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サイバーダインの技術によって国の財政さえ豊かにする。そうすると必然的に、未来や世界に目を向けていかなければならない―「賢人論。」第17回山海嘉之氏(中編)


サイボーグ型ロボットHAL®(Hybrid Assistive Limb®)で、その名を世界に轟かせるサイバーダイン。その設立者であり、開発の第一線で活躍する山海嘉之氏は、「重介護ゼロ®を数年のうちに実現したい」と先を見据える。介護現場の救世主ともなる可能性について、そのビジョンを詳しく語ってもらった。

取材・文/篠塚祭典(編集部) 撮影/編集部

便利になるテクノロジーが入ってくれば少しは楽に仕事ができて、その余力でもっと高度な仕事ができる

みんなの介護 HAL®をこの取材の場までお持ちいただきましたが、これを装着して、「動け」と脳が指示を出せば動きをアシストしてくれるということですよね…すごいことです。HAL®は、実際に装着するまでにどのくらいの時間がかかるものなのでしょう?

山海 腰に装着するタイプでしたら、センサーをつけてしまえばものの数十秒ですね。

みんなの介護 そんな短時間でつけられるんですか!驚きです。海外でのHAL®の受入れはどうなんでしょうか?

山海 日本とは違う形ですが、世界でも実はロボットというものに対する抵抗感みたいなものはあるのです。いや、むしろ新しいもの好きで異文化の受入れが得意な日本より、その抵抗感は強いかもしれません。

みんなの介護 そうなんですか?少し意外な感じがしますが。

山海 ずっと昔に同じようなことが起きています。1970年代後半~1980年代前半ですね、産業ロボットというものができました。そのときヨーロッパやアメリカの技能者たちは、労働現場にロボットが入ってくることに強く反対しました。「自分たちの仕事が奪われる」と考えたからです。プラカードを掲げての反対運動にも発展したんですよ。

その結果、ヨーロッパやアメリカでは産業用ロボット開発は、停滞しました。日本では「自分たちの仕事が奪われる」ではなく、「自分たちの仕事がロボットにはできるわけがない」という考えがありました。しかし、日本は異文化の融合に寛容で「試しにやってみようか」という国なので、多少の抵抗もあったでしょうが、現場の方々からの暖かいコメントがフィードバックされ、世界に先駆けて発展的に、普及していったのです。

みんなの介護 そういった流れがあったのですね。

山海 そして、日本では産業ロボットの開発が進んでいきました。産業ロボットが普及して技能者たちの仕事がなくなったかと言えば、そんなことはありません。結果、産業ロボットが人に変わってしている仕事は、重いものを運ぶことや、危険な作業、単純な繰り返しの作業。働く人たちはもっと高度な仕事、ロボットに指令をしたり、セットアップをしたりする仕事に専念できるようになりました。そうして、今や何分かに1台自動車が作れるようになったんですね。

みんなの介護 介護の現場でも今、産業革命に似たような流れが起きていると考えていいでしょうか?

山海 対人なのでまったく同じとは言えませんが、同様の流れが起きるのではないかと期待しています。もう少し便利になるようなテクノロジーが入ってくることによって、少しは楽に仕事ができるようになって、その余力の部分でさらに暖かみのある大切な仕事ができるようになるはずです。人がする仕事は、そういう部分の仕事にシフトしていけるんじゃないかと思っています。

みんなの介護 介護がもう一段階上がるというか、次の段階に進むといった感じでしょうか。


できなくなったことを、技術が介入することでできるようになる。私たちの技術で叶えていきたい

山海 例えば麻痺のある患者さんの運動治療などの部分でいうと、医師や理学療法士さんなどのメディカルスタッフは、通常はしゃがんで患者さんの足を一生懸命動かしたり、中腰になって支えたりしていますよね。しかし、ドイツで既に行われているような脊髄損傷患者さんの機能改善治療処置での医療用でのHAL®を使ってもらえば、HAL®と転倒防止のためのトレッドミルを一体的に運用しているため、メディカルスタッフは患者さんと目線を合わせて、お話をしながらHAL®治療ができるわけです。

さらに薬品でも、治療法のなかった希少性の進行性神経筋難病に対してHAL®によるアプローチが可能になり、治験(承認を得るための臨床試験)によって有効性と安全性が確認されたため、日本では新医療機器として薬事承認され、患者さんの進行抑制治療に医療保険が適用されることになりました。

弱ってしまった神経同士のシナプス結合、神経と筋肉のシナプス結合を強化させ、再学習や機能再生させていくという新たな治療技術として、この医療用HAL®の技術が使えるわけです。

みんなの介護 画期的ですね。HAL®の開発には、実際に医療や介護の現場をご覧になったんですか?

山海 はい。私は筑波大学で教授をしているのですが、教え子たちの中には介護施設に1~2週間滞在する体験をする学生もいます。途中でギブアップして帰ってきてしまうこともありますが、しっかりとした思いが必要な現場だということだと思います。

排泄のケアというのは現場でも難しいようですが、私は、可能であればトイレで用を足したいと思うんですよね。

みんなの介護 「オムツをつけているから、そのままでどうぞ」と言われても、抵抗があります。

山海 自分でトイレに行けるかどうかというのは大きなハードルで、そこを人任せにせざるを得なくなったときに、何かが変わってしまうと思うんです。だからできるだけ自分でトイレに行けるような方法を考えたいですね。身体の衰えによってできなくなったことを、何らかの技術が介入することでできるようになる。そういう部分を私たちの技術で叶えていきたいと思っています。来年にはプロトタイプをお見せできるかもしれません。


今、介護の目標としているのが“重介護ゼロ®”

山海 私が今、介護の目標としているのが“重介護ゼロ®”。社会の中から辛く厳しい重介護というものを激減させられるように、あるいはなくなるようにと考えています。

みんなの介護 「激減」「なくなる」という言葉がとても力強くて胸に刺さります。HAL®と同様、この重介護ゼロ®という言葉にも商標をとられているんですね。

山海 考えたキーワードや発想を、近隣諸国におさえられてしまうと、私たちは動けなくなってしまうので、自由に動けるようきちんと商標をとっています。

みんなの介護 先のことまで考え抜かれているんですね。

山海 物事を進める上で、ちゃんと動きやすい環境を作っておくことも重要です。こんな動き方をしているものですから、最近は経営についての取材も受けたりするようになりました(笑)。HBS(ハーバード大学のビジネススクール)のケーススタディのテキストにもなり、今年の4月に訪米してHBSで講演も行いました。コロンビア大学のMBA、南カリフォルニア大学のMBAの多くの大学院生が私たちの歩みを学び始めていています。

みんなの介護 この素晴らしい技術を、世界でどのように見せていくのか、今後の展開が楽しみですね。

山海 重介護ゼロ®社会を実現することと、そのための革新的サイバニックシステムを作ること。【Cybernics(サイバニクス)】とは、人・ロボット・情報系を複合した学術領域なのですが、4~5年のうちに、このサイバニックシステムからうまれたHAL®の技術を使い、人に対する機能改善、機能再生、そして各種支援技術を作ることで重介護ゼロ®社会づくりを進めていきます。

みんなの介護 4~5年…というと、本当に近い将来ですね!

山海 10年後、20年後なんて言うのはマイルストーンとしては少し長すぎるでしょう。4~5年という期間は、実現するという覚悟という意味も込めてですね。

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