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未決拘禁日数の本刑算入について:「一部算入説」批判

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刑法21条は「未決勾留の日数は、その全部又は一部を本刑に算入することができる」と定めている。これは裁判で刑の言い渡しを受けるまでに警察署や拘置所に拘禁されていた被告人に対して、その期間の全部または一部を刑期に算入して刑の執行を受け終わったものとみなす制度である。未決勾留は刑罰そのものではないが、社会から隔離され自由を拘束されるという意味で、刑罰と異ならない。犯罪に対する制裁は予め法律に定められた刑罰に限られるというのが近代法治国家の大原則である。

未決拘禁期間を刑期に算入するという制度は、この原則にしたがって個人に対して裁判所が適法に宣告する刑罰以上の苦しみを与えないようにする制度であると言える。言い換えると、適正な裁判を実現するために未決拘禁という苦痛・害悪を被った個人に対して、裁判終結時にその害悪に対する補償をする制度である。無罪の裁判を受けた被告人には未決拘禁期間に応じた金銭的補償を受ける制度がある(憲法40条、刑事補償法1条)。未決算入制度は、有罪の被告人に対してこの補償を与えようという制度である。

刑法は「その全部又は一部」と言っている。しかし、わが国の現代の裁判実務では、未決勾留日数の「全部」が刑に算入されることは全くない。皆無である。それは、現代の圧倒的多数の裁判官は、いわゆる「一部算入説」を採用し、「事件の捜査・審理に必要な期間」は当然に被告人が負担すべきであり、その期間を除いた未決勾留日数しか刑期に算入しないからである。

そして、この「事件の捜査・審理に必要な期間」については、司法研修所が作成したマニュアルに掲載された計算式 (1)を使うのが一般的であった。裁判員法が施行されててから、刑事裁判の審理スケジュールが従来のものと異なるものとなったので、最近は「司法研修所方式」とは異なる計算式が考案されるに至っている (2)。いずれにしても、実務が「一部算入説」で運用されていることは変わりない。

60年ほど前に、この実務に異論を唱え、未決勾留日数は原則として全部本刑に算入されるべきであるという「全部算入説」を提案する裁判官が現れた(3) 。この考え方に追随する裁判官もいた(4) が、彼らは多数派にはならなかった。2009年に日本の刑法に強い影響を受けた刑法典を持つ韓国の憲法裁判所が、未決拘禁日数の全部を算入しないのは同国憲法が定める適法手続条項や無罪推定原則に違反するとして、「全部又は一部を本刑に算入する」と定める同国刑法57条1項のうち「又は一部」の部分は無効であると宣言した(5) 。この違憲判決はわが国の実務には全く影響を与えなかった。

一部算入説が実務上盤石の地位を占めていることは疑いがない。しかし、その正当性の根拠については、これまでほとんど議論されてこなかった。われわれ実務家は実務の大勢がそうだからというだけの理由でこれに従ってきたのである。このままわが国の実務を支配し続けることは正しいのか。裁判員裁判では、普通の市民がこの判断に加わるのである。「これまでの実務がこれだ」というだけで市民をそれに従わせるのは不当である。原点に帰ってこの問題を考え直す必要がある。

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