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本当の意味でのホスピタリティとは何か?介護はもちろん、どの業界でも考えなければならない - 「賢人論。」第13回(後編)竹中平蔵氏


前編中編と続けて介護を中心とした社会保障体制が抱える問題点について言及してきた、竹中平蔵氏の『賢人論。』も今回が最終回。話題となったのは、これまでの社会問題とは一転、個人としての物事の考え方や、対応の仕方について。「日本はホスピタリティの国だと言われますが、私は違うと思っています」と語る、その真意に迫る。

取材・文/篠塚祭典(編集部) 撮影/伊原正浩

小さいことから進めていく。日本経済は大きいのですぐには変わらないけど、時間をかけて変わっていく

みんなの介護 郵政民営化や電力自由化など、歩みは遅いかもしれませんが、少しずつ日本にも「競争」というアイデンティティの波がきているとは言えると思います。

竹中 そうですね。アリストテレスの言葉に「改革は小事にあらざるも、されども、小事より生まれる」というものがあります。つまり、小さいことから進めていくことが必要ということです。日本の経済はとても大きいので、すぐには変わらないですけど、3年、5年、7年かけて変わっていきます。

「アベノミクスで、世の中あまり変わらないね」なんて言われますが、そんなにすぐには変わらないですよ。2003年にドイツのシュレーダー政権でなされた改革の効果が出てきたのが2010年頃だと言われています。社会とはそういうものだというリテラシーを国民は持たないといけません。

みんなの介護 そういうリテラシーを持って、国民のベースが上がっていくためにはやはり教育が必要ですか。

竹中 そうですね、例えば経済の社会的教育という学問分野が世界にはありますが、日本にはありません。その欠けている部分をメディアが面白おかしく煽りますから、国民は不安にかられますよね。

そういう意味では、メディアについての教育も不十分です。日本にはジャーナリストとしての訓練を受ける機関がないんです。○○新聞のジャーナリストは、○○新聞の社員なんですよね。大学を出て銀行に就職しようか、新聞社に就職しようかという次元の話ですよね。

みんなの介護 確かにそうですね。そういう機関では何を学ぶんですか?

竹中 ハーバード大学には、ニーマン・ファンデーションというジャーナリストの養成機関があって、そこを出た人がたくさんピューリッツァー賞をとっていると知られていて、そこで聞いたのは “スピリッツ・オブ・ジャーナリズム”、つまりジャーナリズムの精神ですね。

わかりやすく言うと、ふたつ。ひとつは「権力」から距離を置くこと。これは、分かりますよね。なんとなくそういうものだろうと思いますよね。実際どうなっているのかは別の話ですが(笑)。もうひとつは、「大衆」から距離を置くこと。大衆がどう思っていても、正論はこうだと貫くということです。

みんなの介護 日本の現状はどうでしょうか?

竹中 日本は大衆に媚びて、権力に擦り寄っている。そういうことを学ぶ機関がないし、学んだ人も少ないというのが現状でしょうね。

色々なことに優れた人って、本当に基本に立ち返ることができる人

みんなの介護 メディアの話が出ましたが、やはりテレビや新聞の力は大きいですよね。

竹中 でも、今の20代の人は圧倒的にテレビを観ないですよね。インターネットですよ。

インターネットというのは、通信と放送の融合だったんですよね。“通信”っていうのは、手紙に代表される、私からあなたへの情報伝達法。一方、“放送”は電波を使ってテレビとかラジオとか、1対多数への情報伝達ですよね。

ところがインターネットというのは、両方できちゃうわけですよ。だから通信法で縛るというのも、放送法で縛るというのも難しい。この10年間で起きている大改革です。

みんなの介護 すごく面白くなってきていますよね。時代がどんどん変わっていくなかで私たち “みんなの介護”も生まれました。

竹中 そうですね。おっしゃるように、インターネットを使ったメディアというのはイノベーターなんですよね。

小泉内閣では、メールマガジンを作りました。当時は約300万人の方が会員になってくださったのですが、これは私のアイデアではなくて、実は私の教えていた学生のアイデアなんです。先生、ホームページより面白いものがありますよって。

当時メールマガジンは、まだあまりメジャーでは無くて「総理大臣の名前でメールがきたら嬉しいよね」って。「それやってみませんか」って、小泉さんに話したら「よくわかんないからやるか!」って(笑)

みんなの介護 でも、ものすごく柔軟ですよね。そういうイノベーターと思われるようなものを取り入れて、それをやってみようというのは。

竹中 柔軟でしたね。でも、それと同時にすごく基本に忠実だったんですよね。日本の憲法では、内閣の半分は国会議員じゃないといけないんですが、半分以下なら民間人を入れて良いことになっているんです。

小泉内閣は3人の民間人を入れました。私と、遠山敦子さんと、川口順子さん。派閥を通さずに指名しました。けしからんという人もいましたが、全て憲法通りなんです。総理大臣が指名すればいいんですから。

本当に基本って大事ですよね。色々なことに優れた人って、きちんと基本に立ち返ることができる人だと思います。


日本は自分が良いと思ったことを押し付けているだけ

竹中 私は、大学で教えていますけど、教科書に書いてあることなんて、どうでもいいと思っているんです。本人に勉強する気があれば、読めば分かるように書いてあるんですから。要は勉強する気があるかないか、それだけです。

みんなの介護 なるほど、では教師の役割とはなんでしょうか。

竹中 教師の役割は、勉強する気にさせることですかね。細かいことなんて教える必要はないし、もし正確に細かいことを教えたいのであれば、私なんかよりもっと若い大学院生に教えさせる方がよっぽど正確に教えます(笑)。

みんなの介護 どの業界でもそれは同じことが言えるのかもしれませんね。スキルは学べば上がる。でも、何のためにするのかっていう基本に立ち返ることですよね。

竹中 ホスピタリティの基本ですよね。日本はホスピタリティの国だと言われますが、私は違うと思っています。

仕事で、空港を利用することが多いのですが、日本の空港はひどいと思います。担当者の顔はニコニコ笑っていますが、それだけなんです。成田や羽田になんで新幹線が通ってないんですか。システムとしてのホスピタリティがない証拠ですよね。

みんなの介護 確かに、それはありますね。

竹中 荷物のことで、交渉する事情があったときも「申し訳ございません、それはできないことになっています」の一点張りなんですよね。なぜできないのかの説明もなく、ただ「それはできないことになっています」と笑顔ですよね。

他の国でも同じようなことがあったときは、つっけんどんなんだけど、上司に相談してみると言ってくれました。そちらの方が遥かにホスピタリティがあると思いませんか?日本は自分が良いと思ったことを押し付けているだけに思えます。

みんなの介護 介護でも同じことが言えるかもしれませんね。

竹中 自分が良いと思っているサービスをしているんです。そういう意味の優しさはあるんでしょうね。それは確かなんですけど、相手が求めているかどうかっていうのは、別問題なんです。

対面サービスの良さを求めている人ももちろんいるけれど、そんなことは実はどうでも良くて、値段の安さを求めている人もいるわけで、その人にはできるだけ安い料金で提供するのがホスピタリティです。これは介護業界で働く人も同じこと。それぞれ求めているものは違うということを、常に肝に据えておかないといけません。

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