記事

【社会を変える起爆剤】会社も社員も得をする「働かせ方革命」 - 駒崎弘樹(認定NPO法人フローレンス代表理事)

1/2
中小企業にチャンス到来! 女性が働きやすい職場が、競争力を生み、少子高齢化の日本を住みやすい国にする

「残業0」を実現する「働かせ方革命」を成し遂げなければ、日本に未来はない。

 そう考え、私は経営者として、育児と仕事の両立を阻む病児保育や待機児童などの問題を認定NPO法人フローレンスの活動を通じて、解決してきました。もちろん、フローレンスは、代表である私も含めて、「残業0」が基本です。

「経済成長」しなければ、日本に未来はない、とは耳にタコができるほど聞かされてきたことと思いますが、なぜ「残業0」なのか? もっと働かなければ、経済成長はできないのではないか、と怪訝に思う読者も多いでしょう。しかし、将来の日本の人口構造を見たとき、「残業0」を実現できなければ、経済成長どころか現状維持さえ無理なことは明らかです。順を追って説明していきましょう。

 2015年時点で、65歳以上の高齢者は日本の総人口の四分の一を超えています。今後、この割合は増えていく一方で、2050年には、4割近くに達すると予測されています。それを経済的にだけでなく、介護などを通じて、直接支えるのは、現役世代にほかなりません。しかし、現役世代、すなわち15歳以上、65歳未満の生産年齢人口は、1995年から減少が始まり、2050年には、今の三分の二に減ってしまいます。高齢者一人を何人の現役世代で支えるかを見てみると、2012年には2.6人だったのに対し、2050年には、1.3人になります。一人の現役世代が一人の高齢者を担ぐ「肩車型」社会の到来です。

「女性活用」しかない

 これから現役世代の負担が増えていくばかりではありません。GDP(国内総生産)成長率は、一人当たりのGDP成長率と人口成長率を足したものにほぼ相当します。現役世代の大幅な減少は、どちらにもマイナスの影響をもたらします。日本はGDPを維持するのも難しい時代にすでに入っているのです。

 この絶望的な状況を打開するためには、女性に家の外に出ていただき、働いてもらうことで生産年齢人口の減少を補うしかありません。安倍政権が進める「一億総活躍社会」も目指すところは同じです。「少子高齢化」とそれに伴う現役世代の負担増は、今や先進国共通の課題ですが、「女性活用」という方法によって、それを解決できるのは、日本だけかもしれません。なぜなら、日本以外の先進国では、すでに女性の労働力参加率は、軒並み70%以上で、これ以上は伸ばすのが難しいからです。日本の女性の労働力参加率は約六五%と、約50%のイタリアと並んで、かなり低いので、「伸び代」が残されているのです。

 しかし、この「女性活用」の前に大きく立ちはだかっている障害があります。それは男性の「長時間労働」を基本とした「働き方」です。男性は無制限に働くことと引き換えに管理職への昇進と高い賃金を得る権利が与えられます。家事や育児にあてる時間は当然、取れないので専業主婦が必要になります。このような夫は職場に身を捧げ、妻は家を守るという性別分業が日本に定着したのは、戦後のことです。

 この性別分業を変えないまま女性が社会に出て、働こうとすると、男性に求められる「長時間労働」と家事や育児の両立するスーパーウーマンになるか、管理職のポストや高い賃金を諦めて、パートやアルバイト、非正規雇用、あるいは時短制度などを利用した「補助的」な働き方のどちらかを選ぶしかありません。その中間がないのです。

 日本の男性が相変わらず家事・育児に非協力的であることも、女性の選択の幅を狭めています。六歳未満児を持つ家庭の夫の家事・育児に費やす時間は、米国の171分、英国の166分、フランスの150分、ドイツの180分に比して、日本は圧倒的に少なく、何と67分です(内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 平成25年版」)。

 このように「働き方」の選択肢が非常に少ないことは、日本において女性管理職が少ないことや男女の大きな賃金格差をもたらしています。たとえば、他の先進国では、管理職に占める女性の割合は、ほとんど四割を超えているのに対し、日本は一割強に過ぎません。また、育児をしながら働く女性と男性の給与の格差が、日本は先進国中もっとも大きい。OECD(経済協力開発機構)が2008年を中心に二五歳から四四歳のフルタイムの母親の給与を調べたところ、調査国全体の中央値の平均は同世代男性の七八%に対し、日本は何と三九%でした。

 これでは、女性にどんどん社会で働いてください、と言っても、意欲が高まるはずがありません。

 また、いざ働こう、働きつづけようと思っても、子供を預ける保育園が簡単には見つからなければ、働く気持ちは萎えて当然です。安倍政権が「一億総活躍社会」を掲げながら、待機児童問題を一向に解決しないのは、残念ながら、言行不一致と言わざるをえません。

 では、女性の働く意欲を削ぐことなく、その能力を活き活きと発揮してもらうには、どうすればいいのでしょうか。

 それは簡単なことです。女性に家事や育児、介護をしながら、管理職のポストや高い賃金を諦めなくていい「働き方」を提供することです。それだけでは十分ではありません。諸悪の根源は、男性の「長時間労働」ですから、男性も「長時間労働」を改めて、今までよりも家事や育児に充てる時間を増やす「働き方」にシフトしなければなりません。この二つの課題を一挙に実現するのが「残業0」なのです。

「残業0」によって、女性はその意欲と能力を社会で十分に発揮し、男性は定時に帰宅し、家事と育児だけでなく、介護や地域社会への貢献にも参加する。高齢者が増え、現役世代の負担が増える、これからの日本を切り盛りするには、この方法しかありません。

 外国人を大量に受け入れれば、それほど今の働き方をドラスティックに変えてまで、女性活用を進める必要はないのではないか、という意見もあるでしょう。しかし、自国の女性に公平、公正な「働き方」を用意し、その意欲を高め、能力を発揮してもらうことができない社会に、果たして外国人が喜んで来るでしょうか。

「残業0」か倒産か

 さて、次なる問題は「残業0」の実現可能性です。「残業0」の社会的意義はわかったが、そんなことが可能なのか? と経営者なら言うでしょう。私もかつてはそう思っていました。しかし、これは確実にできます。しかも、経営者は、今やらなければ、近い将来、大きな危機に直面し、「残業0」がもたらすメリットを享受できなくなるでしょう。

 大きな危機とは、「残業0」を実現し、職場の魅力を高められなければ、優秀な人材を確保できなくなり、会社がつぶれてしまうことです。日本の生産年齢人口の減少がもたらす人手不足は、そこまで深刻になっています。2014年のことなので、すでに旧聞に属していますが、牛丼店の「すき屋」は苛酷な労働環境のため、従業員を確保できず、深夜営業ができなくなり、赤字になりました。飲食業だけでなく、あらゆる業種で、「残業0」に向けて、「働かせ方」を変えられない企業は、窮地に追い詰められていくことでしょう。

 そもそもブラック企業のような「働かせ方」をしている、人を大切にしない企業は、つぶれるべきです。そのような企業は、社会に対して貢献をしていないばかりか、むしろ社会に「ただ乗り」しているからです。「ブラック企業」の代名詞となった居酒屋「ワタミ」を例にとりましょう。ワタミに入社し、わずか二カ月後に過重労働で自殺に追い込まれた若者がいました。それは社会が20年以上かけて大切に育ててきた人材を、たった二カ月で食いつぶしたことになります。そのような企業は、社会にとって害悪でしかないので、つぶれるべきですし、人手不足で売り手市場にどんどんなっていく労働市場では、見向きもされなくなって、淘汰されていくでしょう。

 逆に「残業0」をはじめとして、やりがいがあり、人生の質を高めるような「働き方」を提供している職場には、それが有名ではない中小企業であっても、人がどんどんと集まりはじめています。働きがいや働きやすさが、中小企業の競争力を生み出す時代になっているのです。

 その代表例が、エー・ピーカンパニーが経営している居酒屋「塚田農場」です。塚田農場は単なる居酒屋ではなく、自社や提携先で育てた地鶏を提供しています。つまり、第一次産業と直結した居酒屋です。ここは「ワタミ」とは正反対で、アルバイトで働く若者を非常に大切にしています。バイトの就職活動の面接の練習にまで付き合って、彼らが志望企業に入れるように支援しています。今やこれぐらいに親身になってくれる職場でないと、バイトでさえ働きたいと思いません。

 手前味噌ですが、フローレンスも中途採用を募集すると、病児保育など社会的な貢献ができるという働きがいと「残業0」をはじめとする働きやすさを求めて、大企業で働く優秀な人材が続々と応募してきます。彼らは給料が半分になってもいいから、ここで働きたいと言ってくれます。ブランドがなく、大企業ほどの高い給料を出せない中小企業でも、働きがいと働きやすさを用意できれば、能力の高い人材を集められるようになってきたことを実感します。

 このような変化に敏感なのは、これまで人が集まりにくかった中小企業で、有名な大企業は鈍感です。しかし、私をはじめ規模が小さい企業やNPO法人の経営者は、大企業と同じ高い給料は出せないので、しばらく大企業には、残業無制限の昭和の働き方を続けてほしいと内心、思っています(笑)。

 次に経営者が「残業0」を実現したときにもたらされるメリットについて述べましょう。

 これはずばり残業代が0になることと労働生産性が上がることです。しかし、残念ながら、残業代0のメリットを中小企業の経営者に語っても、心に響かないことが多い。なぜなら、残業代を払っていない経営者が少なくないからです。しかし、これは単に違法ですから、「残業0」社会を築くために厚生労働省はもっと取締りを厳しくすべきです。

「残業0」にすれば、労働生産性は必ず上がります。なぜなら、日本は主要先進7カ国のなかで、時間当たりの労働生産性は最下位だからです。長いバカンスをとるフランスよりも、休んでばかりに見えるイタリアよりも低い。これだけ生産性が低いのですから、必ず「残業0」で今の仕事を回せるようにできるはずです。つまり、日本にはまだまだ「伸び代」があるのです。

あわせて読みたい

「残業」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    宅配急増の裏で運送業は地獄絵図

    キャリコネニュース

  2. 2

    "ふるさと納税"に多摩市長が怒り

    メディアゴン

  3. 3

    森友学園 まとめサイトはスルー?

    ふじい りょう(Parsley)

  4. 4

    アメ車が日本で売れないワケ

    ビデオニュース・ドットコム

  5. 5

    トランプ氏トイレ政策撤回の波紋

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

  6. 6

    宅配問題でAmazon配送料値上げ?

    自由人

  7. 7

    "反日親北"に傾く韓国 どう対応?

    tenten99

  8. 8

    森友学園疑惑 役人は汗びっしり

    田中龍作

  9. 9

    日本で働く"台湾人"が急増の理由

    キャリコネニュース

  10. 10

    amazonギフト券は「第二の通貨」

    加藤順彦

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。