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コンパクトシティ構想を推めるにしても、要介護者のQOLを高めることが大前提です - 「賢人論。」第11回(後編)小黒一正氏

「賢人論。」第11回(後編)小黒一正さんは「コンパクトシティ構想を推めるにしても、要介護者のQOLを高めることが大前提です」と語る

前編中編と一貫して「地域包括ケア・コンパクトシティ構想」についての理想と、その実現手段について語ってくれた、法政大学教授の小黒一正さん。最終回となる今回は、さらに具体的なプラットフォームづくりと、そこに医療・介護がどのように関わっていくのかということに言及。特に介護業界に身を置く人への“仕事への意識の持ち方”についても語ってもらった。

取材・文/安濃直樹(編集部) 撮影/伊原正浩

“町医者”のような人が率先することが、コンパクトシティのプラットフォームづくりに寄与する

みんなの介護 前編中編と続けて地域包括ケア・コンパクトシティ構想についてお話を伺いました。素晴らしい理念からなる構想とは思いますが、その土台を作り上げるのは、今の社会では課題も多そうな印象があります。

小黒 プラットフォームを作るのは、確かに容易ではないでしょうが、これは海外にも前例があって。オランダでは、エリアマネジメントをする人と、医師や介護士などが意見を交換する場をきちんと設けています。そこには当然、一般市民も入って、抱えている問題について話し合う。「ここをこうしたら、もっと良くなるんじゃないか?」って。

みんなの介護 特に医師と介護士など、そうした多職種の人が意見をすり合わせる…ということ自体のハードルが高いという話も聞きますが。

小黒 オランダでは、医師が司令塔になっているケースが多いようですね。それは、具合が悪くなったときに単発的に診てくれるような医師ではなく、ホームドクター、つまりかかりつけ医です。そうしたかかりつけ医というのは、患者本人だけでなく家族の状況も把握していますから、「患者の状態がどうだ」「家族の状況はこうだから、患者の容態がここまでいったら介護が必要になる」といったこともわかっている。そうした人が司令塔として機能していれば、適切な指示を出すことができますよね。

日本は今、だんだんと専門化が進んでいて、機関ごとに分かれてしまっているのが良くないですね。いわゆる“町医者”のような人が率先することが、プラットフォームづくりに寄与すると思うんですが。

みんなの介護 状況を取りまとめるだけでも、苦労が多そうですね。

小黒 だからこそ、エリアマネジメントという専門業種を成り立たせることに、大きな価値が考えられますよね。海外では、そうした職種の人に、地価が上がったら報酬を出すというケースもあるんですよ。固定資産税の収入が上がったら、その一部をエリアマネジャーに還元するんです。そういうファンドも組まれているくらいですから、考え方として発達していますよね。

ここで見失ってはいけないのは、それを何のためにやるのか?という原点に還ること。確かにプラットフォーム作りは大切ですし、そこにはビジネス的な観点も生まれてくるでしょう。でも、何より考えなくてはいけないのは、医療・介護サービスを受けている人の満足度を高めること、クオリティを上げること。データベースをしっかり管理するなど、きちんと効果をあげること、そして持続していける形をとることというのが前提になりますね。

「賢人論。」第11回(後編)小黒一正さんは「介護士の仕事は、「高齢者の生活の質を 高めることがコアなんだ」ということを意識しないと」と語る

重要なのは、環境変化に応じて自らのコアの価値観を再定義し、新たな使命をもつカンパニーだと自覚できるかどうか

みんなの介護 制度化の進め方についてはわかりました。とはいえ、そうした考え方から変えていくことも、なかなか難しいのでは…という感じもしますが、いかがでしょうか?

小黒 どんなことだって、またいつの時代も、イノベーションを起こすのは簡単なことではありませんよね。つい最近まで、NHKの朝の連続テレビ小説で『あさが来た』という番組をやっていましたよね。女性が表舞台に出ることがなかった江戸時代に、経営者として銀行や生命保険会社、女子大学を日本で初めてつくった女性の物語ですが、あの時代に、“女なんて…”という先入観を壊して推し進めたのは、相当な苦労だったと思います。

でも、未来が見えていれば、たぶん大丈夫なんですよ。明治維新だって、未来が見えている人が出てきたらから成立したんでしょうし、自動車が普及した時だって、「アメリカでこんな技術が出来たらしい。日本でも出来るはずだ」って、未来をはっきり想像した人がいたんですよ。最初のうちは、多くの人が「そんなの無理だよ」って言ったかもしれないですけど、チャレンジすれば出来るんです。

みんなの介護 社会的に広まっている先入観を取り払うのは並大抵のことではないですが、チャレンジせずに「無理だ」というのも良くないですよね。

小黒 企業が倒産するという場合でも、そうした価値観を変えられなかったということが多いと思います。例えばですが、世界的に有名なIBMという企業がありますよね。あの会社は、コンピューターを作る会社として成長を遂げてきたわけですが、今やコンサルティングの企業へと生まれ変わっているじゃないですか。環境変化に応じて自らのコアの価値観を再定義し、新たな使命をもつカンパニーだと自覚できるかどうかは、けっこう重要だと思うんですね。

みんなの介護 IBMが上手くいった事例だとして…介護事業者はどうすれば良いでしょう?

小黒 介護士の仕事も、基本的には肉体的な重労働ですよね。そうした状態が続いて、「高齢者のお世話だけしていれば良いんだ」みたいな考え方になってしまうとマズイですよね。そうではなく、各個人の人生をもっと質が高いものにコンサルティングして、変えていくということがコアなんだ、ということを意識しないと。

その中の、あくまでひとつの要素が介護である、というように考えてはいかがでしょうか。その周辺にライフコンサルティングやマネープランニングがあって、亡くなった後の相続対策などもあって、生活全般を設計していくわけです。で、そうした個人を超えた瞬間に、今度は地域に目が向いて、街づくり、エリアマネジメントへ…というように世界が広がっていくんだと思います。

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