
*****

そういえば、7月上旬に横浜地裁で判決を言い渡されたロックバンドの元メンバー(55)のケースでは、覚せい剤事件で執行猶予中に再犯した被告人に対して、やはり一部執行猶予判決が下されていました。
 事件・・・覚せい剤の使用
 被告人・・昨年9月に覚せい剤事件で執行猶予付き判決を受けて執行猶予中
 判決・・・懲役1年6月、うち4月を2年間の保護観察付執行猶予

薬物事犯者に適用される一部執行猶予は、2タイプありますが、上の2ケースでは刑法27条の2に定める、刑の一部の執行猶予が適用されました。
これは、初めて実刑判決を受ける被告人が主な対象者とされていて、その典型的な例が、執行猶予中(保護観察付も含む)に再び罪を犯した人です。上の2ケースのように、薬物事犯として初めて裁判を受け、更生を誓ったにもかかわらず、執行猶予判決を受けて社会復帰して間もなく、二度と手を出さないと決意したことも忘れて、再び薬物を使い始めて、二度目の裁判を受ける人が、残念ながら後を絶ちません。

こうした場合、再犯防止のために継続的なケアが望ましいのは、言うまでもありません。本来なら、最初に裁判を受けた後、薬物を断ち、生活を切り替えなければならなかったのに、具体的な対策をとることができなかったのか、あるいは、当人の覚悟が不十分だったのか、短期間で再犯に至ってしまったのですから。

こうした事案では、刑の一部を執行猶予として、釈放後も引き続き保護観察の下で、専門的なプログラムを受けさせるという判決には、説得力があると言えます。
でも、同じように執行猶予中に再犯に至ってしまった多くの被告人のうち、どの事案に対して一部執行猶予を言い渡すのか、その選択は、かなり微妙になってきます。

なにしろ、執行猶予中に再犯して、一部執行猶予判決を言い渡された場合は、全部実刑判決の場合と同様に、前の刑の執行猶予は取り消され、宣告されていた刑を実際に受けなくてはなりません。2件分を合せた服役の期間は相当に長くなり、釈放後に、実際にプログラムを受けるのは数年先のことになるのです。
その数年先に、被告人がどんな形で社会復帰するか、判決の時点でそこまで見通すことは、かなり難しいでしょう。

一部執行猶予判決を言い渡すにあたって、生活状態の不安定な被告人の場合は、数年先に長期の保護観察を受けることに不安がつきまとうことでしょう。いきおい、服役後の住居が確保されていて、被告人の帰りを待つ家族がいる・・・そんなケースを選択しがちになるのではないでしょうか。

しかし、こうした環境にある被告人は、あえて保護観察という制度に頼らなくても、本人や家族の力で更生できる可能性が高いということを忘れてはいけません。自力で更生できる被告人にとっては、社会復帰後も長期にわたって保護観察を義務付けられることは、ときには円滑な社会復帰の重荷になることだってあり得ます。
むしろ、自力での更生を支える体制が不十分なため、否応なしに再犯リスクが高くなってしまう被告人に対して、社会復帰後の生活を長期間監督し、支援してこそ、一部執行猶予制度は真価を発揮するのではないでしょうか。

保護観察の受け入れ体制を考えれば、当面は、一部執行猶予は限られた事案に対して適用していくことになるでしょう。その対象が、ほんとうに適切に選択されるかどうか、私には、そんな点が気になっています。

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