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これからは日本の介護技術を輸出する時代。どのように日本が世界の介護をリードするのか見守りたい - 「賢人論。」第12回(後編)長谷川和夫氏


精神科医として認知症治療の第一線で奮闘してきた長谷川和夫先生の「賢人論。」も、今回で最終回。中編では、主に介護者となる家族の心持ちについて語っていただき、多くの共感の声が寄せられた。引き続き介護者としての心持ちについて…今回は、介護職員の意識の持ち方について話を聞くと同時に、介護職の労働環境や待遇の改善などについても伺った。 

取材・文/安濃直樹(編集部) 撮影/鈴木英隆

認知症患者の介護で大切なのは、本人を焦らせたり、不安を助長するようなことをしないこと

みんなの介護 先生は今、「認知症介護研究・研修東京センター」の名誉センター長という立場で、後進の方の育成に力を入れているそうですね。心がけている教え方などはあるのでしょうか?

長谷川 まずね、「認知症の人の立場に立って、考えてみるということを第一にしなさい」ということですね。認知症だからと言って、僕らと同じ人格を持った主体であるということ、同じ人間であるということを忘れないで対応しなさい、ということですね。

多くの介護職員が陥りがちなことに、「認知症の患者さんが何か特異な行動をしていると、何かを言わなきゃいけない」という気持ちになることなんです。そうではなくて、「聞く」ということを大事にしなければいけません。それも、「今日の気分は良いですか?」などという「良いです」「良くないです」なんて二択で答えられるような聞き方ではなくて、「今日の気分はどうですか?」という聞き方でないとダメ。

みんなの介護 具体的な言葉を引き出させる、ということですね。

長谷川 そうですね。そして、「あなたの目の前に座っているお年寄りは、あなたが思っているのと全然違ったことを思ってらっしゃるかもしれないよ。ニコニコ笑っているように感じるかもしれないけれど、実は不安でいっぱいで、これからオレはどうなるんだろうかとか、この人オレをどうしようとしているんだろうかとか、ここにいていいんだろうかとか、不安でいっぱいなんだよ」ということを話します。

自分よりも2倍も3倍も長生きしてきた人の前に座っているんだから、その人が今まで培ってきた、その人しか持っていないヒストリーを大切にしなきゃいけませんよね。その人と同じヒストリーを持っている人は一人もいないんだから、とても大切な自分というものを持っていらっしゃる“ユニークな存在”なんだから、そういうことを認識しなければならない。介護職員の方には「あなた自身も、自分をユニークな存在だと思っていると思うけれども、それはお年寄りも同じなんだよ」ということですね。

みんなの介護 介護をするときの意識の持ち方についてはわかりました。では、介護の方法として具体的な事例を挙げていただけますか?

長谷川 患者さんがしていることを中断してはいけない、ということですね。とかく、認知症の人が何かをしていると「それは後にして、ちょっとこっちへ来てください」なんてことを言いがちなんですが、それはしてはダメ。例えば、通院の時間だったとしても、それはきちんと説明してから行くようにしなさい、と。焦らせたり、不安を助長したりするようなことをするのは絶対にダメですね。


これからは日本の介護技術を輸出する時代。どのように日本が世界の介護をリードするのか見守りたい

みんなの介護 要介護者のことを尊重して、その人らしい生き方をサポートする。そうした観点に立てば、確かにそうだよな…と納得できる一方で、介護職員の方が日々の忙しい業務の中で、そうした原点に立ち返るのもまた、難しい面があるとも思います。

長谷川 介護施設での虐待のニュースなんかを目にすると、確かに現実的に考えたら難しい面もあるかもしれませんね。グループホームなんかでは、9人の1ユニットを日中は4~5人でみていたとしても、夜間は1人だったりしますからね。それは壮絶なくらい大変な仕事だと思いますよ。

夜中に1人で待機しているときに、1人が歩き回っていて、もう1人の排泄の処理をしなきゃいけなくて…なんて事態になったら、原則を頭で理解できていたとしても、そんなものは吹き飛んでしまいますよね。

みんなの介護 何か良い対策はないでしょうか…。

長谷川 根本的な解決を見ようとするなら、やっぱり介護職員の待遇を良くして、現場の人員を確保しなければいけないでしょうね。考えてみてくださいよ。例えば初任給が20万円だったとしても、今のシステムでは大きな昇給が望めないんですよ。独身だったらまだ良いかもしれないけれど、結婚して、子どもができて…となったら、生活が苦しくなるのは目に見えてしまう。となれば、介護職は辞めて他の仕事を…となって、現場の人手が足りなくなってしまう。

みんなの介護 そうすると、介護施設が要介護者を受け入れる余裕がなくなって、在宅介護の家庭が増える。在宅で介護をするために、家族が仕事を辞めざるを得なくなる「介護離職」が増える…という、まさに悪循環のケースが増えているのが現代社会です。

長谷川 安倍総理がね、「介護離職をゼロにする」と公言しましたよね。そんなに上手くいくかね…と半信半疑ながら、僕としては、日本の総理大臣が介護について言及したということだけでも良いことだと思っていますよ。なんたって、歴代の総理大臣で初めてのことですからね。

みんなの介護 安倍総理が、歴代の総理大臣の中で介護に言及した初めての人…そういえば、そうですね。

長谷川 一昨年の話になりますが、東京で認知症サミット会議がありましたよね。その委員会から、僕にも出席してくれという要請があったんですが、その席で、この耳で聞きましたからね。諸外国からも多くの人が出席したサミットという公的な場所での発言だったから、それは本当に意義のあることでしたよ。

みんなの介護 実行が伴うかというのは先の話になるとしても、国としての姿勢は見えたということですよね。

長谷川 認知症対策については、世界が日本を注目していますからね。なんたって、日本は世界中の最長寿国なんですから、認知症の人が一番多いということ。マラソンで言えばトップを走っているわけで、トップを走っているときは、カメラマンがやっぱり追いかけるわけですよ。日本はこれからどうするんだ?ってね。

ことに、注目しているのは東南アジアでしょうね。フィリピン、インドネシア、カンボジアなどは日本より高齢化のスピードが早いんですから。

みんなの介護 東南アジアの国々からは、EPA(経済連携協定)を利用して、日本の介護を学ぶべく来日する人も多いですね。

長谷川 それはひとつ良いことだと思いますが、やはり日本語というハードルが高いですよ。介護福祉士の試験で「褥瘡」なんて漢字が出たら、向こうの人だって困っちゃいますよね。だから僕が考えるのは、日本から東南アジアに出向いて、日本人が講義をしてあげれば良いということなんです。

現地の方々は、日本人講師から技術を学んで、現地の試験を受ければ良い。こちらは現地の言葉を話せなくても、同時通訳でもなんでも雇えば良いですよ。これはそんなに難しいことではないでしょう。これからは、日本の介護技術を輸出する時代ですよ。日本が先頭を切って世界の介護をリードする。その成り行きには、私も注目しています。

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