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【アドラーの教え】サラリーマンよ「嫌われる勇気」を持て - 岸見一郎(哲学者)

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「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言したアドラーに職場の悩みをぶつけたら……? アドラー心理学の伝道師に解決法を聞いた

 フロイト、ユングとともに「心理学三大巨頭」と言われながら、アルフレッド・アドラーは、日本ではあまり知られていなかった。しかし、長年、アドラー心理学の研究をしてきた岸見一郎さんの百万部を超えるベストセラー『嫌われる勇気』(古賀史健氏との共著、ダイヤモンド社)が、アドラーへの関心を一躍高めた。

 アドラーは、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と言い切る。職場の悩みのほとんどは「対人関係」に発する。そこで職場の悩みを岸見一郎さんに投げかけ、アドラー心理学の立場から答えていただくことにした。(編集部)

貢献感なき仕事には意味がない

Q.お金が得られればいい、と割り切って、金融機関に就職したのですが、借金の取り立ての仕事を任され、この仕事は社会の役に立っているのだろうか、と「やりがい」や「社会的意義」を感じられなくなってしまいました。他の仕事を探した方がいいのか、慣れるまで待った方がいいのか、迷っています。(20代、男)

A.「やりがい」や「社会的意義」のことをアドラー心理学では「貢献感」と言いますが、それがない仕事には意味がありません。「貢献」というと、社会的に認められた、いわゆる「立派な」仕事に就かなければできないと思われるかもしれませんが、それは誤解です。職業に貴賤はありません。「誰かの役に立っている」と自分が思えれば、それが「貢献感」です。

 あなたの問題の核心は、その貢献感を感じられなくなっていることです。貢献感を持てなければ、自分に価値を感じられなくなり、悩みの源泉であるけれども、幸せの源泉でもある「対人関係」に入っていく「勇気」を持てず、幸せになることはできません。ですから、貢献感が感じられない仕事に「慣れる」ように努めることは、最悪の選択です。自分を欺いて、今の仕事を続ければ、安全な人生を送れるかもしれませんが、その代わりに幸せも得られない無味乾燥な人生を送ることになるでしょう。

 慣れてしまう前にすべきことは、「取り立て」とネガティブに書かれていますが、自分がやっている仕事が本当に誰かのために役に立っていないのか、真剣に考え直してみることです。自分だけで答えが出なければ、そのことを上司に問い質してみてもいいでしょう。鵜呑みにしてはいけないのは、「会社のためになっている」という上司の答えです。会社のためになっていても、社会のためになっていない可能性があるからです。「会社のためになっている」という「貢献感」を得たいがために人間は、会社の外から見れば、よくないとわかっていること、時には法に触れることさえもやってしまいます。有名企業であっても、不正やその隠蔽が後を絶たないのは、そのためでしょう。ですから、あなたのような疑問を持つことは大切です。会社の外にある共同体にとっても、自分の仕事は有益で意義があるのか。そのような視点から、自分の仕事を見つめ直すのはとてもいいことです。「困難にぶつかったときは、より大きな共同体の声を聴け」というのが、アドラー心理学の原則です。

 もし、そのような努力をした上で、この仕事をいくら続けても自分は貢献感を得られないだろう、と思うのであれば、他の仕事を探すべきです。

 しかし、あなたが今のままで、他の仕事を探しても、また同じ問題にぶつかるのではないかと思わされた言葉がありました。それは「お金が得られればいい、と割り切って」というくだりです。生きるためにお金は必要です。しかし、仕事から得られる貢献感を無視して、得られるお金だけを基準に仕事を探せば、あなたはまた同じ悩みを持つことになるでしょう。なぜ働くのかと問われたら、私は「よりよく生きるために働く」と答えます。「よりよく生きる」とは、幸福に生きることです。そう考えると、幸福になれない仕事には意味がありません。ですから、仕事を探すときには、この仕事をして、果して自分は幸せになれるだろうか、と自分に問いかけてみてください。

目的論的思考で今ここを変える

Q.幹部候補生の扱いだったのですが、仕事で大きな失敗をしたため、信用を失い、社内で孤立し、明らかに出世コースから外されてしまいました。周囲も「腫れ物」に触るようなかんじです。仕事自体は好きなのですが、同期の出世を見ていると、あの失敗がなければ、と悔やんでしまい、仕事に身が入りません。どうすればいいでしょうか?(30代、男)

A.あなたは自分自身で、「腫れ物」に触るような扱いを望んでいるのではないでしょうか。出世コースから外された可哀そうな人を演じ、周りの人に気を遣わせる立場に居心地のよさを感じているのです。アドラーの言う「承認欲求」の歪んだ形です。

 いつまでも過去にとらわれ、前に向かって行こうとしないあなたは、厳しいことを言えば、もともと出世できない人なのかもしれません。能力のなさを「あの失敗」のせいにしておけば、楽ですからね。

「劣等感」は努力や成長を促すバネであり、劣等感を言い訳に使う「劣等コンプレックス」こそが問題だ、とアドラーは言っています。「学歴が低いから、他人の何倍も努力しなければいけない」と奮い立つのが劣等感であり、「学歴が低いから、どうせ努力しても出世できない」と諦めるのが劣等コンプレックスです。

 精神分析を始めたフロイトは、現在の状況をもたらした原因をつきとめ、その原因を取り除くことで、現在の状況を変えようとしました。この考え方を「原因論的思考」だとすれば、アドラーは「目的論的思考」をとります。つまり、原因として、過去の出来事が取り出されるが、それは変えられない、ゆえに過去にこだわっている限りは現状を変えることはできない、と考えるのです。そして、現在の状況を変えるという目的のためには、今、ここで何ができるか、何をすべきかを考えます。

 あなたの場合で言えば、「仕事に身が入らない」、あるいは周囲の支援が得られず、仕事がうまくいかない、という現在の状況を自分に納得させるために「あの失敗」が持ち出されているにすぎません。

 このように、自分の置かれた状況を認めず、他人や周囲の環境や過去に「原因」を設定して、課題から逃げることを、アドラーは「人生の噓」と呼びます。そして、そんなライフスタイルを選んだのは、他の誰でもないあなた自身です。

 ライフスタイルは、今ここで変えられます。そして、ライフスタイルを選び直す現実的な「勇気」こそ、人生にもっとも必要なものだ、とアドラーは説きます。あなたに必要なシンプルなことは、今のライフスタイルをやめる決心をする勇気です。仕事で失敗して信用を失ったというのなら、仕事で取り返すしかありません。結果として出世に結びつくかどうかわかりませんが、目の前の仕事に邁進し、失敗を帳消しにするような成果を上げることに専心するのがいいのではないでしょうか。

Q.職場で「うつ」が続出しています。「うつ」の人の抜けた穴をカバーしようとがんばる人が、「うつ」になる悪循環が起きています。私もいつ「うつ」になるかと不安です。どうすればこの悪循環を断ち切れるでしょうか?(40代、女)

A.子供が急に「今日は学校を休む」と言い出します。親に「どうした?」と聞かれて、別に理由はないと言っても認めてもらえない。それで、どうなるかというと、症状が出ます。お腹が痛くなったり、頭が痛くなる。仮病でも詐病でもなく、本当に痛くなるのです。親が学校に電話を入れ、晴れて休めると決まった途端、その症状はみるみる回復します。

 大人も同じです。何か気持ちが凹んだり、しんどくてやる気が出ない、出社できず、働けないとき、自分も含めて誰もが納得せざるを得ない理由が必要になります。昔はストレスによる胃潰瘍や十二指腸潰瘍が流行り、その後は心因性の腰痛が出現しました。今は、現代病といわれる「うつ」です。

 アドラー心理学では、先ほど述べた「目的論的思考」から、人は目的を達成する手段として不安や恐怖を作り出すと考えます。ですから、うつになったから職場に行けなくなるのではなく、能力以上の仕事を与えられて耐えられなくなり、勇気が挫かれてしまって、もう無理だと思った人が、職場を休むためにうつの症状を生み出す、と捉えます。もちろん仮病ではないので、本人の苦痛は本物です。生真面目な人ほど、そして競争原理を重んじる職場に身を置いたときほど、うつになりがちです。いつ負けるかと気の休まる暇がなく、精神的な健康を損なうからです。うつにでもならなければ、競争から離脱できないのです。

 ですから、あなたはうつの連鎖に気を取られず、自分と仕事との関係を見つめ直した方がいいと思います。仕事から逃避したいと感じることなく打ち込めているのであれば、そう簡単にうつにはなりません。

 しかし、うつが続出するのは、すでに職場が病んでいるからです。このままでは、誰かが病気になるたびにケアをしても、それは対処療法にしかならず、うつの連鎖は止まらないでしょう。アドラーは治療よりも予防が大切だと言います。うつの人が、これ以上出ないようにするためには、絶対に組織の改革をしなければなりません。貢献感を持てる職場にする、過大な負担がかからないように十分な人員を充てる、などの対策をとるべきです。

Q.会社は一日のかなりの時間を過ごす場所なので、仲の良い人間的な関係を作りたいのですが、「プライベート」と「仕事」を分ける考えの人が多く、冷淡にあしらわれます。私の考えは古いのでしょうか。どうしたらいいでしょう?(30代、女)

A.「プライベート」という言葉の語源は、ラテン語の「プリバーレ」で、「奪う」という意味です。要するに、自分の時間を持ちたいなら、自分で奪い取らなければならない。「付き合いが悪い」といった批判を恐れていては、「プライベート」な時間は得られません。あなたの周囲にいる人は、そのような覚悟を持って、「プライベート」を確保しようとしているのですから、その考えは尊重しなければならないと思います。

 職場では、どんなに嫌な人とでも同じチームに組み込まれれば、付き合わざるをえない代わりに、友だちになる必要もありません。職場を後にすれば、その対人関係から離れられるところが、仕事をめぐる対人関係の特徴です。友人や夫婦、親子といった関係では、そうはいきません。でも、ビジネスライクな関係だけで、仕事がうまくいくのか、というと、私はそうでもないと思います。私はたくさんの本を書いてきましたが、編集者の方と一緒に本を作るのは、運命共同体のような関係にならないとできません。ですから、「この人とだったら、一緒に仕事をしたい」と思える人でなければ、絶対に組みません。「この人とだったら」と思えるときには、すでにビジネスライクな対人関係ではなく、限りなく友だちに近い関係です。そのような関係を築かずに仕事をするのは、非常につまらないだろうな、とも思います。

 そこで提案ですが、まずはあなたと同じような考え方を持つ同好の士を探し、声を掛けてみたらどうでしょうか。まず、その人と仲良くなって、「今日はどこに飲みに行こうか?」などと楽しそうに話していれば、それを見た人が楽しそうだなと思い、仲間の輪が広がっていくかもしれません。  いずれにしても、ビジネスライクな関係を好む人の居心地が悪くなる職場になってはいけません。いろいろな考えの人が共存できる寛容な職場の方が、より多くの人がその会社に居場所を見つけ、自分に価値を見出せると思うからです。

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