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国民に介護を義務化する総動員、大混乱の時代がいつ来てもおかしくない状況です - 「賢人論。」第7回(前編)やまもといちろう氏

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ネット上での辛辣かつ過激な発言に注目が集まるやまもといちろう氏。ブロガーとしての一面ばかりがフィーチャーされがちだが、その他にも「個人投資家」「東北楽天ゴールデンイーグルス編成・育成データ担当」「データビークル取締役」「イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役」…と様々な顔をもつマルチプレイヤーだ。そしてもうひとつ、東京大学と慶應義塾大学で設立された「政策シンクネット」における、高齢社会対策プロジェクト「首都圏2030」の研究マネジメントにも参加。そんなやまもと氏が、日本の社会保障体制が今、置かれている状況について警鐘を鳴らす。

取材・文/安濃直樹(編集部) 撮影/伊原正浩

国民の顔が真っ青になるような高齢社会の現実が、すでに公的に書かれているんですよ

みんなの介護 やまもとさんは、日本の社会保障体制についての発言も多いですね。特に今は、東京大学と慶應大学とで設立された「政策シンクネット」で、高齢社会対策プロジェクト「首都圏2030」の研究マネジメントも行っているとか。

やまもと ちょうど今、社会保障人口問題研究所が発表しているデータを改めていろいろと見ているところです。試験的ではありますが、都道府県別・市町村別の数字が出始めたので、それらを統合して「どれくらいの頻度で、どのように介護をしていけば、お年寄りや介護が必要な方、障がい者の方のQOLを上げられるのか?」「ご家族の負担が大きいので、その負担を減らすためにはどういう仕組みを構築し得るのか?」といったことを考えているところですね。

みんなの介護 やまもとさん自身は、介護の専門家ということはないんですよね?

やまもと ではなくて、私の専門は統計学や数理モデルなんです。どのように手配すれば、少ないリソースで多くのサービスを実現できるのか、という政策立案の基礎部分を作るのが私の役割です。統計の面からのアプローチとして、「介護を提供するためのリソースが足りない」「介護職員に職業人としての魅力が感じられない」「だけど需要ははっきりあって、それによって助かっている人がいる」「でも予算が足りない」といった様々な問題に立ち向かっているわけです。

みんなの介護 立ち向かっている、その現状はどのような感じでしょうか?

やまもと 統計と政策の観点からすると、今の社会保障…保険・医療・介護において、やらなきゃいけないことの洗い出しがようやく終わったところですね。いわば、「何をしなければいけないか」「どうするか」ではなく、「いまの状況はどれだけ悪いか」「今後、どれだけ悪化していくか」といったところがようやく見えてきたというのが実情です。今までやってこなかったのが悪いというのもあるんですけど、たったそれだけでも前進なんです。

みんなの介護 一般人の視点で言うと…やっぱり初動が遅いですよね?もっと早く手を打てなかったのかな?と感じられもします。

やまもと もうね、問題としてわかりきっていることを、わざわざ有識者を集めて議論しているんですよ。What should we do? 何をしなきゃならないか?って。本当は、How do we do? どうやるかというところまで降りてきているはずなのに、なんだか上の方でグルグルしていて、これがまたなかなか大変なんです。

例えばですけど、地方創生の議論の中で、高齢化対策・少子化対策も含めて一体とした議論を始めたんです。これはこれで大事な議論ですが、少子化の理由っていうのは人口学的に突き止められるものと、社会モデル的にわかっておくもの、フィールドワークで理解できるもの…と、だいたい3つくらいにアプローチをかけて、問題は見えてきています。

ただ、それはいまから議論するのではなく前提として話してもらわないと困るくらいのレベルなんですけど、それが必ずしも有識者の間の共通の認識として共有されてない中で少子化対策が進められていて、稲田朋美さん(※自民党政調会長)のタスクフォースがまた最初の前提からの政策議論に臨んでいるという(苦笑)。未来に向けて話をするべき価値のあるテーマと、いまさらその話をしているのかというテーマがごっちゃになっているという印象です。

みんなの介護 そうした話がどのように進んでいるのか、私たち一般人はあまり知らないものですね。

やまもと 安保法制のときも同様なんですが、国会でちゃんと話をしているにも関わらず、国民には伝わっていないことは意外とたくさんありますよね。例えば、中医協(※中央社会保険医療協議会)で1,000ページくらいの詳細な資料や取りまとめられた中間報告があったとしましょう。絶対に、国民の皆さんは読まないですよね。だけど、我々のようなある程度数字で見る人間からすると、真っ青になるようなことがいっぱい書いてあるんですよ。


社会保障費の財源がきちんと定まらないから、山積みの問題がどんどん未決になっていく

みんなの介護 そんなに真っ青になるようなことが書かれていて、それを私たちは知らないんですか…。

やまもと 今、後期高齢者の医療費は昭和19年生まれより前の方は自己負担率10%で、現役並みの所得のある後期高齢者の方は30%負担ですよね。それが実は、試算によっては6割の自己負担をお願いしても、高齢になるほど医療費や介護費はかさむので、6割負担という高率にしても保険として成り立たない計算になります。将来の安心のための保険制度のはずが、実際には制度的に存続も怪しいような状態になりかねないなんてこと、ちゃんとご存知な人は意外と少ないんじゃないですかね?

みんなの介護 そうでしょうね。

やまもと それも保健衛生に関して言えば、今の感染症のレベルが維持されるのであれば、という話で。実際には、これからの高齢者は、独身世帯が増えて、伴侶が亡くなったりとかメンタルへルスに問題を起こしたり…と、ライフケアが難しくなってくる。たかだか10年ぐらい昔の、2000年前後で暮らしておられた60代70代の方のライフスタイルより、はるかに劣化していくわけです。

そうなってくると、今の60代70代の方が80代になったときに、どれくらいの医療費がかかり得るか?少なくとも安くなるはずがない。もちろん一人当たりの医療費は放っておけば上昇しますよ。そうなってくると、医療費負担の割合はどうするのか?病床数はどうするのか?かかりつけ医はどうする?即応型医療保険は?医療再生は?…と問題は山積みで、そもそも社会保障費の財源がきちんと定まらない以上、下部構造であるそのすべてが未決、未決、未決になっているというのが現状なんですよ。

みんなの介護 問題が放置されている、というわけではないですよね?

やまもと それはもちろんです。だけど、考えるべきことがあまりに膨大すぎて、立ちすくんでしまっている、という側面はあるでしょう。そもそも、わが国の社会保障制度は、ここまで高齢者が増える前提で設計されていない、右肩上がり前提の仕組みですから、これを全部見直せというのは相当なストレスがかかります。

高齢者の方だって、理詰めでは「このままではもたない」と思っても、いざ「あなたは医療を受けられません」と言われたら必死で抵抗されるでしょう。支えるご家族も同じお気持ちだと思うのです。

統計面から言うと、11年後の2027年には保健医療の制度自体の存続が怪しい

やまもと もろもろの問題を整理して、さぁ国民に伝えていくぞ!というときに、保険医療そのものの信頼を失わせるようなことを政府自らいうべきなのか?ということは、議論しているときによく言われることではありますね。「山本さん、言いたいことわかるけど、我々が今まで培ってきた知見だとか、信頼関係だとか、国民との間でのやりとりのすべてをゼロにしかねないような話を、政府自ら言えって言うのか?」なんて話になる。

みんなの介護 いや、それはちゃんと説明してくれないと、わかるものもわからないです。

やまもと 特に医療体制に関して言えば、医療負担をどういう形にするのか、という青写真がまったく描けません。統計面では11年後の2027年には、保健医療の制度自体の存続が怪しいです。我々の世代…私は今43歳ですけど、私よりも下の世代が、社会保障の面では激烈に不利になっています。私の世代(1973年生まれの43歳)はギリギリアウト。

みんなの介護 そんなにのっぴきならない状況なんですか!?

やまもと 保険利用で適用できる医療の領域が狭くなるのは間違いないでしょうね。これは突き詰めた言い方になりますが、「高度な医療を受けたければ自費でどうぞ。保険でカバーできる医療はここまでで、保険でカバーできるところの予算も捻出できないような補助は廃止」という話です。悪く言えば、保健医療の水準切り下げですので、切り下がる部分で医療を受け命を繋いでいた人たちにとっては、社会的な死刑宣告みたいな捉えられ方をされかねません。

こうして医療の現場で起きていることを介護の現場と比べてみると、すべてが足りない状態という点で一致するんですよ。医療では、職業人としてのプライドをもってやっているからには、どんなに人が並んでいても、自分の報酬を減らしてでも面倒みてやる!という医師がいっぱいいる。だから日本の医療はもっているんですよ。

献身的な医師や医療関係者、介護業界の皆さんが善意で頑張って支えてきたのが日本の社会保障で、ただそれも、もうもたなくなっていくだろうというのが、日本の近未来なんです。

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