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ブロックチェーンに漂う暗雲?/革新的技術の社会での受容の難しさ

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◾ブロックチェーンのイベント

先日(9月8日)に開催されたブロックチェーン・イノベーション2016(GLOCOM View of The World シンポジウム)*1に参加してきた。このイベントは昨今非常に話題になってきているフィンテック関連の中でもとりわけ注目度が高いブロックチェーンがテーマであり、しかも、登壇者も、ブロックチェーン関連では錚々たるメンバーでもあり、非常に楽しみにしていた。

加えて、今回は特に、ブロックチェーンの関係者を震撼させることになった事件、いわゆる『The DAO事件』後に開かれる本格的なブロックチェーンのイベントということもあり、ともすればこれまでどちらかというと楽観的な空気が支配していたこの業界の界隈でどのような変化が起きているのか大変気にかかっていたこともあり、その意味でも開催が待ち遠しかった。

◾ブロックチェーンに関連した詐欺事件

『The DAO』事件というのは、ちょうど今回のイベントの登壇者でもある、MITメディアラボの松尾真一郎氏や、ヤフー株式会社 CISO Boardで国際大学GLOCOMの客員研究員でもある楠正憲氏の解説記事もあるので、詳しくはそちらをご参照いただきたいが*3

2016年の5月末に、ビットコインに次ぐ規模で展開されている暗号通貨Ether(イーサ、パブリックブロックチェーンの『Ethereum(イーサリアム)』上で流通する)を通じて約156億円の資金を集めた事業投資ファンド『The DAO』が、6月17日にコードの脆弱性を突かれ、資金の3分の1が流出した事件だ。

事件の解明が進んで行くと、イーサリアム自体の安全性が直接損なわれたわけではなく、投資ファンド『The DAO』のスマートコントラクトのプログラムコードに脆弱性があり、その脆弱性を突かれたのが直接の原因のようだが、流出したEtherをThe DAOの手元に返還するためには、まず凍結するためにイーサリムのソフトウエアを修正する『ソフトフォーク』、返還するために『ハードフォーク』という手続きが必要で、7月20日に、このハードフォークが実施され、返還も行われたようだ。

楠氏の説明によれば、この修正を行うためにはEtherの報酬を目当てにコンピュータ資源を提供する『採掘者』の協力が不可欠だが、暗号通貨のフォークを認めると、価値の根拠となる発行残高を後から操作できてしまう上に、今後も事故が起こった際には、毎回当局からの介入を要求されるリスクが増すことになり、消極的な意見も少なくなかったという。確かに『何もするべきではない』という意見も飛び交っていたと記憶している。

自分で書いていても、あまりの難解さに、頭がくらくらしてきそうだが、本件の真相を一般人が理解するのはものすごく骨が折れる。だから、大抵の人は、この暗号通貨(Ether)自体に脆弱性があったと勘違いしてしまってると思われる。確かに、ハードフォークを実施せざるを得なかったことで、今後のEtherの運営に影がさしたことは間違いなかろうが、あくまで脆弱性があったのはThe DAOのプログラムで、Etherではない。だから、Etherは不正に送金されはしたが、このEtherは攻撃者が自由に動かせる状態にあるわけではない。少なくともブロックチェーンそのものの致命的な欠陥が見つかったというような問題ではない。しかしながら、一度ネガティブな風評が立つとこれを払拭するのは容易ではない。これからは無理解な世論の壁はすごく厚くなるだろうし、日本の組織の上層部の理解の程度は一般人と五十歩百歩だろうから、組織内での決裁にもこれまでよりずっと時間がかかることになるだろう。

◾パネルディスカッションの様子

松尾氏と楠氏も同時にパネラーとなって行われたパネルディスカッションでは、あらためて、ブロックチェーンのセキュリティ上の問題は完全に払拭したわけではない(数学的に証明されたわけではない)こと、そして、それ以外にもいくつかの弱点を持っていて、本格的な普及にあたってはまだ超えるべきハードルがいくつもあること等が語られることになった。ただ、このシステムにいくつかの弱点があることは以前から認識されていたことではあり、過去に私も参加した、GLOCOM主催のブロックチェーンに関わる別のイベントにおいても具体的にいくつかの弱点について取り上げられていたが、登壇者の面々からは、大量のベンチャー資金が投入され、意欲ある起業家が参集して試行錯誤が繰り返されれば、早晩解決されていくに違いない、という前向きで楽観的な雰囲気が感じられたものだ。それと比較すると、今回は、悲観的というと言い過ぎだが、予想以上に重苦しい空気が充満していた。

それでも楠氏は、失敗を通じてこそ学べることもあるのだから日本で取り組む企業もたくさん失敗して学べばいい、という、慎重な中にも原則楽観的なご意見だったが、松尾氏は『The DAO事件』をもうすこし深刻に受け止めていて、ちょっとしたトラブルが数十億円規模の巨額な損失に直結してしまうような、この種のビジネス領域においては、西海岸のベンチャー企業のような(The DAOはドイツだが・・)、どんどんスタートして失敗したら潰して次の新しい起業にシフトする、というマインド/モデルが通用しないことを見せつける機会になってしまったと嘆き、多くの日本企業のような、事前にリスクに対して万全に準備した上で始めるようなやり方がむしろ新しいモデルになっていくのでは、というようなコメントもあった。

この点については、MITメディアラボ 所長、伊藤穣一氏も別の場で、現状のブロックチェーンは、まだ仮想通貨に続くキラーアプリが登場していない段階であり、今後は多様なアプリが相次ぎ開発されていくと見込みながらも、ブロックチェーンはインターネットとは重要な違いがあり、『インターネットの世界では、失敗してももう一度挑戦ができた。今のブロックチェーンの多くはお金や資産を扱うため、そうそう失敗はできない』と述べている。伊藤氏は、The DAOの脆弱性によるトラブル発生を事前に指摘しており、実際その通りになった。

*4

いずれにしても、このパネルディスカッションでは、ブロックチェーンが今後燎原の火のごとく爆発的に普及していくとする楽観論は明らかに一掃されていて、将来的な可能性は確信しつつも、当面の動向については慎重な見方をする発言が多かった。

◾自動運転車の事故の後との共通性

このやり取りを聞いていて、私は、自社が発売した自動運転車が死亡事故を起こして、昨今自動運転車のネガティブなイメージをリードするようになってしまった感がある、テスラモーターズのケースを思い出してしまった。こちらのほうも事故の解明が進むと、システムとしてはレベル2*5に相当する程度の自動運転車なのに、ドライバーがシステムを過信しすぎた結果事故が起きたことがわかってきた。もちろん、突然進路に突入してきた車を正しく認識できなかった人工知能の能力にも問題があり、改善の余地があることは確かだが、少なくとも現段階の前提は、あくまでドライバーが主、システムは補助の役割だったはずで、だから人工知能など信用できないと結論を急ぐのは早計だ。客観的に見れば、今足下で急激に進行している人工知能の機械学習が進めば、遠からず解消してしまう可能性は高そうに見える。

だが市場に与えたネガティブな印象は実態以上に増幅されている。完全自律自動運転車の投入を待ち望む市場の期待に満ちた雰囲気に冷水を浴びせることになってしまった。米国NHTSA(国家道路交通安全局)の局長のマーク・ローズカインド氏が6月にデトロイトで開催されたカンファレンスでは、衝突の回避という点で従来の自動車よりも『2倍』優れた技術であれば容認するとの考えを明らかにした一方で、NTSB(国家運輸安全委員会)局長のクリストファー・ハート氏は、完全自律自動運転者は実現しないとの意見をMIT・テクノロジー・レビュー誌のインタビューで述べている。

本音のところ、完全自動運転車が普及して従来の自動車販売が激減してしまう悪夢の未来を恐れる既存の自動車会社は、水面下で胸をなで下ろしているのではないか。そして、ユーザーの自動運転車への不安感の背に乗っかって、『ドライバーが主、システムは補助』が自動運転車のリーズナブルな将来像であるとのムードを市場の主旋律にすべくキャンペーンを張っていくことも考えられる。技術の競争とは別にこういう情報戦があるのも、社会(市場)の現実であることは認めないわけにはいかない。

いずれも、技術自体の問題という以上に、市場の反応(過剰反応)というか、社会での新技術の受容の難しさが表面化してきている事例と言えそうだ。

◾革新的な技術の社会の側の受容

私は、以前に、直接一般消費者との接点を持つ分野においては、革新的な技術が登場しても、浸透するまでには紆余曲折があって、場合によっては長い時間がかかること等につき、ブログ記事を書いた。手前味噌だが、その記事から引用させていただく。

前にも何度か指摘してきたことだが、人工知能(およびその周辺技術)の浸透は、自動運転車やペッパーくんのようなロボットや、あるいは先端医療のような人目についたり、人の生死に関わったりする分野より、地味で目立たないが実効性の高い分野のほうが、浸透も進化も早いし、今後はその差はもっと大きくなるだろう。というのも、直接一般消費者と関わりを持つ分野は、どうしても潜在/顕在を問わず、忌避感、拒否感、あるいは倫理意識、宗教観等の壁にぶつかり、進歩が止まったりスピードが鈍りがちだ。中には理由を列挙できないが『なんとなく違和感がある』という感じの反対理由も少なくないが、こんな理屈を超えた拒否感等の感情を覆すのは容易なことではない。法律も未整備で整備のためのコンセンサスも容易には収束しないことも予想される。

史上、新しい技術が出現して浸透する過程では、いつでもそうだが、社会の仕組みの急激な変容を迫る技術については、社会の側からの反発も強い。とりわけ、今日(そして今後)の技術進化は企業コミュニティのような社会の中間集団も猛烈なスピードで解体してしまいかねない。かつて自動車工場に産業用ロボットが導入された時のような、ほんの一部の工程に置かれて、人間の労働者に『聖子ちゃん』だの『百恵ちゃん』だの身に似つかわしくない名前をつけてもらったような牧歌的な時代とはわけが違う。

もちろん、自動運転車は事故を減らし、先端医療は患者の命を救い、ロボットは人手不足が深刻になる日本の救世主となることは確実だ。だが、身体を持つ人間は、理屈で理解できたとしても、身体のリズムを超えてあまりのスピードで変化するものを、急には受け入れることができない。少なくとも受容に時間がかかる。ところが、そのような一般消費者と直接関わらず、関係者の間で理想的なWin-Winの関係を構築できるビジネス分野は沢山ある。そういう分野では、これから猛烈な進化が期待できる。

人工知能のビジネス利用はどのように進むのか - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る

そういう意味では、ブロックチェーンについても、ビットコインやEtherのような一般消費者を巻き込んだ大掛かりな仕掛けは相応に障壁も高く、対処に時間がかかるから、当面、企業グループ内/業界内等での利用で先行して、技術を磨き、ビジネスモデルを洗練させ、再び大きく花開くべく準備するほうが得策に思える。伊藤穣一氏の言うようなキラーアプリも、クローズドなサークルの中のほうが、生まれやすく育ちやすいように思う。

実際、2016年版の米ガートナー社のハイプサイクルにも、ブロックチェーンは今『過度な期待のピーク期』にあり、これから『幻滅期』を迎えるであろうことが示されている。

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