記事

高齢者が死ぬ時にありがとうと感謝することさえ、今後の社会は担保できない - 「賢人論。」第7回(中編)やまもといちろう氏

1/2
「賢人論。」第7回(前編)やまもといちろうさんは「高齢者が死ぬ時に「ありがとう」と感謝することさえ、今後の社会は担保できない」と語る

前編「国民の顔が真っ青になるような高齢社会の現実が、すでに公的に書かれているんですよ」では、逼迫した日本の介護行政について厳しい指摘をしたやまもと氏。そして中編となる今回もまた、「CCRCとはつまり、“みんながどうやって効率よく死ぬのか”を考えたシステム」「効率よく死ぬことに、これ以上のコストはかけられない」など、独特の言い回しで現状について喚起する。さて一体、その真意とは…?

取材・文/安濃直樹(編集部) 撮影/伊原正浩

介護行政の厳しい現状を緩和させるためには、「姥捨て山拠点」をつくる必要があるかもしれない

みんなの介護 前編では、「介護を国民の義務にする時代が来てもおかしくないくらい厳しい現状にある」というお話をいただきました。では、それを回避できるような策はないのでしょうか?

やまもと 抜本的な…というのではありませんが、「緩和はできる」とは言えるでしょう。当面の具体的な政策のひとつは、これがベストとはいいとは思いませんが、主に北欧で展開されているコレクティブハウス(※子育てや高齢者に対するケアの共同化を求めて、ヨーロッパや北欧で行われている共同生活のスタイル)のような、言わば “姥捨て山拠点”を作れば良いじゃないか、と。

今までの住宅事情というのは、持ち家が欲しくても住むところさえもままならない、路上で暮らさなければならないくらいの所得しかないような人がいて、かと言って勝手にそこらに掘っ立て小屋を建てられてもいけないので、県営住宅などで住まいの問題をサポートしますよ、という制度でやってきたわけです。

みんなの介護 いわゆる“ハウジングポリシー”と呼ばれるものですね。

やまもと そうです。それが、認知症で徘徊の症状があるような人が敷地から出ないようにする…みたいなコレクティブハウスを用意することが必要になってくるんじゃないか、ということですね。独居老人も含めてそれなりに施設の整った終の棲家を作ってあげるんです。

みんなの介護 確かに、独居老人の増加は大きな社会問題ですし、それの解決への一案としては納得できるものですね。

やまもと ある仕事で調べたことがあるんですが、東京都でも、都下には本当に大勢の独居老人がいるんですよ。4階建てアパートで、エレベーターもないようなところに暮している。そんな高齢者が、70歳くらいになってもわっせわっせと階段を上っているんですよ。で、70歳を超えてくるとだんだん上り下りがおっくうになってきて、加えて転落事故なんかもあって、家から出てこなくなってしまう。

そうなると、買い物ができない、掃除が行き届かない…と、そのアパートがどんどんスラム化していってしまう。それって本当に僕らが望んでいた高齢者対策なんだっけ?そうなったときに、たとえ本人が嫌がってでも、高齢者がちゃんと暮らせる、サービスもみんなで効率よく提供できる仕組みを作っていかないと成り立たないんじゃないか?と、もう一回、真剣に見つめ直さないといけない。それが”今”なんです。

効率がすべて、ではないですが、点在して住んでおられる高齢者の方のケアも考えるとやはりある程度は無理してでも集合住宅に移っていただかないとサービスが追いつかなくなっていくでしょう。

「賢人論。」第7回(中編)やまもといちろうさんは「高齢者に対する手当てを熱心にしたところで、それは生産性につながらない。残念ですけど、それが生物の摂理」と語る。

CCRCとはつまり、“みんながどうやって効率よく死ぬのか”を考えたシステム

みんなの介護 やまもとさんが提案する、いわゆる“コレクティブハウス”のような住まいの周辺に高齢者の親族が住んだり、またその中には医療施設が中にあったり、場合によっては幼稚園や保育園があったり…といった形態を作ろうという動きも出てきていますよね。

やまもと CCRC、ですね。一時期は、プラチナタウン構想とか叫ばれていました。理念としては素晴らしいように思われているところもありますが、高齢者にバラ色の未来を保障するものでは決してなくて、つまりは“みんながどうやって効率よく死ぬのか”という話なんですよ。

みんなの介護 というと?

やまもと きつい言い方になってしまいますが、効率よく死ぬことにこれ以上のコストはかけられないですからね。昔は平均寿命も短くて高齢者が希少だったので、「おじいちゃんいつまでも長生きしてね」で済んできたんですが、100歳以上の人が10万人以上いるような社会になって、そうした人たちを生かしておくコストが社会的、財政的に賄えない、という話なんです。

これまで、なんのために健康支援をしてきたのか、その結果として生まれた高齢化という現象も含めて、日本人の働き方、家族に対する価値観、高齢者を今後どうやって守っていくかということを、全部考え直さなきゃならないんですよ。

高齢者が当たり前の世の中になっていくと、高齢者だから弱者、高齢者だから配慮されるべきという社会環境ではなくなっていかざるを得ません。これは恐ろしいことです。いままで頑張って働いて生きてきた高齢者の方に向かって、もはや生産性のなくなったあなたがたは社会にとってコストなのだから、余裕がなくなったいま自分なりに死に方を考えてください、と突き放すようなことを平気で言う社会になっていいのか、という部分ですね。

みんなの介護 高齢化が進むのは昔からわかっていたことなのに、それが今になってようやく「考え直さなきゃ」ということになっているんですか?

やまもと 決して考えることを放棄してきたわけではないんですが、情緒的に判断してきたというか、甘く考えてきたという点は否めないでしょうね。きっと何とかなると思ってやってきた、でもどうにもならなくなった、という。

財政的な問題で言えば、次世代へのツケなんて言ってる以前に、今の世代でも上手くまわせていない

みんなの介護 やまもとさんは、東京大学と慶應義塾大学で設立された「政策シンクネット」における「首都圏2030」で高齢社会対策プロジェクトの研究マネジメントも行っていますよね。その中では、どんな話が進められているんですか?

やまもと 僕らが「2030年問題」として取り上げているのは、特に財政的な問題についてです。団塊の世代がいて、その上の高齢者がいて、いろんな試算はありますが、今のレベルだと2030年には最悪のケースでは165~170兆円の社会保障費が必要になります。国庫負担でいうと65兆円くらい。今が40兆円くらいで、それからさらに25兆円を積めるのか?と。軽減税率を導入するかどうかという問題でさえヒィヒィ言っているのに、25兆円ですよ?次の世代にツケを回すなんて言ってる以前に、今の世代でも財政はまわりませんよ。

みんなの介護 では、社会保障費を積み上げるのではなく、縮小する方向で考えないと…ということですよね。

やまもと 総人口が1億3,000万人に向けて増えていったときに、高齢者の割合が増えることは20年以上前からわかっていて、それが社会に対して猛烈なストレスになることはわかっていたんです。だけどその後のこと、つまり“高齢者が死ぬコストは誰が払うのか?”ということの議論がそこまで真剣には進められてきませんでした。

みんなの介護 「死ぬコスト」というのは、あまり耳慣れない言葉ですね。

やまもと 再生産しないという特徴をもつのが“死ぬコスト”だと考えてください。高齢者に対する手当を熱心にしたところで、起きることは死ぬことだけであり、それは生産性じゃない。残念ですけど、それが生物の摂理だということです。

死ぬことに対する価値を祝ってくれないとか、大往生だねって喜んでくれる家庭は少ないとか、これは社会にとって望ましいことではないですよね。そうなると無縁仏も増えるだろうし、お一人様の孤独死も増えるでしょう。これからの時代、尊厳死だったり、選択的に死を選べたりするようになったときに、社会はどういう議論を積み重ねていくのか、法律も含めてどのように国民の理解を得るのかを考えなきゃいけないんですけど、そういう議論があまりされていないのが現状なんです。

しかも、みんなピンピンコロリで亡くなるわけではない。闘病もあるかもしれない、不幸にも認知症になってしまい家族に迷惑をかけてしまうかもしれない、その人の生き様や、家族の形で状況は千差万別です。本当であれば、統計の大きな数字で「えいや」で処理してはいけない人間の尊厳そのものが、一個一個の数字に詰まっているんです。

それが独居老人だったら? 伴侶に先立たれた妻や夫は? 子供も身寄りもいなければ? 認知症になってしまっていたら? 考えたくもないシナリオが、老後には大量に詰まっている、そういう現実に向き合うのが理性だとするならば、もう遅いと分かっていても考えないといけないよ、一歩でも二歩でも取り組まないと、次に引き継ぐ世代がもっともっと苦労するよ、ということなのです。

あわせて読みたい

「高齢化」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    "外見は悪いがモテる男性"の秘策

    PRESIDENT Online

  2. 2

    "コミュ力強者"大量採用で大混乱

    キャリコネニュース

  3. 3

    カジノだけ"依存症"報じる異常さ

    大西宏

  4. 4

    ロードスターRF"原点回帰"の狙い

    PRESIDENT Online

  5. 5

    ビル・ゲイツが選ぶ必読書5冊

    フォーブス ジャパン

  6. 6

    "残業する人"を評価する日本企業

    非国民通信

  7. 7

    "カジノ解禁"富裕層を利する悪法

    メディアゴン

  8. 8

    VR開発者が明かす"厳しい現実"

    ニコニコニュース

  9. 9

    ヨーロッパで止まない"反EU"の風

    THE PAGE

  10. 10

    ハフポストに記事削除求めた理由

    クマムシ博士・堀川大樹

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。