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高齢者の徘徊による死亡事故に隠されたジレンマ - 藤尾智之 税理士・介護福祉経営士

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一昔前は痴呆、今は認知症と呼ばれている病気があります。発症は高齢者に多くその数は400万人とも500万人とも言われています。その認知症状のある高齢者がデイサービスセンターを抜け出して、そのまま亡くなられたという痛ましい事故が起き、その判決が先日出されました。亡くなられたご利用者のご冥福をお祈り申し上げます。

■認知症について


一般的に認知症と呼ばれる病気は、大きく4種類に分けられます。
(1)アルツハイマー型認知症、(2)前頭・側頭型認知症、(3)レビー小体型認知症、(4)脳血管性認知症です。(1)~(3)は、脳の神経細胞がゆっくりと死んでいく変性疾患と言われる病気です。(4)は、血管が詰まって一部の細胞が死んでいく病気です。患者数の割合として、(1)のアルツハイマー型認知症が認知症全体の60%を占め、脳血管性認知症が20%となっています。

発症者の半数以上を占めるアルツハイマー型認知症をもう少し細かく見てみましょう。初期のころは、短期記憶の蓄積ができなくなります。例えば、ごはんを食べたことを忘れてしまいます。何を食べたか忘れるのではなく、食べた事実を覚えていないという症状です。そして中期の症状だと最近の記憶が失われていきます。幼少や二十歳頃の記憶は残っていても中年時代以降を覚えていないことがあります。

そして、この中期に多く起こるのが徘徊症状です。上記の記憶障害によって今いる場所は、自分の居場所ではないと思って外に出ます。例えば、数十年も住んだ自宅を自宅と認識できずに、「家に帰ります。」と言って外に出て実家や以前に住んでいた家を探すような行動をとります。家族が一生懸命説明しても理解してもらえないため、力づくで留めるのが精いっぱいということもよくあります。

■徘徊予防策その1


例えば、予防策として玄関ドアが施錠されているケースがあります。自動ドアにも関わらず営業中はOFFにし、上下に鍵をかけるなど非常に不便な状態となっている施設があります。また、自動ドアを開けるスイッチを通常の場所に置かず事務所内に移動しているケースもあります。鍵をかけない場合としては、入り口付近で事務職員などが受付業務を行い、注意を払うというケースもあります。

そのほかに、ご利用者のカバンやポケットにセンサーの発信器を付けさせていただくこともあります。万が一利用者が近づいてこられたら発信器の電波を受信した機器がアラームを鳴らしてお知らせするという仕組みです。もちろん、例として掲げた物理的予防策をとっていない介護事業所もたくさんあります。

■徘徊予防策その2


その1では物理的な予防策を挙げましたが、職員はご利用者の行動に気を配って徘徊等の症状が出ないように予防に努めています。徘徊等の症状が出てしまう理由として、認知症状のために職員の声かけや行動が理解できないとき、記憶がないことによる不安や孤独感を感じているときなど様々です。職員はご利用者の過去を知るなどして、ご利用者の心に寄り添うようにしています。

また、徘徊等の症状が出ないようにする心がけとして、生活のリズムを整えることが言われています。起きる時間、食べはじめる時間、トイレやお風呂、活動する時間などを一定に保つことです。そして、心地良い雰囲気でなるべくご利用者のリズムで過ごせるようにします。

最大の予防策は、職員一人ではなくチームで見守ることです。チームケアと言います。チームで対応し、チームで触れ合う時間を作ります。認知症状があるからといって、ご利用者の心に気持ちがなかったり、言いたいことがなかったりということでは決してありません。小さなサインを見逃さないように職員は全員で一人のご利用者を見ています。物理的な予防策ではないですが、介護の基本による予防策です。

そして、予防のための介護は支援のための介護に向かって職員の心は深化していきます。予防は問題が起きないようにという消極的・管理的考え方です。これに対して支援による介護は、自立・自己決定をご利用者に促し、残存機能を活用して生活の質を高める支援です。心から望まれるで対応であり、職員はこのスキルを日々磨いています。

■ご家族との情報交換


ご家族は、認知症状のある家族を藁をも掴む気持ちで介護事業所に送りだしています。介護のプロがいるのだから安心という気持ちでいっぱいです。その気持ちを受け止めて、職員はご利用中、責任をもって安全管理を図ることは当然のことです。そして、ご利用中の様子を記録してお帰りの際に報告します。介護事業所とご家族は常に情報交換が必要です。情報交換こそが介護事業所とご家族との信頼関係構築の礎です。

介護事業所はご利用中の様子でいつもとは異なったところを伝える、ご家族は家庭で過ごす様子を伝えることで、ご利用者の小さなサインを見逃す可能性が少なくなります。

そして、これからは介護事業所だけ、家庭だけではご利用者の介護は完結しません。今後は地域で見守るという「地域包括ケアシステム」という大きなくくりでご利用者の介護や生活を考える社会に変わります。

■それでも起きてしまう徘徊事故


玄関ドアを施錠しているのになぜ外に出てしまうことがあるのか?チームで見守っていてなんで見逃すのか?と思う方もいるかもしれませんが、施設にはたくさんの方が出入りをしていて、施錠が徹底できないことがあります。誤ってエレベータのドアが開いて、たまたま乗ってしまい、外に出てしまうこともあります。このようなときに起きてはいけない事故が起きてしまうことがあります。

もしも、ご利用者が外に出て行ったしまった時は、事務職や生活相談員などサービス提供に今すぐ関わっていないスタッフは総出で探しに行きます。徒歩、自転車、自動車などを使って近所をくまなく探します。施設の場所によっては、バスが通っていることもあると思います。その場合、捜索範囲は格段に広がります。探している間、何事もないことを祈り、事務所と連絡を取りつつ、捜索範囲がだぶらないように、また、過去の行動記録から昔通っていた囲碁教室なども訪ねたりします。

私が勤務していた施設でも、誰にも気づかれぬままご利用者が徘徊により外に出てしまったことがあります。そして、お金を持っていなかったにもかかわらずバスに乗って、隣町で発見されました。今でも思い出すとぞっとします。

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