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働き方改革はどこに向かうのか~時間制約のあるフルタイム勤務への「移行」と「多元化」 - 松浦 民恵

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■要旨
  1. 本稿では、働き方改革が活発化している背景や取組内容を概観し、取組の方向がどのような流れにあるのかについて考えている。
     
  2. 働き方改革の取組が活発化している背景としては、(1)ダイバーシティ・マネジメントのインフラ整備、(2)生産性向上への期待、(3)働き方改革への政府のコミットが強まってきたこと、があげられる。
     
  3. 働き方改革の取組は大きく「労働時間の制限」と「働き方の柔軟化」から構成されており、「労働時間の制限のみ」の企業と、「労働時間の制限」と「働き方の柔軟化」を併用している企業でほぼ2分される。
     
  4. このような働き方改革によって、「時間制約のないフルタイム勤務」及び「短時間勤務」からの「時間制約のあるフルタイム勤務」への「移行」が進む。ただし、「時間制約のないフルタイム勤務」から「時間制約のあるフルタイム勤務」への移行については企業や職場によって働き方改革の推進にバラツキが生じるという意味で、「短時間勤務」から「時間制約のあるフルタイム勤務」への移行については短時間勤務者の個別事情には配慮されるという意味で、「多元化」が進むと考えられる。
     
  5. 「時間制約のあるフルタイム勤務」への移行については、「時間制約のないフルタイム勤務」「短時間勤務」のどちらからの場合についても、いずれインセンティブや処遇の見直しが必要な段階に入ってくると考えられる。つまり、労働時間の制限や働き方の柔軟化による働き方改革の次の段階として、インセンティブや処遇という人事管理政策の見直しが問われることになる。さらにいうと、働き方改革は経営戦略にもかかわるものである。働き方改革をより実効的に進めていくためには、人事管理政策、さらには経営戦略へと、改革の射程を広げていく必要があるだろう。
■目次
1―働き方改革の3つの背景
  1|働き方改革に取り組む企業の増加
  2|ダイバーシティ・マネジメントのインフラとしての働き方改革
  3|生産性向上に向けた働き方改革
  4|政府も働き方改革にコミット
2―労働時間の制限と働き方の柔軟化による働き方改革
  1|働き方改革の概観~労働時間の制限と働き方の柔軟化
  2|働き方改革の、短時間勤務者等に対する影響
3―働き方改革はどこに向かうのか
  1|働き方改革の潮流~移行と多元化
  2|働き方改革の今後に向けて

1―働き方改革の3つの背景

[図表-1] 働き方変革に取り組んでいる企業の割合

1働き方改革に取り組む企業の増加
働き方改革に取り組む企業が増えている。NTTデータ経営研究所/NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューションの調査によると、「働き方変革」に取り組んでいるという回答割合は、2015年の22.2%から2016年には32.1%と、この1年間で約1割増加している(図表-1)。これまでも働き方改革に取組んできた企業はあったが、ここにきてこのように取組が活発化してきているのはなぜなのか。

本稿では、まず、働き方改革が活発化している背景について述べる。そのうえで、働き方改革の取組内容を概観し、取組の方向がどのような流れにあるのかについて考えてみたい。なお、「働き方」という言葉は多様な意味を包含して用いられることが多いが、本稿では労働時間に焦点を当てる。つまり、本稿でいうところの「働き方改革」とは「長時間労働を抑制しようとする取組」を指し、年次有給休暇の取得促進や、育児や介護の短時間勤務の拡大等のワーク・ライフ・バランス支援は検討の対象から除外する。

2ダイバーシティ・マネジメントのインフラとしての働き方改革
働き方改革が活発化している背景の一つ目として、働き方改革がダイバーシティ・マネジメントのインフラとして不可欠であるという認識が広がってきたことがあげられる。とりわけ働く時間に制約がある社員にとって、長時間労働は、生産性の向上、就業継続を含むキャリア形成のいずれに対しても阻害要因となる。

折しも、2016年4月に女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)が施行され、従業員数301人以上の企業は、数値目標を含む一般事業主行動計画の策定・提出・周知、さらには女性の職業選択に資する情報の定期的な公開が義務付けられた。この情報公開の項目(選択肢)のなかにも、「労働者の1月当たりの平均残業時間」が盛り込まれている。

3生産性向上に向けた働き方改革
背景の二つ目として、働き方改革が社員の生産性向上につながると、期待されていることがあげられる。山本・黒田(2014)1は、労働者と企業の調査データの分析から、「(前略)長時間労働、とりわけサービス残業が労働者のメンタルヘルスを毀損する可能性が示唆され、またメンタルヘルスを毀損した労働者が多い企業ほど、中長期的にみると企業業績が悪くなる傾向にあることが示唆された」(318-319頁)としている。長時間労働を前提とする働き方が、メンタルヘルスをはじめとする社員の健康、ひいては生産性にマイナスの影響を及ぼしているという認識が、働き方改革の取組を後押ししている。

また、働き方改革は、社員の新しい発想やアイディアの創出につながることが期待されている。図表-2は、「部下が『仕事以外に大事にしたいこと』を行うことは、仕事面でも以下のような効果が、どの程度あると思いますか」という問いに対する、管理職の回答結果である。「疲労感を解消し、健康を維持すること」のみならず、「発想や興味の幅、感受性を広げること」「創造力を高めること」についても、管理職の9割弱が「そう思う」もしくは「まあそう思う」と回答している。

[図表-2] 部下が「仕事以外に大事にしたいこと」の仕事に対する効果

1 詳細は、山本勲・黒田祥子(2014)『労働時間の経済分析 超高齢社会の働き方を展望する』(日本経済新聞出版社)第10章を参照されたい。

4政府も働き方改革にコミット
背景の三つ目として、働き方改革に対する政府のコミットが強まっていることもあげられる。

2015年4月には「労働基準法等の一部を改正する法律案」が第189回国会に提出された。この法案は、第190回国会終了時点でも継続審議となっているが、「長時間労働抑制策等」と「多様で柔軟な働き方の実現」に関する改正内容が盛り込まれており、企業の労働時間制度に少なからぬ影響を及ぼす法案だといえる。

「長時間労働抑制策等」については、月60時間超の割増賃金50%に対する中小企業への猶予の撤廃、企業の時季指定による年休付与義務の創設等が盛り込まれている。

「多様で柔軟な働き方の実現」については、フレックスタイム制の弾力化(清算期間の上限を1か月から3か月へ)、企画業務型裁量労働制の対象業務の追加(課題解決型提案営業、裁量的にPDCAを回す業務)、一定以上の年収で高度な専門的知識を必要とする「高度プロフェッショナル」に対する労働時間規制の適用除外・健康確保規制等が盛り込まれている。

また、一億総活躍国民会議でも働き方改革の重要性が指摘され、これが契機となって労働基準監督署の立ち入り調査(重点監督)の対象が、月残業時間100時間以上から80時間超に拡大される等の対策が講じられた(2016年4月1日、厚生労働省「長時間労働削減推進本部」資料より)。同会議が公表した「ニッポン一億総活躍プラン」(2016年6月2日閣議決定)でも、働き方改革は一億総活躍社会の実現に向けた横断的課題として位置づけられ、法規制(下請代金法2、独占禁止法3)の執行の強化、労働基準法の36協定における時間外労働規制の在り方の再検討等が提言されている。

2 下請代金支払遅延等防止法。
3 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律。

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