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年をとった人を大事にするという考え方、つまり“敬老原則”を捨てるべき - 「賢人論。」第14回(前編)出口治明氏

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「賢人論。」第14回(前編)出口治明さんは「年をとった人を大事にするという考え方、つまり“敬老原則”を捨てるべき」と語る。

出口治明氏が『ライフネット生命保険(株)』を起業したのは2008年、還暦を迎える60歳の時だった。後の2013年には代表取締役会長兼CEOに就任。出口氏は、一般的には定年を迎えて隠居生活…という年齢にして、今なお精力的に活躍の場を広げている。保険会社の経営者だけに、その持論は「働く君に伝えたい「お金」の教養: 人生を変える5つの特別講義(ポプラ社)」「生命保険とのつき合い方(岩波新書)」などで展開されているが、社会保障関連の問題についても造詣が深く、各種メディアでの発言にも注目が集まっている。そんな出口氏が語る、高齢化の一途を辿る日本が歩むべき道とは?

取材・文/篠塚祭典(編集部) 撮影/公家勇人

年をとった人を再優先にするという考え方、つまり“敬老原則”を捨てるべき

みんなの介護 出口さんの多くの著書や、雑誌記事などを拝見していると、社会保障に関して深く考えていらっしゃると感じていました。そこで、まずお伺いしたいのですが、現状の社会保障において最も大きな問題点とは何だと感じていますか?

出口 年をとった人を最優先するという、いわゆる“敬老原則”を捨てるべきです。国民皆保険、国民皆年金という今の社会保障の原型が生まれたのは1961年ですが、その時代は、例えるならば、サッカーチーム、11人で高齢者1人を支えていました。その時代は敬老原則で良かったのです。1945年に戦争に敗れて、戦争で苦労したおじいさんやおばあさんを11人の若者で支えるという構図ですね。

みんなの介護 でも今は少子高齢化が進んで人口のピラミッドが崩れていますね。

出口 そうです。サッカーチームから3人で1人を担う騎馬戦になり、これからは現役世代1人が高齢者1人を背負う肩車の状態に移りつつあるといわれています。それに加えて高齢者の平均寿命が伸びているので、肩車をする時間も伸びています。肩車で何十年も歩いて行かなければならないとしたら、皆さんはどう思いますか?歩けるんだったら、降りて自分の足で歩いて欲しいと思いますね。つまり私1人では何十年も担えないから、おじいさんおばあさんもなるべく自分の足で歩いてください、と。

人口ピラミッドが崩れてしまった現状では、年齢に関わらず困っている人に社会保障を集中する考え方、年齢フリー原則にシフトして、負担も勤労者だけが負担する所得税から全市民が負担する消費税にシフトしていくべきです。それが、高齢化先進国であるヨーロッパが辿ってきた道です。アメリカを比較対象にする人もいますが、今もなおサッカーチームがラグビーチームへ移りつつある人口が増加しているアメリカと日本を同じ土俵で考えるのは誤りです。

みんなの介護 世界一、高齢化が進んでいる日本のこれからの高齢化対策、中でも介護問題には世界中が注目していると思いますが…。

出口 介護が必要な人は、(平均寿命)-(健康寿命)で算出できます。A-Bですから小学生にも分かりますが、介護が必要な人を少しでも少なくするには、Aを小さくするかBを大きくするしかない。Aを小さくするのは、大好きなおじいさんおばあさんに早く死んでくださいということですから。そんなことができるはずがありません。できるのは、Bを大きくすること。つまり健康寿命を伸ばすことしかありません。

みんなの介護 具体的にどうしたら良いのでしょう?

出口 医者に聞けば、異口同音に「働くこと」だという答えが返ってきます。朝起きて、行くところもすることもなければ、1日中パジャマでダラダラしてしまう。これでは健康に良いはずがないですね。行くところがあって、することがあれば、洋服を着替え、ひげを剃り、化粧をして身体もシャキっとします。働くことが、健康寿命を延ばす最も有効な方策です。

「賢人論。」第14回(前編)出口治明さんは「世界の先進国のなかで、定年制があるのは日本だけ。定年は年齢による差別」と語る

世界の先進国のなかで、定年制があるのは日本だけ。定年は年齢による差別

みんなの介護 出口さんがおっしゃりたいことはわかりました。とはいえ、年をとると定年退職するのが一般的ですよね。

出口 僕は定年制を廃止すべきだと思っています。世界の先進国のなかで、定年制があるのは日本だけです。アングロサクソン型の社会では、定年は年齢による差別です。働きたいという意欲、職場に来て働ける体力、働くのに必要な能力が備わっていても、年齢だけで退職に追い込まれるのは、おかしいと思いませんか?

みんなの介護 確かに、その3つがそろっていたら問題なく働けますね。実際、元気な高齢者はたくさんいますし。

出口 定年制を廃止したら、日本の企業は年功序列賃金をやめて同一労働・同一賃金制をとるでしょう。いつまでも高い給与を払い続けるのは企業にとっても負担になりますから。でも、これは政府が目指している方向ですから、政策としては整合的で問題ありません。

定年制を廃止すると若い人の働き口が奪われると言う人もいますが、数字で言えば、この国は2030年には800万人の労働人口が不足するという推計もあります。定年制をやめたくらいでは、若者の働き口はなくなりません。

「定年制をなくすと、例えば認知症になってしまった人はどうするんですか?」と聞く人もいます。でも若くても認知症になる人はいます。意欲、体力、能力のうちの一部が欠けるわけですから、経営者としては解雇を考えるべきです。日本は先進国のなかでは法制度的には比較的解雇しやすい国でもあるので、一定の金銭を支払って解雇を行うというルール作りを工夫していくべきです。

みんなの介護 日本は解雇しやすい国…と言われても、いまいちピンとくる感じがしないのですが。

出口 解雇の手続きの不便さや、予告期間、解雇手当金などの評価項目に、更新回数の制限や行政機関の監督などのウェイトをかけて算出した「一般労働者雇用保護指標」というものがあります。

その数値をOECD平均と比較してみると、日本は労働の流動化が進んだアメリカなど一部の国を除けば、全体的にみて解雇しやすい国であるといわれています。ただ、解雇の自由は、セーフティネットの充実とセットで考えなければ不十分です。

みんなの介護 職を失えば収入がなくなるわけですから、セーフティネットとは必ずペアでないと困ります。

出口 国民年金と国民健康保険は、もともと自営業の…例えば八百屋のおじさんのための制度です。彼らは70歳でも80歳でも店番ができて、いくつになっても働けるから年金なども少なくてもいいという考え方で制度が作られました。でも、雇われている人はそうはいかない。厚生年金はもともと被用者のための制度です。それなのに、いつの間にか厚生年金は正社員のもので、パートやアルバイトの人は国民年金になってしまっています。

パートやアルバイトの人は、被用者のなかでも一番立場が弱い人で、だからこそ本来的には厚生年金で守らなければいけないのに。すべての被用者は、正社員でもそうでなくても、労働時間に関わらず全部厚生年金を適用すべきです。これが適応拡大の問題です。

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