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  • 畑恵

3つの“S”で解く勝利の方程式 ~リオ五輪&甲子園 W金メダル秘話


「信念、執念、信頼の絆」―人生を生き抜く上で欠かせない3つの“S”として、常日頃子どもたちに話して聞かせる言葉です。

今夏のリオ五輪と甲子園で、作新学院にダブル金メダルをもたらしてくれた卒業生の萩野公介選手と硬式野球部の選手たちを見ていると、この“3S”の重要性をあらためて痛感します。

【第一のS 「信念」】


まずは、「信念」。この言葉は、志(こころざし)、あるいは使命(ミッション)という言葉にも置き換えられると思います。

他者からの評価や金銭の多寡などとはまったく無縁に、ただひたすら自分自身が正しいと信じ、心の底から成し遂げたいと希う(こいねがう)その気持ち、それが「信念」です。

信念は人という存在の核をなすものであって、それ無くして人生におけるいかなる幸福も栄光もたらされるものではないと思います。

信念は時として、近視眼的な勝負事では勝利を遠ざけることもあります。

たとえば、甲子園。効率的に試合に勝つことだけを考えれば、技術や体格に優れた選手を全国から集めるということも、一つの選択肢かもしれません。

しかし、作新学院の選手はすべて地元出身。栃木県以外の隣県から通ってくる生徒はいますが、通学できない選手のために入学当初から寮を用意して、遠方の他府県に選手を求めることをしていません。

なぜ地元にこだわるのか。小針崇宏監督を筆頭に、作新には実現したい理想の高校野球があります。

同時に、作新には実現したい理想の“教育”があります。

目先の勝敗を優先して、その理想を二の次にすることはできない。それが、作新の「信念」です。

ただ、地元出身の選手たちだけであろうとなかろうと、勝ちは勝ち負けは負けです。全員地元っ子だから勝てなくても仕方ないという考え方は、作新では一切通用しません。

信念を持つことは、効率性を妨げるかもしれませんが、持つ者に自信と誇り、勇気と覇気を与えてくれます。54年という長い長い時を経て、再び大優勝旗をもたらしてくれた第一の原動力が、学院の「信念」であったことを私たちは何より誇りに思っています。

【第二のS 執念】


二つ目のSは、執念です。執念と聞くと、おどろおどろしいイメージを持たれてしまうかもしれませんが、要するに「必ず勝つ」、「決して負けない」、「絶対に諦めない」という強い気持ちです。

ただし勝負は時の運、誰だって負けることはあります。

大切なのは、「自分に負けない」こと、勝負を「諦めない」ということです。

萩野選手が高校3年で迎えたロンドン五輪で、日本競泳界56年ぶりの高校生メダリストとなった際、学院広報誌のインタビューでこんな言葉を残してくれました。

「一番の敵は、自分の弱さ。」

萩野選手は試合での勝ち負けだけでなく、毎日の練習ですら一本一本、「今の泳ぎは自分に勝てた、これは負けた」と、自分に勝つことにこだわって泳ぐそうです。

オリンピックに引き続き現在開催されているパラリンピックでも、決して諦めることなく自分の限界に挑戦し、運命を乗り越えて行く力の偉大さに、毎回感動させられます。

絶対に負けない、諦めないという「執念」の強さこそが、最後の最後に勝利を引き寄せ、人生の勝敗を決するのだと思います。


【第三のS 信頼】


三つ目のSは、信頼です。

いくら個人の能力が高く信念と執念が強くても、チームの仲間、支えてくれる家族や指導者との信頼の絆が揺らいでいては、何事も成し得ません。

全国優勝を果たした今夏の硬式野球部ほど、信頼の絆の強さを実感させてくれたチームはありませんでした。

実は県大会の決勝戦で、作新学院は負傷者を出していました。サードを守っていた藤沼竜矢選手が、ファウルボールを追ってフェンスに激突、肩の脱臼と手首の骨折というアクシデントに見舞われたのです。

作新の野球部でレギュラーに選ばれるような選手は、物心ついた頃から甲子園出場だけを夢見て、ずっと野球漬けの毎日を送ってきたような子がほとんどです。しかも藤沼は3年生、これが高校球児として最後の夏です。

病院へと搬送される救急車の中で、付き添ったお母さんと一緒に本人も泣き続けていたそうです。

誰しもが藤沼の甲子園出場を絶望視した中、小針監督はベンチ入りメンバー18名に、負傷のためプレーのできない藤沼を加えることを発表します。監督はもとより、チームの仲間たちから厚い信頼を得ていた一人の選手が起こした、奇跡とも言える出来事でした。

熱血プレーに倒れた藤沼は、伝令という新たな役割を担いその足で甲子園のグランドを踏みました。そしてその存在はベンチから格別のエネルギーを仲間たちに送ることで、全国優勝に大きく貢献しました。

信頼の絆の強さは、ベンチ入りした選手たちだけではありません。

甲子園での準々決勝、作新の攻撃が始まったその時、アルプススタンドの応援席からいきなり野太い声での大合唱が聞こえてきました。

「ハッピー・バースデー・トゥーユー、ハッピー・バースデー・トゥーユー、ハッピー・バースデー・ディア・りゅうがさん~♡」

なんとその日誕生日を迎えた山ノ井隆雅選手へ、ベンチ入りしていない選手たちからの応援歌でした。

すると、この歌をBGMにバッターボックスに立った山ノ井が、お返しと言わんばかりにホームランアーチを描いて見せたのです!

神聖な甲子園の試合中にハッピーバースデーとは、正直、前回の優勝年生まれの私としては違和感があったのですが、もはや時代は変わったことを実感しました。


「信念、執念、信頼の絆」―どんなに時代が変わろうとも、この「3S」を大切に“人間力ファースト”の教育を為し続けること。それが私たち作新学院の使命だと子どもたちから教えられた、忘れじの2016夏でありました。

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